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敗戦で「自分たちを信じすぎた」。コロナ禍に淡々。女子日本代表指揮官の考察。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
笑顔を交えて取材に応じる(スクリーンショットは筆者撮影)

 答えが本質を突く。

 7月30日、埼玉・熊谷ラグビー場。女子15人制ラグビー日本代表は、同南アフリカ代表戦を10-20で落とした。

 24日に岩手・釜石鵜住居復興スタジアムでおこなわれた同カードは、15―6で制していた。今回は、シリーズ全勝を逃した格好だ。

試合後の円陣(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)
試合後の円陣(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)

 それでもレスリー・マッケンジーヘッドコーチは、淡々と応じた。直後にテレビのインタビューで、核心を突くような談話を残す。

「今回の学びになったこととしては…。それまで自分たちを信じるようにアプローチしてきたのですが、きょうは自分たちを信じすぎた部分があったのではないでしょうか」

こちらは昨年の欧州ツアー中
こちらは昨年の欧州ツアー中写真:ロイター/アフロ

 その心は。

 今秋のワールドカップニュージーランド大会に向けた現在地は。

 南早紀主将と出席の共同会見で明かす。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「自分たちのことを信じていることは間違いないですし、そうお伝えしたい。ただ、(24日に)勝った後の反応のところについて、私自身もディスカッションをしました。試合の後に深堀りしたいという意欲は、勝った試合の後にはなかなか生まれづらいと感じます。私たちはうまくなっている途中で、若いチームです。勝った後に反省してよくなるという経験が、まだ足りていないです。その点は、もっとよくなれるところです。ただ、このようなことをワールドカップ前のタイミングで経験できたのはよかったと考えています」

 サクラフィフティーンこと日本代表は、調子を上げていた。今年5月には、格上のオーストラリア代表を敵地で破っていた。

 今夏も、南アフリカ代表と好勝負を演じた。世界ランクでは13位と日本代表より1つ下回るが、速さと強さが際立っていた。

ボールを持つのはスクラムハーフの阿部恵。ハイテンポでさばく(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)
ボールを持つのはスクラムハーフの阿部恵。ハイテンポでさばく(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)

釜石の地で勝利(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)
釜石の地で勝利(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)

 今度の2連戦では、高温多湿なグラウンドコンディションのもと互いに落球し合う側面もあったか。渦中、日本代表は、鋭い出足の防御、組織的にスペースをえぐる攻めで活路を見出そうとしていた。

 自分たちのスタイルに自信を持ち、貫き、さらに自信を深める。そのサイクルにあった。

 その流れで、今回の黒星を受けて「信じすぎた部分があった」と話したのだ。

 現体制発足前にあたる2017年のワールドカップアイルランド大会では、3大会ぶりの出場にして1勝4敗。満足のいく結果を残せずにいた。

 いわば新興国の立ち位置。指揮官の「勝った後に反省してよくなるという経験が、まだ足りていない」「このようなことをワールドカップ前のタイミングで経験できたのはよかった」という振り返りには、現状を正確に捉えつつ、前向きに先を見据える意思がにじむ。

 それ以外の問答でも、マッケンジーは聡明さをにじませる。問題点について話すときも、人(選手)ではなく現象(実際に起きたプレー)を指摘するにとどめる。

——きょうは勝って自信を深めたい側面と、様々なコンビネーションを試したい側面があったと思われるが。

「勝ちたかった感情はあります。ただ、負けたからこその利益も収穫だったとも感じています。色んな選手を試し、ゲームをさせられたのは大きかった。ワールドカップでは限られた選手をセレクトしなければならない。(候補選手に)それぞれに適切なゲームタイムを与えてから、選考がしたかった。数年、頑張ってきた選手にプレーさせるホームゲームは、私たちにとってギフトでした。ここに我こそはと手を挙げてくれた選手にも感謝したいです。

 南選手が言っていたように(※)、南アフリカ代表には我々以上に前に、前にという意思があった。それを知れたことも、ギフトのように感じた。各選手にプレー時間を与えられ、自己反省の機会を作れたという意味で、きょうの試合には利益がありました」

※この談話の前に、南主将は「南アフリカ代表にはもっともっとボールが欲しい、前に出たい気持ちが強かった。そこの部分で、自分たちより南アフリカ代表が上回っていた」という趣旨で話していた。

——ハンドリングエラーが多かったことについてどう思うか。また、プレー面での収穫はどこにあったか。

「ハンドリングエラーについて言えることは、まず、選手がボールにありつきたいという情熱を持っている、ということです。それがリラックスする心を阻み、焦りを助長していることがある。熱意があるからこそエラーもあったのだということを、まずお伝えしたいです。

 もちろん、そのことが問題であるとも捉えています。(動きの)スムーズさを強調するため、トレーニングではスピードをスローにするようフォーカスしたい。

 ふたつめの質問への答えも、ここに繋がります。(ルール上)ハンドリングエラーの後に組むことになるスクラムが、(押されることの多かった以前とは)変わった。オーストラリアでのツアーでできなかったことができ、自信にできた。ハッピーエンドと言われる部分もいくつかありました」

 現役時代はカナダ代表として活躍。引退後は母国、ニュージーランドでコーチングキャリアを積み、2018年には女子7人制日本代表を指導した。2019年に現職へ就くや、日本人選手の持つ勤勉性、技術を最大化させているような。

 最近の好調ぶりについて、インサイドセンターを務める山本実がこう証言する。

「ひとつ、ひとつが偶然ではない。レスリーはディテールを突き詰めることを大事にしている。『これは何だったの?』と聞かれた時に、皆、大雑把に答えるのではなく『〇〇で、△△で、□□だったから、そうなりました』と回答できるようになってきました。

 最初はレスリーに『Why?』と聞かれた時、パッと答えるたびに『Why?』『Why?』と(答えを深堀りするように)繰り返し聞かれていました。そのうち、選手の方からディテールを話すようになっていきました。

 詳細にこだわって物事を考えたり、話せたりしていることが、勝利につながっていると思います」

スタンドオフが本職の山本実。キック力が強み(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)
スタンドオフが本職の山本実。キック力が強み(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)

 勝つチームを作るには相応のマネジメントとコーチングが不可欠。その普遍が証明されていた。

 マネジメントには、ウイルス禍への対応も含まれよう。

 日本代表では、オーストラリア代表に勝った遠征中に新型コロナウイルスの陽性者が複数、発生。今回の国内ツアーでも、計10名の陽性者が出た。

 練習計画はその都度、書き換えられただろうが、それでもゲームを成立させた。白星も掴んだ。

 対南アフリカ代表2連戦を迎える直前、マッケンジーは落ち着いた様子で言った。

「本当に想定外なことがたくさんありましたし、最後の最後に予定が覆されることもありました。そのなかで私たちがしてきたことが、チーム内でたくさん話をすること、問題をいかにアドバンテージに変えるかを考えることです。

 状況が変わった時、物事の優先順位がどう変わるか。それを、なるべくすぐに話をする。この習慣はひとつのスキルとなり、そのままワールドカップへのよい準備になると考えています。

 ワールドカップ期間中も色々な制限があるでしょうし、もしかしたらこの先また新しい(ウイルスの)株が生まれるかもしれない。何でも、起こりえます。私自身は、いま、起きていることが、いま、起きてくれていて、ラッキーだったと思っています」

 有事にも逞しい。8月下旬には静岡、東京で、アイルランド代表とぶつかる。

試合後は両軍、レフリーが集合(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)
試合後は両軍、レフリーが集合(写真提供:日本ラグビーフットボール協会)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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