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「気にしぃ」脱却へ。日本代表・山沢拓也が目指す「自分らしさ」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
午前練習後、メディアに囲まれた(筆者撮影)。

 自分に言い聞かせるようでもあった。「自分らしさ」もしくは「自分らしく」。山沢拓也は何度も繰り返した。

 ラグビー日本代表の合宿が、6月3日から宮崎で始まった。本格的な練習が開始された6日、参加選手の1人である山沢が取材に応じた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――合宿には同じポジションの選手が2人(※1)、います。先発争いにおけるアピールポイントは。

「自分以外のスタンドオフの選手も個性があり、色んな部分で優れている選手。自分としては――なかなか言葉で表すのは難しいですけど――いままでリーグワンで見せていたようなプレー、自分らしさ、というのを継続してプレーしていければ。それを代表で評価してもらえたところでもあると思うので」

――「自分らしさ」とは。

「自分としてはチャンスがあれば常に攻めていくところ、あとはいろんなキックを使って相手にプレッシャーをかけるところ。まだまだ完ぺきではないですけど、それが自分らしさだと思うので、大事にしていきたいなと思います」

 身長176センチ、体重84キロの27歳。司令塔のスタンドオフを持ち場とし、防御をすり抜ける走り、多彩なキックを持ち味とする。

 深谷高校で本格的にラグビーを始めるや(※2)、3年時には日本代表候補に選出。筑波大学4年時には当時のトップリーグに参加していたパナソニックワイルドナイツ(現埼玉パナソニックワイルドナイツ)に加わる。大学生トップリーガーとして話題を集めた。

上記写真は2017年の代表戦時
上記写真は2017年の代表戦時写真:アフロ

 もっとも、ここまで日本代表で得られたキャップ(代表戦出場数)はわずかに3のみ。怪我、戦術への順応性をはじめとした理由で、代表定着には至らなかった。

 2016年秋に発足したジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制の日本代表は、各自が課された役割を全うすることでスペースを攻略したり、望むエリアで攻めたりするのを目指す。

 2019年のワールドカップ日本大会では、現在33歳の田村優(横浜キヤノンイーグルス)、山沢と同学年でワイルドナイツ所属の松田力也が登録された。約1年8カ月の中断を経て再始動した昨年の同代表でも、この2人がプレーした。

 今回の山沢選出について、ジョセフヘッドコーチは「常に可能性があり、見てみたいと思っています」と説明する。

 今季発足の国内リーグワンで、山沢は実戦16試合のうち10試合に出場。そのうちスターターを務めたのは6度とする。一時は本職と異なるフルバックでもプレーした。

 ただし上位4強によるプレーオフの計2戦では、スタンドオフとして先発した。正スタンドオフだった松田がレギュラーシーズンの最終節で故障したのを受け、初代王者となるまで大役を全うした。

国立競技場でのリーグワン決勝時
国立競技場でのリーグワン決勝時写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 かねて物静かな努力家として知られていたが、いつしか心境を変えていた。シーズン中に述べた。

「1個、1個の練習でうまくいかなかった時に、それを一喜一憂したり、ひきずったりせず、『そこまで考えすぎずにやろう』と。そうしたほうがいいと、いままでの試合を通して感じることができた。試合までの準備の段階でうまくいかなくても、そこで変に落ち込みすぎたり、不安になりすぎたりしないように…」

 今度の取材でも、心構えの変化について語っている。キーワードは「自分らしく」だ。

――2019年以前の代表参加時といまとで、自身のスタンスに違いはありますか。

「私生活もラグビー面も含めて、自分らしくいようと思っています。以前選ばれてきた時はもともとの性格もありますし、自分自身そこまで自信も持っていなかったので、すごく受け身であったり、周りを見て反応して動いたりというところがありました。ただ今シーズン、リーグワンを通して自分らしくというところをフォーカスしてやってこられたので、それを継続して、私生活でもラグビー面でも自分らしくいれればいいなって。

 結構、気にしぃで、周りのことを見て(動く)ところがある。自分のペース、自分のタイミングで準備するなど、やらされるんじゃなく、自分からやっていきたいです」

 山沢が強調する「自分らしさ」の範囲は、グラウンド上でのパフォーマンスのみに止まらないのが伝わる。軸足が定まる。

――スペースにキックを蹴り分ける判断について。

「ボールをもらう前に相手のポジショニングをチェックして、ボールをもらう瞬間くらいにもう一度、チェック。あとは、全部を自分でやろうとすると全部が中途半端になるので、外からのコールをちゃんと聞いて、そのうえで自分がどういうプレーをするかを、早く判断し、やり切る。最後まで迷わず、プレーをやり切ることを常に意識しています」

――ワイルドナイツと日本代表のスタイルの違いは。

「まだ本格的にラグビーの練習が始まってそんなに時間が経っていないですし(5日までの3日間は体力系のテストが多かった)、今日はディフェンスメインの確認でした。アタックの部分(担当のトニー・ブラウンアタックコーチは合流前)ではまだ何も言われてなくて、どういうプレーが必要かは自分自身も理解しきれていない部分がある。やっていくなかで(必要な動きを)言われてくると思うので、それを聞いて、自分のなかで整理して、プレーに繋げていければなと思います」

――自身のプレースタイルを周りにどう適応させますか。このチームにとっての初戦は約3週間後(※3)に控えていますが。

「時間としては少ないですけど、これからたくさん練習していくと思いますし、ただでさえ代表の選手はサポートしてくれる能力が高くある。自分が、周りの選手がどういう選手であるかをお互いで把握し合えれば、助け合えると思う。そこまで(準備時間は)短すぎるとは思ってないです」

――改めて、2019年のワールドカップ日本大会をどう見ていましたか。

「2019年に関しては、観客として見ていた。選手としての悔しさというのは、選ばれなかった時点で割り切っていた。その実力がなかったのも、自分のなかで分かっているので。これまでの自分の経験というのが今後に活きていけばいいかなとは思います」

――いまは2023年のワールドカップフランス大会に向けたサバイバルレースの只中でもあります。合宿で、ピリピリした雰囲気はありますか。

「現時点ではそこまでないですが、これからそうなってくるのかな、と思います。自分としては――どうしてもピリピリしちゃう部分もあると思うんですけど――支え合えたらお互いのためになるのかなと思います。

 ワールドカップのメンバーには入れたら光栄なことですけど、自分としてはいままでやってきた自分らしいプレーができれば。そのクオリティを上げていって、ラグビー選手として成長できればなと思います」

 他者からどう見られるかはコントロールできない。ただ、自分がどう伸びるかはコントロールできる。そう言いたげだった。

※1 中尾隼太、李承信(それぞれ東芝ブレイブルーパス東京、コベルコ神戸スティーラーズ=どちらも初選出)。ナショナルディベロップメントスコッド(NDS=※3で詳述)には田村が選出されている。

※2 熊谷東中学校でもラグビー部へ在籍していたが、外部クラブでサッカーに注力した。

※3 現在、日本代表、予備軍にあたるNDSが同時並行でキャンプを張っている。大分に滞在する後者は6月11日、トンガ選手たちとの慈善試合を実施。18日のウルグアイ代表とのテストマッチ(2連戦のうち1試合目)にも、NDSを軸とした日本代表が臨む。宮崎で活動中の日本代表は、場合によって一部のNDS組を招き入れながら25日のウルグアイ代表戦(2連戦のうち2試合目)、7月2、9日の対フランス代表2連戦に挑む。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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