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新ポジション挑戦の早稲田大学・佐藤健次、将来は「海外でプレーできたら」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
関係者は中学時代から注目。逸材。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ひたすら勝ってきたから、ひとつの負けに大きく落ち込んだ。いまは、新たな挑戦を楽しんでいる。

 早稲田大学ラグビー部2年の佐藤健次が、8月下旬までに取材に応じた。

 桐蔭学園高校時代は、主将を務めた2020年度まで全国大会2連覇。自らの推進力、防御力と相まって白星を掴み続けてきたが、大学1年目のシーズンでは大学選手権の準々決勝で敗退した。

 関東大学対抗戦Aのカードで17―7と制していた明治大学に、15―20で敗れていた。

 まず、新シーズンを迎えるまでの心境を明かす。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——昨季終了からここまで。

「えーと、去年、一番、悔しい負け方をして、4年生が引退してしまって。僕は今年、勝負の年。去年も賭けていましたけど、去年の負けがあったからこそ今年に賭ける思いは強いと思います。春はポジション転向という大きな決断をして、ここまで少しずつ成長できているのかなと感じます」

——ポジション転向については後述していただくとして、まずは昨季終了後について伺います。

「(最後の試合は)観られなかったですね。(普段は)試合が終わったら毎回、振り返るんですけど。東海大学対明治大学の準決勝とか、決勝もフルでは観ていないです。離れたいというのがあったっす。悔しすぎて」

——そんなこと、それまでの人生でありましたか。

「ないっすね。花園(高校の全国大会)では小西(泰聖)さんの代(1年時)が準優勝。それも悔しかったですけど、次の日くらいから新チームが始まったので、切り替えざるを得ないというか、前年度の負けを次にどう生かすかを考えたんです。

 ただ大学は、(シーズンとシーズンの間が)ちょっと空くじゃないですか。負けて、しばらく休み、となる。そこで、無気力ではないですが、何もしない時期がありました。年末に地元にいたこともないので、『何でここにいるんだろうな』とも(学生ラグビーの大会は年をまたいでおこなわれる)。

 負けた日は何もしていないですし、12月はずっとぼーっとしていました。何をするにも身が入らないというか、負けを引きずっていて。新年に入って——リフレッシュすることも大事だったので——地元の人たちと遊んで、そこでようやく回復してきたような感じです」

 失意の時を乗り越えたいま、ポジションチェンジに挑んでいる。

 これまでフォワード最後列のナンバーエイトを務めていたが、スクラム最前列中央のフッカーに移った。

 佐藤は身長177センチ。強靭さとスピードを売りとする一方、国際舞台にあっては決して大柄ではない。そのため以前から、フッカーでの飛躍を目指していた。

 フッカーのポジションは空中戦に挑む状況が少なく、上背が問われにくい。日本代表のフッカーである坂手淳史、堀江翔太も、もともとフォワード第3列からのコンバート組だ。

「フッカーで何でもできたらすごいんじゃね、と。走れて、強くて、パスも放れて、キックも蹴れて…」

 かねてこう語っていた佐藤。大学ルーキーイヤーは高校時代に引き続きナンバーエイトを務めたが、今季始動前に大田尾竜彦監督へ改めて転向希望を出した。

——転向を叶えるまで。

「去年から言い続けていたのですが、(当時は)バックロー(ナンバーエイトなどフォワード第3列)で…となり、今年になって『フッカー、やらせてください』と。2月上旬ころだったと思います。個人面談で、伝えました。個人面談では去年のシーズンの振り返りについても話すんですけど、それよりもフッカーをやりたいということを伝えようと思っていて、(自分のなかでは)そのための面談でした。すると監督も僕をフッカーにするつもりだったようで、お互いの意見が合致しました」

 フッカーは専門職だ。スクラムでは最前列中央に入り、ラインアウトではタッチライン際からのボール投入役となる。

 5、6月に組まれた関東大学春季大会の試合で、佐藤はその位置でプレーすることとなった。

——実感は。

「体重を増やしました。ただ、走力もあまり落ちていない。弾ける——自分がゲイン(突破)できる——シチュエーションは増えたと思います。

 去年と比べたら8~9キロ、増えて、いまは対抗戦(秋のシーズン)を見据えて少し絞って『80分戦える、かつ強い身体』を目指している。いまは106~7くらい。シーズンも、それくらいで行くのがベストだと思います。

 逆に、セットプレー(ラインアウト、スクラム)の安定感がまだまだ。チーム全体としてムラがあるので、改善していけたらいいなと思います。ラインアウトのスローは、僕個人の問題ですが」

——早稲田大学のスクラムは元ヤマハ(現静岡ブルーレヴズ)仲谷聖史さんが指導しています。日本代表の長谷川慎アシスタントコーチが唱えるのと似た形で、フォワードの8人が独自の工程を踏んで小さくまとまる。高校や大学でその形を採り入れるチームはそう多くありません。

「僕が初めて教わったスクラムがその形で、僕の土台がそこ。あまり嫌な感じはしないです。特殊だと思う。大学でそこまでやっているチームはない。早稲田は大きくない分、そこにこだわっていけば、帝京大学、明治大学、東海大学のような大きいチームにも対抗できるようになる」

——ラインアウトの「スロー」。正確性が求められますが。

「あまり意識しないことを意識してます。『スロー、スロー、スロー…』とならないように。要点は押さえて、あとは、軽く投げる、と意識します。ずっと同じ気持ちで、ミスっても、『あ、どこかで取り返そう』と」

——シーズンに入る前には、リーグワンのフッカーの選手から助言をもらう機会もあったようですね。

「いい機会でした。上の選手がいるからこそ、現状に満足せずに努力できる。意識は常に上に持っていければと思います。(一番、実になった助言は)スクラムについてですね。その時は『何を言っているんだろうな』と思った内容も、組んでいくうちに『あ、こういうことだったんだ』と、色んな事がつながってきた。スクラムの感覚、よかったです」

 見据えるのは、チームにとって3季ぶり17度目の大学日本一。そして、自身の飛躍だ。取材で目指す選手像について聞かれれば、「計画性を持って決めているわけではない」としながら「海外で挑戦できたら楽しそう」と話していた。

「負けず嫌いなので、誰にも負けたくないですね、まずは。あとは…海外でやってみたいです。どこかのタイミングで、海外で挑戦できたら楽しそうかなと。リーグワンもレベルが高いですが、全員が外国人という環境に行くことで得られることもあると思いますし。すぐに行きたいとか、計画性を持って決めているわけではないですが。まずは大学、リーグワンで活躍して、日本代表、海外に行ける選手になりたいです」

 学生ラグビー界屈指の注目度を誇る現状については、「『あ、注目してもらってるな』とは思いますが、『だから頑張んなきゃ』とは思わないです。自分のなかのスタンダード、自分のなかのプレーを毎回するという意識です」。ただ自分と向き合う延長で、世界的選手になりたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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