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21歳で日本代表司令塔の李承信、対フランス代表2戦連続先発へ「反省」【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
追加招集されたメイン平とは高校日本代表でも親交が深い(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 指揮官好みなのだろう。21歳の李承信は今年、初めてラグビー日本代表に選ばれ、世界ランクで8つ上回るフランス代表との2連戦にいずれも先発する。

 そう言えば5月中旬以降の事前キャンプの折から、意欲的な態度が評価されていた。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチはこうだ。

「感心しました。若い選手だがハングリーさを持っている。ジャージィへの意欲が伝わる」

 李は身長176センチ、体重85キロの21歳。大阪朝鮮高級学校を経て、2019年に帝京大学入り。しかし、海外でプレーしたい意欲が芽生えて1年で退学した。ウイルス禍で願いはかなわなかったが、20年には現コベルコ神戸スティーラーズへ入団。今季も国内リーグワンで鋭いラン、パスを繰り出していた。

 将来性が見込まれて参加できた今度のツアーでは、6月25日のウルグアイ代表戦で後半10分から出場。代表デビューを果たし、43―7で勝利した(福岡・ミクニワールドスタジアム北九州)。

 さらに7月2日、フランス代表戦ではもともとベンチ入りの予定もスターターへ昇格。前日の朝のことだ。同じポジションの山沢拓也に抗原検査で陽性反応が出たため、ホープに白羽の矢が立った。

 果たして李は、果敢にボールを動かす「プラン」を遂行。飛び出す防御の背後へ、長短のパスを通す。80分間、プレーし、こう所感を述べた。

「緊張というより、イレギュラーな環境も楽しんでいけたらと。プレッシャーを感じるよりも、吹っ切れて自分の強みを出して行けたらなと思いました。プランを遂行することだけを考えました」

 本人の自己評価は、決して高くない。

 試合後、ミックスゾーンでこのように話した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――先発を言い渡されて。

「驚きはありました。(ジョセフからは)おめでとう、楽しんでくれ、と。(試合までの)この1週間、準備してきた。10番としてチームのプランを遂行すること(という役目)は(先発でもリザーブでも)変わらない。山沢さんと変わらず、10番の役割を果たしてくれとも伝えられました」

――当日は。

「(普段は)緊張しないタイプなんですけど、(今回は)正直、試合が始まる前までは地に足がつかないと言いますか…。ただ、きょう、始まって、ボールを触った瞬間に吹っ切れた。そこまで緊張はなかったです」

――5本あったゴールキックをすべて成功させた。

「ティア1(伝統的強豪国)が相手。敵陣に入ったら3点(ペナルティーゴール)を取るか(否か)が大事なのは、坂手淳史キャプテンとも話していた。自分が狙えると思ったらショットを狙いました。巻いてしまった部分もありましたけど、思い切り蹴られたのがよかった」

 前半は13―13と同点で終えた。しかし後半開始早々にミスが重なり、徐々にスコアを加算されてしまう。

 後半18分には自身のタックルを弾かれ失点を招いただけに、「思い切り(タックルに)入ることができてなかった。中の選手とのコミュニケーションを取りながら、思い切りタックルにいけるようにしたいです」。23―42。敗戦に悔しがる。

――後半は。

「フランス代表がギアを上げてきたというより、自分たちのミスから流れを持っていかれた印象が強いです。スコアを重ねられて、ボールキープをしようと焦って…悪循環というか。そこでまとまれればよかった」

――相手はパスを放った直後の李選手に、アフタータックル気味にぶつかってもきた。強豪国ならではの圧力を感じたことは。

「アフタータックルもそうですけど、(タックルを仕掛けても)半身、ずれてゲインされて、オフロードパスを繋がれて…というしつこさは、これまでに経験したことのないプレッシャーでした」

――存在感をアピールできたとは思わないか。

「いい部分もありましたけど、まだまだ10番としてチームを勝たせるためのコントロール、自分の役割がまだまだできていない。そこが課題です」

――自身のプレーで悔やまれるのは。

「ひとつひとつのタックルと、前後半にあったタッチキックのミス(タッチラインの外に出したいペナルティーキックを出せなかった)は反省しています」

 できたプレーに喜ぶよりもまず、できなかったプレーと向き合う。首脳陣に評価される向上心の持ち主は、果たして、9日の先発機会も得る。

 東京・国立競技場での大一番においては、田村優が控えのスタンドオフとしてスタンバイする。過去2度のワールドカップに出た田村は、3日に追加招集されたばかりだった。

 そしてスターターの10番には、李が入った。ジョセフは説明する。

「李は先日、いい試合をした。若い選手なので今後も育成する必要がある。たくさんラグビーをしてきていない彼に経験を与え、いい選手になってもらいたいと考えています。優は、他のコロナによる離脱者がいたことで入ってきた。若い選手が前半を引っ張り、後半に疲れてきた時もシニアの選手が刺激を与えてくれればと考えています」

 2023年にはフランスでワールドカップが開かれる。李本人は「(大会は)まだまだ遠い存在だと思いますが、ティア1のチームと80分やれた経験がこれからの自分に活きてくるのかなと感じました」と話す。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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