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ワイルドナイツ山沢京平。初陣でビッグプレーまでに向き合った「不安」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
リーグワンデビュー前最後の公式戦は、明治大学3年時の大学選手権決勝(写真)(写真:つのだよしお/アフロ)

 ファーストプレーがご覧のインパクトを示す。

 山沢京平。埼玉パナソニックワイルドナイツの23歳だ。入部2年目に突入する直前の3月19日、リーグワンデビューを果たす。

 地元の熊谷ラグビー場での第10節で、最後尾のフルバックとして先発。試合開始早々、繊細な手足の運びで防御の網目をくぐり抜ける。スタンドを沸かせる。

 この日はリコーブラックラムズ東京に29-14で勝ち、続く27日の第11節にも先発(静岡・IAIスタジアム日本平で静岡ブルーレヴズに26―25勝利)。

 4月9日の第12節ではベンチスタートで出番はなかったが(熊谷でNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に31―24で勝利)、ファンに鮮烈な印象を与えた事実は消えない。

 当の本人は何を思うか。第12節を前に、オンライン取材で語った。

 以下、単独取材時の一問一答の一部。

――ふたつの試合で15番をつけました。

「(試合に)出られて、まず率直に嬉しい。それと、リーグワンのレベルを肌で感じられたのが大きな経験になったという感じです」

――ブラックラムズ戦ではファーストタッチでビッグゲインを決めました。

「抜けたのは1本だけ。そんなにボールを持つ機会もそんなに多くもない。自分でもチャレンジできるようにしていきたいなという感じです」

――自信や手ごたえは感じたか。

「自信と手ごたえをそこまで持っているわけではなくて。2試合をやって課題、改善するところのほうがよく見つかっているなという感じですね。いまのところは」

――課題は。

「コミュニケーションの部分。(防御で)自分がどのタイミングで(後方から前に)上がるべきなのか、ボールの呼び方、立ち位置…。細かなひとつひとつのところで、改善するところはあるなと」

――確かにブルーレヴズ戦では、裏側へのキックをカバーする際の加速力で驚かされた反面、防御を破られたシーンもありました。

「ゲイン(突破)されたところは前半、後半で1本、1本、あったと思います。前半のところは、内側をブレイクされたので。(後ろから前に)上がるタイミングは間違いではなかったと思うんですが、もうちょっと(その場で)我慢しているべきだった。後半の1本のところは(味方がイエローカードをもらっていて)人数も少なかったし、その場面で前のウイングの選手が詰めたところに連動して、1個、内側を見なきゃいけないところを外側の方に身体を向いてしまっていた。前を見て、(味方がその人の正面の選手へ)詰めるなら自分も1個ずれる(せりあがって前に出る)し、流してもらうなら(中央から外側へ動くなら)…と、いう、コミュニケーションの部分は改善するところだなと思っています」

 好プレーに酔うより、課題と向き合うのは昔からだ。

 身長176センチ、体重84キロの山沢は、地元の埼玉県立深谷高校時代から2年で高校日本代表候補にリストアップされる。若くして才能の片りんを披露する。

 明治大学でも1年時からレギュラーとなり、当時のトヨタ自動車(現トヨタヴェルブリッツ)のジェイク・ホワイト監督(元南アフリカ代表ヘッドコーチ)には「いますぐ彼を獲得できないのか」と言わしめた。

 それでも試合後に振り返りを求められれば、謙遜することのほうが多かった。さらに最近は、故障にも泣かされた。

 長らく痛めていた右肩を手術したのは3年目のオフ。副将となった4年目の秋に戦列復帰を目指したが、練習中に右膝の前十字靱帯を断裂してしまう。

 大学卒業前に入団を決めていたワイルドナイツでも、しばらくはプレーできずにいた。

 今回のカムバックまでの道のりを問われれば、「(不安は)乗り越えてはいない」と率直に明かす。それでも、前を向く。

――入団時は怪我でプレーできなかった。試合に出るまでの時間をどう過ごしてきたか。

「本当に、きつかったというか…。本当に最後に公式戦に出たのも大学3年だったので、長い期間、ラグビーを満足にできなくて、不安が大きかったですけど、ここまでこれたのは、ある意味、自信にもなったかなという感じです」

――「不安」はどう乗り越えたか。

「どう乗り越えたかといったら、決して乗り越えられたのかはわからないです。なるようになれ、という感じでやっていました」

――支えになっていた人、ものは。

「大学の時は大学のチームメイト、パナに入ってもトレーナーの方に面倒を見てもらって感謝しています。ただ、何と言うんですかね、それよりも、悩み、不安、ストレスの方が大きくて。

 膝も、肩も言うことをきかない。やりたい動きができない。動いてほしいようにできない。ふたつ(過去の受傷箇所)をかばうことで違うところが痛くなる…。機能面でも、精神的にも、トレーニングするたびにダメージは食らっていました。

 いまも自分が満足できているプレー、動きはまったくできてないと思っている。ただ、いまのこの身体の状態でもどういい方向に持っていけるかとか、この状態でも最大限のプレーができるようにする…という風に考えが向いている。いいバランスが取れている」

――そもそも様々な進路の選択肢が与えられたなか、前身のトップリーグ優勝5回の強豪でプロ選手となっています。

「ワイルドナイツというチームでは個人、個人が能力的にすごいのはもちろんですけど、自分の身体をすごく大事にしている。メンテナンス、ケアのところでも学ばないといけない。プロは、自分の身体が商品、ではないですが、土台なので。練習前や試合前の準備の意識の高さは勉強になるというか、どの選手を見ても学ぶことが多いですかね」

――今後は。

「できるだけ、プレータイムを長く。ここから厳しい試合が続いていくので、そのなかで23人のメンバーに入れるように頑張っていくのが一番です。

 自分が、こうなりたい、どうなりたいというより、目の前の練習、試合で自分の強み――キック、ラン――を磨いて、それを試合や練習で出して、1試合でも多く出られるように頑張りたいというのが、いまの目標…。そんな感じですかね」

 主なポジションは司令塔のスタンドオフと最後尾のフルバック。スタンドオフでは日本代表の松田力也、兄の山沢拓也らと、フルバックではやはり代表経験のある野口竜司らと定位置を争う。「楽しめては、いるっす」と、向上心を保つ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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