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帝京大学の奥井章仁、ハーフタイム後レフリーとグラウンド入りのわけは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は青山学院大学戦。プレイヤーオブザマッチを受賞していた。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 前年度の大学選手権を制した帝京大学ラグビー部が、今季最大の試練に直面した。

 10月2日、東京・江戸川陸上競技場。加盟する関東大学対抗戦Aの3試合目に臨んだ。対する筑波大学に前半を17―12とリードされる。

 昨季、選手権出場を逃し、今季も開幕2連敗中の筑波大学だが、パフォーマンスの内容には評価が高まっていた。外部コーチを含めた指導陣の充実、新戦力の台頭が目立つ。

 筑波大学はこの日、高低を織り交ぜたキックとその弾道を追う動き、1年生フランカーの茨木颯らによる接点での圧を効かせた。ナンバーエイトの谷山隼大も、スケールの大きな走りで魅した。

 かたや帝京大学は、安易なエラーが目立っていた。

 しかし、終わってみれば開幕3連勝。最終スコアを45―20とした。

 蹴り合いに備えて後衛の防御を厚くする筑波大学に対し、スタンドオフの高本幹也副将が自陣からの展開攻撃を先導。3年生フッカーの江良颯が後半から登場したことで、攻防の起点にあたるスクラムも制圧した。

 何より、ぶつかり合いの質を変えた。

「自分たちが受けていた部分、負けていた部分は明確だった。コンタクトで負けて、乗られていた。そこで、もう1回、身体を当てにいこう、と。帝京大の強さは圧倒的なコンタクトとスキル。(序盤は)スキルはよかったんですけど、コンタクトの部分で受けてしまっていた。それを明確にして、修正できたのでよかったと思います」

 こう語るのは奥井章仁。1年時から主力のフォワードで、3年目の今季はオープンサイドフランカーとして防御に注力する。

 この日も、後半6分にペナルティーゴールを決められ、12―20とされた直後のキックオフで魅する。

 最初の接点からパスを受けた走者へ強烈なタックルを打ち込み、起き上がり、目の前の接点に再び身体を当てる。筑波大学の落球を誘う。その後は、10分に19―20と点差を詰めるまで敵陣に居座った。

 ターニングポイントとなったコンタクトについて聞かれれば、本人は謙虚に返した。

「最初、1本、PG(ペナルティーゴール)を入れられてしまった。ただ、自分たちのやることは変わらない。身体を当てる。自分もコンタクトを売りにしていますし、先頭に立って身体を当てにいきました。ただ、これを80分通してできたらと、自分自身、思っています。オープンサイドフランカーはディフェンスの要で、激しいコンタクトを売りにしなくてはいけない。自分の売りをもっと、出していければと思います」

 身長177センチ、体重103キロ。大阪桐蔭高校では2年時に日本一となり、3年時には主将を務めながら20歳以下日本代表にもなった。帝京大学では2年時からリーダーシップを発揮していて、その様子はこの日の取材エリアでも見られた。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——試合を振り返って。

「(筑波大の強さは事前に)自分たちも認識していたんですが、そこを受けてしまい、前半は相手のやりたいようにされてしまった。ただ、後半は修正した。ひとつ、タフなゲームを乗り越えられたのは成長に繋がると思います」

——ハーフタイム明け。スタンド下の通用口からグラウンドに出てくる際、担当レフリーに声をかけていたような。

「いつも聞いていることなんですけど、自分たちの反則はどうなのか、(その日であれば)ラインオフサイドはどうなのか、自分の気になったところについて(質問した)。そこ(判定に対応できないこと)で崩れていくのはもったいない。建て直す、という意味でも、レフリーさんとコミュニケーションを取らせていただきました」

——聞いた内容はチームメイトに伝えるのですか。

「伝えることもありますが、逆にそれを伝えて(過剰に)気にしてしまうと…というところもあります。(聞いた内容を)自分のなかに置いておいて、何かあった時に伝えるという風にもしています」

 そう。試合を首尾よく運営するための情報を集め、その活用方法も間違えない。「激しさ」を売りにしながら、繊細さものぞかせる。

 チームは2017年度まで、大学選手権9連覇。常勝集団の強さの理由を、昨年度に初めて大学で優勝した奥井はすでに看破している。

——いまチームがどう見えるか。そしてどうしたいか。

「ひとつひとつ、小さなことなんですけど、よくはなっていると思います。今日も前半がよくない内容だったなか、後半に修正して勝ち切れたことも成長できた部分。けど、もっと求めることがある。ここに満足するのではなく、上を目指し、ひとつひとつ自分たちでやっていきたいです。コンタクトもセットプレーも売りにしていますが、そのスタンダードをもう1個、上げていきたい。あとは規律の部分です。ひとつひとつのプレーを丁寧にできるか、小さなことを丁寧にできるかで、他のチームとの違いを生める。帝京大が連覇していた時も、それがあったと思います」

 後半12分、24―20と勝ち越した直後のこと。プレー再開を待つ帝京大の仲間に向かって、奥井は「帝京! 小さなことね!」と発破をかけた。勢いに乗る時ほど、丁寧に戦いたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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