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「勝ち方」は知っているけど…。イーグルス沢木監督、4強決定前に心境【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 横浜キヤノンイーグルスは4月23日、東大阪市花園ラグビー場で国内リーグワン1部・最終節(第16節)に臨み、コベルコ神戸スティーラーズに52―26で勝利した。

 2日前に東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれていた同節で、5位の東芝ブレイブルーパス東京が埼玉パナソニックワイルドナイツ(前年度王者ですでにプレーオフ進出決定済み)に敗れた。リーグの勝ち点も得られなかったため、イーグルスはすでに上位4強によるプレーオフ進出を決めていた。

 もっとも第15節終了時点では、自力でのプレーオフ行きへ準備を重ねていた。それも当然。ブレイブルーパスの試合結果が出ていなかったのだ。

 スティーラーズ戦に向けてトレーニングを本格化させていた18日。都内の練習場で取材に応じたのは、沢木敬介監督だ。

 元日本代表コーチングコーディネーターの沢木は、2016年からの3シーズン、現東京サントリーサンゴリアスの監督を務めて初年度から当時のトップリーグで2連覇を達成。指導するチームに勤勉さ、攻撃的なスタイルを植え付けてきた。

 2020年、それまで下位に低迷したイーグルスの指揮官となった。21年1月からの旧トップリーグ最終年で8強入り。就任2シーズン目はリーグワン1部の元年に臨み、終盤まで4強入りを争っていた(最後は12チーム中6位)。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——週はじめのミーティングでは、選手にどんなことを話しましたか。

「トップ4に行けるかを自分たちがコントロールできる状況で、その可能性があるんだったら、他のことを考えないで、自分たちが次の試合でベストなラグビーをできるように。東芝がああだ、こうだとかは、もう、気にしないというか、無視して…ってイメージかな。

 俺としては、東芝が勝って、ぎりぎりで、自分たちで(プレーオフ行きを)決められる状況で、残っている試合を勝つというほうが、本当にこのチームが成長できると思っている。そういう状況を、何となく、望んでいる。(他会場の結果がどうであれ)乗り越える山は一緒なんだけど、その方が成長できる」

——シーズン終盤から、プレッシャーを乗り越える重要性を語ってこられました。

「自分の仕事にこだわりを持ってやる。例えば、毎回のスクラムで、『このスクラムをコントロールできればこの試合で勝つんだ』という思いでやっていなきゃいけない。それはラインアウト然り、バックスのスキル然り。

 練習からそういう気持ちで当たり前にやっていれば、試合中は『練習通り』でいいと思うんだよ。ただ、そういう気持ちじゃなく、(いざ試合になったとたん)『練習通りにやれ』と言ったって、プレッシャーがかかった状態では練習通りにはできないと、俺は思う。やっているつもりでも、できない。プレッシャーを力にするようなマインドセットを持ちながら練習しないと。…だって、12位のチームだよ?」

——沢木監督着任前のトップリーグで、イーグルスは16チーム中12位でした。 

「山も、高く登れば登るほど息苦しくなる。範囲(視野)も狭い。それを経験しながら、そこで何が必要か、何が大事かを(把握して)やっていかなきゃいけない。

 悪いけど、勝ち方というのは、知ってるわけよ。何回も勝ってるから。どういうチームが勝てるかという肝は、それこそどの競技でも変わらないと思うし。ただ…このチームは、それを、段階を踏みながらやって(浸透させて)いかないと。急に『それ(「勝ち方」に準じた行動のすべて)を、やれ』と言っても、だめだと思う。

 勝つための1週間の準備。ここで『やっているつもりでもまだまだだ』と気づけば、『他の人に比べて甘いな』と思えば、それでいい。トップ4との差を、ちゃんと自分で感じながら成長できれば」

——選手に厳格な基準を示すと同時に、選手が自ら変わろうとするのを促す。もともと優勝争いをしていたサンゴリアスにいた頃とは、違ったチャレンジがあったのを想像します。

「俺だって年を取ってくるしさ。そりゃ、変わるだろう。俺、若い頃と全然、違うよ。皆に聞いても。伝え方も人それぞれ(適したものが)あるし、俺だってそういうのを学ばなきゃいけない。組織に、人に合ったことを、色々とやっていかなきゃいけない——」

 かねてブレイブルーパスが勝つのを前提に準備していたという沢木。実際、取材日の練習では、ラインアウトからの特別なサインプレーを入念に練習していた。

 その日は複数社のメディアが集まっていたとあり、グラウンド上の指揮官が立ち会っていた広報担当者に「撮っちゃだめだよ!」と情報漏洩を防ぐ意思も覗かせていた。

 果たして21日、自分たちが試合をする前にプレーオフ行きを決めた。迎えた最終節では、1度もリードを許さなかった。とはいえ26-12で終えた前半の内容には、やや不満足だったか。

 試合後に言った。

「きょうはこれがプレーオフのクォーターファイナル(準々決勝)だと思って、成長できる試合にしようと臨んだのですが、前半は自分たちが支配することが難しくて。後半、流れをしっかり引き寄せることができたんですけど、まだまだ成長できる部分がたくさんある。またさらにチーム一丸となって、気、引き締めて、プレーオフに向かいたいと思います」

 初のプレーオフでぶつかるのは、ディフェンディングチャンピオンのワイルドナイツ。今季の直接対決では19―21と接近しており、接点、キックバトル、好機のサインプレーに活路を見出していた。

 ノックアウトステージでの再戦においても、白星を目指す。

「トップ4になれた。優勝にチャレンジする権利を得た。パナソニックは素晴らしいチームだし、力があるし、いい選手がいる。ただ、僕は、あまり好きじゃないんですよ、当たって砕けろ的な滅びの精神は。なので、チャンピオンに対して勝つ準備をして、自信をつけていきたいです」

 ちなみにブレイブルーパスの試合があった21日には、チーム内、さらにはチームの選手限定のグループLINEにも一切コメントがなかったようだ。

 そして翌22日にチームは顔を合わせ、関西方面へ移動。その際の様子を聞かれたある選手は、指揮官の喜ぶ顔を見たという。

 当の沢木は、ブレイブルーパスの試合をどのような思いで観たかと聞かれ、こう答えた。

「落ち着いて観ていました。ただ、あとから話を聞くと、プロパーの、キヤノンの歴史を知っている選手は、本当に感慨深いというか、感じるものがあったと思うんですよね。初のプレーオフ進出で、本当は喜びたかったと思います。ただ、今日まで我慢したみたいです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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