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「チームに残ろうが、離れようが、変わらない」。トム・テイラー万感の思い。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨季は2015年度以来の国内4強入りを支えた。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 4月21日、東京・秩父宮ラグビー場。特別な思いを抱いてフィールドに立つ戦士がいた。

 元ニュージーランド代表のトム・テイラーは、東芝ブレイブルーパス東京に在籍3シーズン目の34歳。この日は国内リーグワン1部・最終節に、定位置のスタンドオフで先発した。

 勝ち点を積み上げればプレーオフ進出の可能性もあったが…。

「個人的には、このチームで最後の試合となる可能性がある——」

 チームは来季、2人の現役ニュージーランド代表選手を加入させる。フランカーのシャノン・フリゼルとスタンドオフのリッチー・モウンガだ。

 リーグワンでは海外代表経験者はカテゴリーCと遇され、同時出場させられる枠、チームごとに登録できる枠に限りがある。

 今回、新たにカテゴリーCの選手が入ることは、かねてその枠を埋めていた選手が退団することと同義に近い。

 フリゼルとモウンガの獲得を発表した後、指揮官のトッド・ブラックアダーは選手の入れ替わりについて触れた。

ブラックアダーヘッドコーチ
ブラックアダーヘッドコーチ写真:つのだよしお/アフロ

 元ニュージーランド代表主将で、かつて同国のクルセイダーズのヘッドコーチも務めていたブラックアダー。今季、ブレイブルーパスに在籍するカテゴリーCの選手について、スキルはもちろん、人間性についても高く評価していたのが伝わる。

「その2人の選手(新加入選手の代わりに退団する可能性がある選手)は僕もよく知っているので、(対応は)難しくない。それをやりやすくしているのが、彼らの素晴らしい人間性です。また会社側が、今回のことを早い段階から本人たちに話してくれています。

 人間として素晴らしい2人。ラグビーがスポーツであることを理解していますし、東芝のためにプレーすることを好んでやってくれています。

 王者のマインドセットを持った2人。今季もチャンピオンになりたいと思っています。私が言えるのは、彼ら2人がこのチームに対して覚悟を持ってやってくれること。それは自信を持って言えます。人間として彼らを知っています。しっかりとレガシーを残したいという意識でやってくれています。自分がいなくなるまでにチームを向上させたいという意識で取り組んでくれています。そのあたりのことで問題は生じない。プロ意識を持った2人です。

 私も、そのあたりのこと(マネージメント)でうまくいかなかったことを(過去のコーチングキャリアで)経験しています。ただこのチームの、その2人に関しては、最後までチームのために戦ってくれると確信しています」

 テイラー本人はプロ選手とあり、自らが契約の詳細を口にすることはない。ただし、置かれた立場についての問いへは紳士的に応じる。

 結局、この日は埼玉パナソニックワイルドナイツに敗戦も、最後までチームの司令塔として奮闘した。会場に備え付けられたミックスゾーンで、今季を振り返った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——テイラーさん自身、このゲームにどんな思いで臨みましたか。

「エキサイティングな気持ちでした。プレーオフをかけて戦える、そして、個人的には、このチームで最後の試合となる可能性があるなか…いや、どの試合が最後になるのかがわからないなか、わくわくした状態で臨みました。個人として、自分たちのチームメイトとプレーを楽しみたい、できるだけいいプレーをしたいという気持ちで臨みました」

——周辺への取材を総合すれば、シーズン開幕後の早い段階でいまの状態となるのを理解されていたかもしれません。どうマインドを整え、戦っていたのでしょうか。

「最大限に楽しみたい思いでした。このメンバーと戦えることを楽しみたいと。決勝へ行ける能力があるチームだと思っていたので、それに近づきたかった。少し、及ばなかった!」

——どんな立場に置かれても、いまいるチームのために頑張れる。それはなぜだと思われますか。

「どんな試合でもベストを尽くす姿勢でやるのが、自分です。チームに残ろうが、離れようが、自分のスタンダードは変わらない。できることはすべてやる。チームを離れるとしたら寂しいですが、ここで過ごした3年間は充実していました」

——チームは2季連続での4強入りを惜しくも逃しました。これからは何が必要ですか。

「規律です。トップチームに対しての規律。強豪相手には、細かい部分がきっちりとできないといけません。これだけ競争の激しいリーグで5位になれたことも素晴らしいですが、トップチームはよりプレッシャーのかかった状態でもミスが少ない。ブレイブルーパスにも能力があるのは分かっています。ただ、大事な、プレッシャーがかかった時にできるか、できないかが大事です」

 プレッシャー下での判断力、誠実な練習態度、朗らかな性格で、周りの日本人選手へ好影響を及ぼした。

松永拓朗。フルバック兼スタンドオフの24歳は、都内の練習場で取材に応じた折にテイラーの凄みについて話した。

「お手本のような選手。ムラのない、常に同じようなプレーができる選手です」

 その背後で、淡々とゴールキックを確認していたのがテイラーだった。

一時来日のモウンガ(左)と握手するテイラー
一時来日のモウンガ(左)と握手するテイラー写真:つのだよしお/アフロ

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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