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ワイルドナイツ無敗ストップ。歴史的敗戦を経験のルード・デヤハーはどう見た?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
パワフルな突進とタックル、運動量が光る。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 埼玉パナソニックワイルドナイツの実戦無敗記録が47で止まった。

 4月15日に埼玉・熊谷ラグビー場で国内リーグワン1部の第15節をおこない、第14節まで8位だった静岡ブルーレヴズに25―44と今季初黒星を喫した。

 国内タイトル2連覇中のワイルドナイツはこの日、スクラムで苦しむ流れで防御を乱したり、要所でエリアを獲られたりした。

 この試合に出場しなかったワイルドナイツの主力組のひとりに、ルード・デヤハーがいる。

 今季新加入の30歳。身長206センチ、体重127キロの巨漢ロックとして、母国の南アフリカ代表でプレー。2019年にはワールドカップ日本大会に出て、同国3度目の優勝に喜んでいる。

 もっとも2015年のイングランド大会では、3位に終わったうえに初戦で日本代表に敗戦。当時の日本代表はワールドカップ通算1勝で、この競技においては発展途上国と見られていた。

 ブライトン・コミュニティスタジアムでのこのカードは世紀の番狂わせと言われたなか、勝利した日本代表の五郎丸歩(現静岡ブルーレヴズCRO)は「これは奇跡じゃなく必然です。ラグビーには奇跡なんてありません」と話した。

 デヤハーは、この試合にも南アフリカ代表のスターターとして出場していた。周囲に勝利を期待されながらチャレンジャーのハイパフォーマンスに気圧された点では、今度のブルーレヴズ戦とやや似ていた。

 4月19日、当時と現在について共同取材で振り返る。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ブルーレヴズ戦。どう見ましたか?

「彼らの努力の成果が出た。セットピースで圧倒された。スクラム、モール、ラインアウト…。ここを圧倒されると、勝つのは難しい」

———ご自身がプレーしていたら…とは考えないものですか。

「違いを生めたかと言われたら、難しい。ブルーレヴズさんがいいプレーをしていたし、天候も彼らに味方した。彼らのやりたいことは実行できていたと思います。私ひとりが出たことによってゲームを変えられたとは言い難い。いずれにせよ、それは神のみぞ知るところです」

——今回の試合までの約1週間と、2015年に南アフリカ代表が日本代表に敗れるまでの約1週間。似通った要素はありますでしょうか。

「(ワイルドナイツの)準備自体は、すごくよかった。選手たちも集中できていました。ですので、相手を甘く見ていたわけではありません。無敗記録が止まったことは悲しいことだと思っています。ただ、プレーオフ前にこのような負けがあったことは、何かのご縁だったのかもしれません。それがあったことで、プレーオフへモチベーションをどう上げていくかが課題です。

この負けからどうポジティブなマインドセットを持つかが、重要です。

 2015年、南アフリカ代表は日本代表に負けて、とても大きなショックを受けました。ただ、あれがあったからこそ準決勝に進めた(大会前から不振が懸念されていた)。その準決勝では、優勝するニュージーランド代表には僅差で負けましたが。とにかく、マインドセットは重要だと思います」

 ワイルドナイツには弛緩した空気がなかったとデヤハー。裏を返せば、2015年秋の南アフリカ代表では難しい精神状態でいたのがうかがえる。

 取材では、今秋のワールドカップフランス大会についても聞かれた。

——ワールドカップフランス大会の展望は。

「楽しみにしています。過去の大会では、もしかしたら優勝しそうだという国は2~3つ程度でした。しかし今度の大会では、6か国くらいに可能性がある。私としては、予選同組のスコットランド代表、アイルランド代表が見逃せません。特にアイルランド代表は、あまり負けていない。またフランス代表も自国開催で強くなる。オールブラックス(ニュージーランド代表)はいつも強い。日本代表も、前回大会でいい成績を収めたので注目しています。他にはオーストラリア、イングランド、ウェールズも…」

——そのよう話は、日本でプレーする自国代表選手ともするのでしょうか。

「特に話していません。各自のクラブが優勝できるように、というのが焦点になっています。ワールドカップははるか先。その話を全くしないわけではないが、私たちのフォーカスはリーグワン優勝です。それを終えたら国際試合に焦点を向けます」

——現役の南アフリカ代表選手は、相次ぎ来日しています。ブルーレヴズには目下療養中のクワッガ・スミス選手、トヨタヴェルブリッツにはピーターステフ・デュトイ選手とウィリー・ルルー選手が在籍。今季はワイルドナイツにデヤハー選手、ダミアン・デアレンデ選手が加わったほか、もともとジェシー・クリエル選手がいた横浜キヤノンイーグルスにはファフ・デクラーク選手が入りました。皆さんにとって、日本は魅力的なのでしょうか。

「南アフリカと日本では、ラグビーにおいて真逆な点があります。日本はやっていて楽しいラグビーをしています。ニュージーランドやオーストラリアの選手もこの国に集まり、プレーしていると思いますが、それはリーグが競争的になり、よくなっているからです」

——デヤハー選手はなぜリーグワンで。

「2015、2019年(ワールドカップ日本大会で優勝)までに何度か日本でプレーする機会があり、常々、いつかここでプレーしたいなと思っていました。また日本のシーズンは他国に比べやや短い。家族との時間を十分に過ごせるとも思いました。試合数が少ないことで、自分のいいコンディションを整えられもします。もちろん、日本のラグビーが成長している点も考えました。

私が過去にプレーしていたイングランド、南アフリカではセットプレーやディフェンスに力を入れています。ただ日本はアタックをする国だと感じています。そのためアタックのマインドセット、細かいスキルがよくなった」

 21日にはレギュラーシーズン最終節があり、初戦でもぶつかった東芝ブレイブルーパス東京と激突する(東京・秩父宮ラグビー場)。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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