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「いつも通りの感情で」田村優、イーグルス初のプレーオフ行きまでの献身。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
スキル練習に加わる田村(筆者撮影)

 ラグビーのリーグワン1部では、5月13日から上位4強によるプレーオフが始まる。

 旧トップリーグ時代から通算して初の出場となる横浜キヤノンイーグルスが1日、都内の本拠地でトレーニングの一部を公開。解散後、司令塔で日本代表経験者の田村優が取材に応じた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——このチームでプレーオフに進めました。

「入替戦に行くか行かないかというシーズンも戦ってきましたし、素晴らしいことだと思います」

 2011年度にNEC(現NECグリーンロケッツ東葛)の新人として挑んで以来のプレーオフ。いま所属するイーグルスでは、移籍1年目の17年度からの2シーズンを16チーム中10、12位で終えていた。

 潮目が変わったのは20年。元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介氏が監督となり、以後の2シーズンは田村が主将となった。実戦仕様のトレーニングとチームへの愛着を育む組織編成により、着々と成果を上げてゆく。

 21年からのリーグワン最終年度は8強入りし、22年は最後まで4強を争い12チーム中6位。22年のシーズン終盤にやや疲弊したのを受け、今季は戦力補強と年間計画の見直しを経て昨年12月の開幕を迎えた。

 シーズン中盤には沢木監督が主力組を早めに交代させたり、終盤に入るとチームリーダーが一丸となるようリマインドし続けたりしたことも奏功し、最後の第16節を迎える前にミッションをクリアした。

 イーグルスのプレーオフ初戦は13日。昨季王者である埼玉パナソニックワイルドナイツとの準決勝だ。第5節で対戦した際は19―21と接近した。

 田村はその日、コンディション不良のため不在だったとあり、当日の手応えを聞かれても「どうですかね。僕、その場にいなかったですけど」と話すのみだ。ただ、現体制3季目の進歩は実感しているようだ。

——4強入りの要因は。

「いいメンバーが揃ってきたのもありますし、チームとして成熟して、ピークなのではと思います」

——選手層が厚くなったのか。

「そうだと思います。誰が出てもいい感じがあります」

——チームが上位争いのプレッシャーを潜り抜けられた。

「東芝が負けちゃったから自分たちの望んでいる形でのトップ4ではなかったですけど(※)、シーズンを通して取りこぼしなく、安定感のある戦いはできたと思う。そこはチームとしても、クラブとしても大きな成果じゃないかなと思います。

選手は凄く成長している。皆でいいものを作るという思いもある。皆、頑張っているので、僕も頑張ってやっています」

※=最後までプレーオフの枠を争ってきた東芝ブレイブルーパス東京は、イーグルスが最終節をおこなう2日前に黒星を喫した。それを受けてイーグルスのプレーオフ行きが決定した。

——「ライザーズ」と呼ばれる控え組の奮闘について。

「ライザーズがいないとチームは成り立たないと思います。僕は、ライザーズ、ライザーズ、という(ことさらに強調する)のが好きではないのですが。…うーん、ライザーズの人は、ライザーズだと思っていない(自分が控えに甘んじていいと考えていない)。そこが一番、大事だと思っています。もし僕が試合に出るチャンスを得たら、自分の持っている能力を出すだけ、という感じです」

——第14節の後半29分、田畑凌選手が途中出場でリーグワンデビューを果たしました。その際、先発で出ていた田村選手は握手で迎えました。

「なかなかチャンスを掴むことのできない人が掴むというのは素晴らしいことだと思います。得るべくして得た機会だと思うので、本当におめでとうという気持ちがありました」

——新加入で南アフリカ代表スクラムハーフ、ファフ・デクラークの影響は。

「いいハーフ。ただ、キヤノンのハーフは皆、いいハーフなので。あと、彼(デクラーク)が(イーグルスに)順応するところと彼の特徴を活かすところは、うまくバランスを取ってあげないと。頭ごなしに縛り付けるのもよくないと思います。気持ちは、わかるところがいっぱいあるので。チームに合わせながら、自分たちの能力が出せるようには支えたいですし、僕もそれに乗っかりたいと思います」

 目下、最後の出場となっているのは第15節。昨季準優勝の東京サントリーサンゴリアスに9―11と迫った試合では、前半7分に途中退場した。

 逆ヘッドと呼ばれる、ボール保持者の進行方向に頭を入れるタックルを繰り出して転倒。脳震盪の疑いで退出を余儀なくされ、そのまま交代した。

 このプレーについて、防御を担当する佐々木隆道アシスタントコーチはまず「だめだよ、とは言っています。指導者としては、あれは『いい』とは言わないです」。正確なスキルを伝授する立場として、故障のリスクが高い逆ヘッドのタックルへは警鐘を鳴らす。

 ただ一方で、そのプレーが本人の「(相手を)止めたい」という意思の表れであるのもわかっていた。

「あのシーンだけではなく、今季、優が身体を張るシーンは多い。それは皆、感じています」

 田村は今季、全体トレーニング後の個人練習でタックルに注力していた。

 複数の選手を交え、佐々木コーチの助言に耳を傾けながら相手との間合いの詰め方、タックル時の姿勢を確認していた。

 本人は述べる。

「できるだけ、強い体勢で入る、といことだけですね」

 現在は脳震盪のプロトコルを経て、段階的に復帰を目指す。

 来るべき決戦へ、自然体で構える。

——チームの雰囲気は。

「これからあと3週間ラグビーができるチームは4つしかない。ラグビー選手としてもクラブとしても幸せなことだと思うので…。雰囲気…僕は気にしていなかったですが、いいはずです」

——ワイルドナイツに勝つには。

「まだ全然、考えていないです。オフ明けで。まずは自分の身体を整えて…。パナどうこうというより、楽しんでやることが一番じゃないですか」

——自身2度目のプレーオフ。

「言い方はあれですけど、ただの1試合。いままでやってきたラグビーのなかの1試合に過ぎない。僕は、ちゃんとしたいつも通りの感情でやればいいと思います。ラグビーも大事ですけどね、そんなにフォーカスしてもよくないと思う。私生活とのバランスを取りながら、試合の日を迎えられたらと思っています。

 目標は達成しているので。そして、新しい目標を持てるチャンス。1個、勝つか、2個、勝つかということ。どっちにしたってあと2試合(準決勝の次は決勝戦もしくは3位決定戦がある)。決勝、準決勝とか(カードの位置づけ)を考えず、(最初の)相手がパナソニックだというだけで、1週間、自分たちのものを見せる準備をすれば、いい試合になると思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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