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リーグワン「何もしていない」の強さ&ディビジョン1第14節私的ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
球を持ち懸命に走るクルーズ。(写真:つのだよしお/アフロ)

 4月22~24日のリーグワンの第14節では、上位4強からなるプレーオフの出場枠がふたつ、埋まった。

 第13節で権利を得たサンゴリアスに続き、目下2、3位のスピアーズ、ワイルドナイツが5位との勝点差を11以上とし、残り2試合で逆転される可能性をなくした(1試合で得られる最大の勝点数は5)。

 特に底力を示したのは、前年度トップリーグ王者のワイルドナイツ。前半は4位だったイーグルスに看板の防御の隙を突かれ、3―17とビハインドを背負う。

 イーグルスはラインアウトからの1次攻撃で防御を片側に寄せにかかったり、大外のタックラーが飛び出した背後に球を通そうとしたりと、向こうのシステムエラーを誘う仕掛けを何度も重ねる。

 ここに海外出身者の突進力とオフロードパスの技術、ワイルドナイツが反則を犯した後のラインアウトモールを絡め、限られたチャンスを活かした。

 裏を返せばワイルドナイツは、「前半、自分たちのやりたいことは何もできなかった。ひとりひとりのコミュニケーションがよくないところもありました」。会見した坂手淳史キャプテンは話す。

「ハーフタイムは自分たちの役割をやり切ろうと話しました。最後にホイッスルが鳴った時に1点でも上にいよう、そのために努力しようと言いあいました」

 後半は前半から引き続き、キックによるエリアの獲得を意識。終盤へエネルギーをため込む。

 付け加えて、防御の再整備も意識したような。ハーフタイム明けのキックゲームで、カウンターアタックを仕掛けたアマナキ・レレイ・マフィへのタックル、ジャッカルでペナルティーキックを獲得。敵陣へ進んでまもなく6―17と差を詰めた。

 直後の相手ボールキックオフを受けると、スタンドオフの松田力也が左側へハイパントを蹴る。落下地点でフルバックの野口竜司が再獲得し、左脇にいたウイングのマリカ・コロインベテがパスをもらい激走。あっという間に11―17とした。

 以後は、ずっと首尾よく攻めていたイーグルスが時間を追うごとに失速したのもあってワイルドナイツが躍動。自陣の深い位置からも防御を破り、16分には21―17と、続く19分には26―17とスコアを動かす。

 看板の守りは終盤になるほど活性化。20分頃には自陣深い位置に攻め込まれながらも相手のパスミスで難をしのぎ、続く25分頃、接点で1人が抵抗する間に残った人員で一枚岩を作る。最後は途中出場の布巻峻介、堀江翔太が順にボールへ仕掛け、攻守逆転を決めた。

 ノーサイド。33―24。開幕からの2試合を不戦敗としながら、ここまで唯一の実戦全勝である。坂手は、エンジンのかかりの遅さについて「きょうはイーグルスさんがモーメンタムを持って動かしてくるチームだと認識しています。そこで、受けに回ったところがありました」と反省。そのうえで述べる。

「前半はどっちのチームにもエネルギーがある。前半から楽なゲームはない。試合の結果がすべて。(今後も)修正しなければいけないことに取り組んでいきたいです」

 かたや終盤に失速したイーグルスのスタンドオフ、田村優主将は、端的に実相を表していた。

「自分たちから崩れていったというか。これは悪い意味ではなくて、パナソニック(ワイルドナイツ)は、何もしていないというか。自分たちで崩れて、相手にチャンスを与えたというか」

 昨季王者が淡々とタスクを遂行していたさまを、普段と異なることはしていないとの意味で「何もしていない」と表現したのだろう。自分たちもそのような資質を得て、異なる結果を得たいとも匂わせた。こうも続けた。

「パナソニックのほうが、80分間いいプレーをする力はあると思います。これから僕たちは訓練が必要です」

 この日はスピアーズも、戦力十分のスティーラーズとの打ち合いを制している。かくして、プレーオフに行けるのは残り1チームとなった。

 ワイルドナイツに振り切られるも組織力のあるイーグルスはスティーラーズ、グリーンロケッツと戦う。一方、現在4位でワイド攻撃に活路を見出すブレイブルーパスは、人員を入れ替えながらも献身性を保つサンゴリアス、見かけ上の「選手層」をスタイルの浸透度で帳消しにするブルーレヴズと対峙。複数会場の試合結果が気になる2週間となりそうだ。

(談話はリモートによる)

