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姫野和樹が見るヴェルブリッツ「迷い」の深層。サンゴリアスはなぜ負けた?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真提供=JRLO/第9節より)

 名言が出た。

「本当にただ、僕は、皆の心に火をつけた、だけです」

 ラグビー日本代表の姫野和樹は、3月5日、東京・秩父宮ラグビー場でのリーグワン第10節にトヨタヴェルブリッツの共同主将兼フランカーで先発。昨季準優勝の東京サントリーサンゴリアスに27―20で勝った。

 チームは南アフリカ代表のピーターステフ・デュトイら好選手を擁しながら、今季は前節まで3勝6敗と低迷していた。

 姫野も一時怪我で離脱しており、その間は「日本人選手が外国人選手に意見をぶつけられていないのかな…と。外国人選手の言ったことを、日本人選手が素直にやり過ぎてしまっている」と日本代表ウイングの髙橋汰地。ハイレベルな団体競技に求められる、選手同士の意思統一に課題を残していた。

 しかしこの日は、初戦黒星もその後全勝のサンゴリアスを大いに苦しめた。

 突進役をダイレクトに走らせる攻撃、前に出るタックルを貫いた。

 前半を15―5と10点リードで終えると、15―12と迫られて迎えた後半17分頃の攻めで右奥のスペースをキックで侵略。間もなくラインアウトを獲得し、モールからのトライなどで20―12とした。

 今季のうちもっとも戦力を最大化させられた80分を、姫野は勇ましく振り返っていた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——所感は。

「まずは勝てて、ひと安心しています。今週、何も特別なことはしていません。ただ、チームが少し迷っていた部分があったので、リーダーとして同じ絵、同じ方向性を見て、コネクトする。そしてチームに自信を与える。それだけにフォーカスして、準備しました。

なかなか結果が出ずに自分たち自身を疑ってしまうチーム状況でした。そこでやるべきことを明確にして、シンプルにして、やる。自信を持ってやる。それだけをリーダーとして伝えました。結果が出たことを嬉しく思います。

深く考えずに、自分のやること、与えられた仕事を全力でやってくれと伝えました。プレーを見ていただいたらわかるように、シンプルにアタックしました。ディフェンスもシンプルに、ハードに、自分たちの強みであるフィジカルを活かして戦いました」

——「チームが少し迷っていた」のはなぜか。

「自分たち自身で複雑化したところがあると思います。ダイナボアーズ戦(今季初黒星)から長く低迷したのですが、そこから色々と(プレーについて)変化させたり、戻したり、ということがチームのなかであった。複雑化したことが、迷った部分に繋がったと感じます。この試合を機に、自分たちのやるべき方向性をチーム全体で理解したと思うし、ここから浮上するにあたって、謙虚に、ひとつひとつ積み上げて、準備していく。それが今後のリーダーとしての課題になると思います」

——一時、姫野選手がゲームに出ていながらデュトイ選手がゲーム主将を務めることがありました。

「ベン(・へリングヘッドコーチ)とも話しましたが、デュトイ選手は経験値を持っている。彼の経験値をチームに浸透させたいところもあった。ピーターは、ああいう(真面目な)性格なので、なかなかものを言うタイプじゃないので、主将という立場でチームにいい影響を与えるという意図がありました」

——改めて、今週はチームにどんなアプローチを。

「本当にただ僕は、皆の心に火をつけた、だけです。トヨタのスタイルはパッションを持って、愛情を持って、エナジーを持って、やること。それが自分たちのカルチャーであり、強み。ひとりひとりのパッション、エナジー、愛情の火を付けるのが、僕の役割だったと思います。それを1週間かけて、チームでコネクトしてパッションを出してやってくれとアプローチした結果だと思います。

 明確に、シンプルに伝えて。『自分たちの強みはどれか? カルチャーは何か?』という話も試合前にしました。何より自分が練習からパッションを出して、姿で見せる。その自分のリーダーシップの原点に戻ってやった結果です」

 春日丘高校(現中部大春日丘高校)、帝京大学を経て、旧トップリーグ時代の2017年に入部。就任したてだった当時のジェイク・ホワイト監督のもと、ルーキーイヤーから主将を任された。

 当時はかねてヴェルブリッツが得意としてきたフィジカリティ勝負に注力。低迷するいまのチームにあって、プレースタイルを含めた「カルチャー」を見つめ直すのは自然な流れだったか。

 今回の「火をつけた」という逸話については、フッカーの彦坂圭克はこう補足する。

「皆の気持ちを盛り立てる声かけがあった。響きました。全部、響きました」

 かたや敗れたサンゴリアスでは、就任1年目の田中澄憲監督がこう述べる。

「『最後の20分で突き放すまでしっかりと自分たちのテンポで戦う』のをターゲットにしていたのですが、タッチを蹴るべきところで2回、蹴られないなど、エクスキューション(遂行力)の部分でトヨタさんに勢いを与えるプレーをしてしまったと思います」

 後半6分頃だ。

 サンゴリアスは中盤でキックを確保すると、複層的なラインを敷いて攻めを継続。時折、接点に圧をかけられながらも、分厚いスイープでヴェルブリッツの反則を誘った。

 ところが直後のペナルティーキックをタッチラインの外へ出せず、チャンスを逃した。田中監督が言う通り、かようなミスはこれでこの日午後2度目だった。

 以後も攻めては再三、数的優位を作った。ここまで蓄積してきた運動量と組織力を披露したわけだが、決定力に不満を残した。

 スクラムハーフで先発の齋藤直人は、「僕が感じたことですけど、試合を通してチームのエナジーが少し足りなかったと感じます。リーダーとして試合中に改善すべき点でした」と話し、自分たちにベクトルを向けた。

「前半からかなり(ヴェルブリッツの防御の)ラインスピードが速いと、9番(攻撃の起点のスクラムハーフ)の僕でも感じていた。ですので、外側の選手も感じていたと思います。ただ、そこに適応しなければならない。ハーフタイムに喋っていても、(誰もが)『スペースはある』と見ていたんですが、内側まで伝達するところ(に課題があった)」

 後半9分から登場してタックル、突進で魅したフッカーの堀越康介共同主将は「前半、『ちょっと、フォワード…まとめないとな』と思いました」と振り返った。

「(序盤は)フォワードが走り負けている感があったので、後半は僕が入って走り勝とうと意識しながら入りました。チーム全体として、少しパッシブ(受け身)だったかなと思います。最後まで我慢強くアタックできなかった。勝負どころでのミスが多かった。逆に、トヨタさんは我慢強くディフェンスをしてきてくれた」

 考えさせられるのはふたつ。チームが生き物であるという普遍と、組織のバイオリズムが勝負に与える影響についてだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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