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僕の影響力は、大きい。姫野和樹が見た現実とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真提供JRLO)

 自分が引っ張るしかない。日本代表の姫野和樹は、所属するトヨタヴェルブリッツでそう決意していた。

 3月25日、地元の豊田スタジアム。加盟するリーグワン1部の第13節で、戦前まで開幕12連勝中の埼玉パナソニックワイルドナイツを迎える。

 フランカーとして先発の姫野は力強い突進を重ね、堅守で際立つ相手の反則を誘発。80分間中20分間は、相手にイエローカード(10分間の一時退場)が出たため15人対14人で戦えていた。

 ところがその間には、敵陣で好機を得ながら攻めの起点となるラインアウトでミスを連発。トライは前半終了間際の1本のみに止まった。

 何より自軍も、序盤に反則を連発してワイルドナイツに得点機を付与。13分までに0―13とされていた。

 結局、10―19で屈した。相手のプレーオフ進出(4強以上)が決まり、自軍のプレーオフ行きの可能性は消えた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「結果としては残念ですし、パナソニックさんの方が一枚上手だと認めざるを得ないと感じます。前半のところで相手に主導権を渡してしまった部分がある。自分たちのペナルティが多くあった。あとは後半の大事な部分でのラインアウトのミス…。そういう小さなところが、試合(勝敗)に出てしまった。今後、隙のないよう準備したいと感じています。

ただ、チームのメンタリティは変わってきている。選手のエフォート(努力)は本当に最高だったし、チームの皆のことを誇りに思います」

——反則が増えたわけは。レフリーとのコミュニケーションは。

「コミュニケーションは取りましたけど、そこで自分たちが変えられなかったのは至らない部分です。かつ、パナソニックさんのプレッシャーに負けてペナルティを犯す場面も多くありました。練習で意識づけする必要があると感じています」

——相手がひとり、少なかった時間帯の手ごたえは。

「本当にスコアは狙えると思ったし、優位に試合を運べていた。それでも勝負の綾、大事なところでのミスが響いたと思っています。

意思疎通の部分…。(ラインアウトでは)サインミスもありましたし、タイミングが合ってない部分も。パナソニックさんと比べると、自分たちのコントロール、落ち着かせて、自分たちのプレーをする(ことに課題があった)。少し、自分たちは焦ってしまっていて、自分たちにプレッシャーをかけてしまっていた。『ラインアウト、速く、テンポで捕ろう』。その意識もわかりますが、まずサインが浸透していないとそれも実行できないです。そのあたりのゲームのコントロールのところは、ラインアウトリーダー、僕を含め、もっと話していかないといけないなと」

 勝負どころでの「落ち着き」を欠いたと反省する姫野だが、チームの変化には満足していた。

 というのも、今季は開幕からの9戦で3勝6敗と不振にあえぎ、姫野自身も怪我で一時離脱。ピーターステフ・デュトイ、ウィリー・ルルーといった南アフリカ代表経験者を擁しながら、攻守に繋がりを欠くシーンが多かった。

 変化を示したのは3月5日。昨季準優勝の東京サントリーサンゴリアスに27―20で勝利した。

 簡潔な戦法に徹して白星を得た裏では、元ニュージーランド代表指揮官で同部ディレクター・オブ・ラグビーのスティーブ・ハンセンが練習で陣頭指揮。その流れは現在もなお続き、スクラムハーフの福田健太は効果を実感する。

「月、火曜日はスロー(ゆっくりと動きを合わせる)。極端に言えば、(前日に)寝ていなくてもできる動きなんです。ただ、キャプテンズラン(試合前日練習)の前の日の練習は試合よりもきつい。スティーブは、その辺のコントロールがうまいなと思います。おかげで、ゲーム中はしんどいですが、その(一番タフな)練習よりはしんどくないです。あと、スティーブは自信を持たせてくれる。『他に不安なプレーはないか?』(と確認をとる)。落ち着いていて、明確です」

 それと並行して意を決したのが、クラブの顔たる姫野だった。

 ルーキーイヤーの2017年から主将を務め、2020年にはスーパーラグビーのハイランダーズ入り。今季は共同主将として相方の古川聖人ら後輩のリーダーを支えるつもりでいたが、仲間たちの混迷を受けて考えを変えたという。

 心境を問われ、自らの立ち位置をかように可視化した。

「やっぱり、リーダーであるべき人間が、リーダーシップをとるというのが大事だと感じました。若い世代の選手も育っていかなきゃいけないというなか、僕が少し、すましていた部分もあった。でも、トヨタというチームは、僕が全面にパッションを出してリーダーとしてやっていくということをしないと、奮い立たないと感じました。僕のチームへの影響は、高い(大きい)のだなと感じました。僕がリーダーシップを見せることで、周りの人間にいい影響を与えることが必要だと」

 図らずも、この人の有事における集中力と求心力が証明された。

 福田が「姫野さんの人となり、それまでの努力も見てきています。言葉には重みがある」とするなか、本人はこうも言う。

——手応えは。

「ここ数試合を見てもらったらわかるように、チームがコネクトして、チームとしてラグビーができている。それが自分たちの強みになっている。そこが機能し始めているから、タイトなゲームになっている。ひとりひとりのメンタリティはすごく、変わってきました。チームとしてはいい方向性で進めていると感じています。ただ、そのなかでもう少しディテールを詰めるなど、小さなところの積み重ねはもっと意識しないといけないかなと感じています」

——リーグ戦は残り3試合となりました。休息週を挟み、4月8日には第14節をおこないます(対三菱重工相模原ダイナボアーズ/岐阜メモリアルセンター長良川競技場)。

「かなり順位は拮抗していますし、どれだけ高く上まで行けるかを考えています。この6連戦で、選手ひとりひとりが頑張ってチームのためにやってくれた。まずこの1週間、リフレッシュして、また来週からいい準備ができればなと」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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