<ディビジョン1 第14節 私的ベストフィフティーン>

1,森川由起乙(サンゴリアス)…雨天下でブラックラムズを30―3で下す。スクラム、タックル、接点周辺での突破で魅する。

2,日野剛志(ブルーレヴズ)…ヴェルブリッツに15―18と惜敗も、退く直前までスクラムで好プッシュを連発。5-0で迎えた前半22分頃には、自陣の深い位置で相手の司令塔を倒すロータックルがあった。後半開始早々のキックオフタックル、同11分頃の自陣ゴール前での防御も見事。

3,ヴァルアサエリ愛(ワイルドナイツ)…クレイグ・ミラーと、リザーブスタートのプロップ同士で防御を引き締めた。接点でのチョークタックルが効果的。14―17と3点差を追う後半15分には、敵陣22メートル線付近左で相手ボールスクラムをターンオーバー。スピアーズのオペティ・ヘルも圧巻の破壊力を誇示。

4,ジョージ・クルーズ(ワイルドナイツ)…終盤には自陣深い位置からのランでチャンスメイク。試合を通じて接点で向こうの球をスローダウンさせ、堅実にタックルを重ねた。

5,ジェイク・ボール(グリーンロケッツ)…シャイニングアークスと34―38と競り合う。エッジからの折り返しの際、多くのケースでこの人が突進。ゲインラインを破った。後半14分頃、自陣22メートル線付近で向こうの対面が似たことをしようとしたら、それをハードタックルで阻止した。モールの推進役としても機能。

6,シオネ・ラベマイ(ブレイブルーパス)…レッドハリケーンズを35―5で下すまでの間、強烈なタックル、モールの起点となるラインアウトでの捕球役として計67分間、プレー。ブレイブルーパスのフォワード陣ではワーナー・ディアンズも空中戦で光った。

7,山本凱(サンゴリアス)…キックオフ早々に強烈なタックル。球を持てば前に出て、守っては鋭く突き刺さる。

8,ファウルア・マキシ(スピアーズ)…ぶつかったスティーラーズの対面にいたアタアタ・モエアキオラは、ボールタッチの回数と多彩な攻め手を繰り出した。それに対してこの人は、守りで魅した。22―29と7点差を追う後半22分、グラウンド中盤から自陣22メートル線付近右に駆け戻ってジャッカル。ターンオーバー。32―32と同点で迎えた同33分には、自軍キックオフの弾道を追ってのジャッカルで相手の反則を誘った。35―32。効果的なジャッカルを決め続けたうえ、攻めてもゲインライン上へ仕掛けながらのオフロードパス、ゲインライン上への駆け込みを披露した。

9,齋藤直人(サンゴリアス)…接点からの持ち出し、素早いさばき、状況を見定めてmからのパスアウトと緩急自在。受け手の手元へ正確なパスが届く。

10,バーナード・フォーリー(スピアーズ)…規律を保つのに苦しみながらスティーラーズに40―32で勝利。司令塔に入ったこの人は、時折キックチャージを浴びながら、要所でインターセプトからのトライ、縦や斜め外側に角度をつけたラン、奥側のスペースへのキックで相手に主導権を渡さなかった。ブルーレヴズのサム・グリーン、グリーンロケッツのフレッチャー・スミスも攻撃時の判断、走りが冴えた。

11,石井魁(シャイニングアークス)…敵陣の深い位置でインターセプトをされてから自陣ゴール前まで駆け戻り、タックルを決めたのは試合終盤。

12,ヴィリアミ・タヒトゥア(ブルーレヴズ)…防御をひきつけてのパス、持ち前の突進力を活かして相次ぎチャンス、スコアを生み出す。

13,ディラン・ライリー(ワイルドナイツ)…イーグルス戦の後半15分、防御の隙間へ鋭角に駆け込み勝ち越しトライをマーク。

14,ジョネ・ナイカブラ(ブレイブルーパス)…右タッチライン際でビッグゲインを連発。相手との間合いを詰めるタックルも効いた。前半27分ごろには味方のハイパントを追うべく敵陣の深い位置へ侵入。捕球役に突き刺さり、前出のラベマイのジャッカルによるペナルティーキック獲得を促した。

15,ダミアン・マッケンジー(サンゴリアス)…カウンターアタック、キック処理と最後尾の責務を果たしながら、後半8分には敵陣ゴール前で魅する。深い位置でパスを受け取っては飛び出す防御をいなす。左大外にいたウイングの尾崎泰雅へパスをするや、その方向へサポート。尾崎のタッチライン際からの折り返しに反応し、トライ。直後のゴールも自ら決め、27―0と点差をつけた。雨天下とあり、味方が球を奪った直後も奥側のスペースへ蹴り込むこともあった。状況に応じたプレー選択は、番狂わせの可能性を最小化させた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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