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オリンピック戦士のイーグルス松井千士、古巣サンゴリアスとの対戦を「意識」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
タッチライン際のウイングとして快速を活かす。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 男子7人制日本代表の主将としてオリンピック東京大会に出た松井千士が3月23日、オンライン取材に応じた。現在は横浜キヤノンイーグルスの一員として国内のリーグワンに参戦し、15人制の日本代表入りを目指している。

 抜群のスピードを長所とする27歳は、前所属先のサントリー(現東京サントリーサンゴリアス)から移籍して2年目のシーズンを迎える。チームは昨季まであったトップリーグで2016年度以来の8強入り。今季は前年度4強のトヨタヴェルブリッツなどを破り、目下12チーム中4位と勢いに乗る。指揮を執るのは、サントリーでも松井が師事していた沢木敬介監督だ。

 15人制の国内リーグに本格参戦するのは約3年ぶりの松井はまず、ここまでの戦いを振り返る。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――強豪に勝って自信をつけているようですが…。

「まずプレシーズンマッチから全勝で、どんどん自信がついているなか、コベルコ神戸スティーラーズにいい試合ができた(第2節で55―21と勝利)。ただ埼玉パナソニックワイルドナイツ(昨季トップリーグ王者)と試合をした時には、勝てる試合だったと思うんですが、なかなか得点も取れなくて…(第3節で3―27と配線)。ああいうところは、チャンピオンチームだなと。(イーグルスには)どんどん自信がついてきていますが、まだまだだなとは、自分たちでも感じています。勝ち切って、それをチームの文化にしていきたいです」

――リコーブラックラムズ東京との第7節。会場の駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場では、トライ時にインゴールの向こうのアンツーカーへダイブ。肩を打っていましたが…。

「もともと『問題になっているなぁ』と知ってはいたんですけど、僕自身が長らくセブンズに行っていた分(国内の陸上競技場でプレーした機会が少なく)そんなに危ないものなのかなと思っていました。ただ、危なかったですね! …肩が痛かったくらいで、大きな怪我には繋がらなかったですが。

 僕の世代のうちは変わらないのかもしれないですけど、子どもたちがラグビーをする際にはもっといい環境でできるようになって欲しいですね。どういう改善方法があるかはわかりませんが、ああいうのを見て親御さんたちが危ないと思ったら(もったいない)。

 コロナの影響もあると思うのですが、選手自身も、お客さんが少ないことを感じていると思います。もっといい形になっていけば嬉しいです」

――雨のなかでおこなわれた第10節では、昨季4強のトヨタヴェルブリッツに20―9で勝利。それ以前の2試合で見られた課題を、克服した格好のようです。

「最近、よく監督が話されていて、僕自身も思っていたんですが、イーグルスには一喜一憂する選手が多くて。毎回、いい形で入るのですが、その後の得点が入らないと、ひとりの選手のミスにいろんな選手が反応してしまう部分がありました。

 リーダー陣が『切り替えよう』と言っても、そこでもなかなか得点が入らないと、自信がなくなっている顔つきになるというか、まとまりがなくなってしまっている部分があった。それは、東芝ブレイブルーパス東京戦(18-21で惜敗した第8節)とNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦(49-24で勝利もチームとして課題を残した第9節)の時に感じたことです。ただ、それをその後の1週間で改善できたから、ヴェルブリッツにも勝てた。(序盤に9点ビハインドを背負い)ずっと得点を返せませんでしたが、ハーフタイムにも『返せる(逆転できる)』という感じで(ロッカーに)帰ってきた。1週間かけて準備できたものが、ヴェルブリッツ戦に活きたのかなと」

 3月27日の第11節(昭和電工ドーム大分)では、古巣のサンゴリアスとぶつかる。同部への思いを聞かれれば、「今週になって…意識しますね」。進化した姿を示し、勝ちたいと誓う。

――次の試合では古巣サンゴリアスと戦います。

「僕たちはベスト4を倒すのが目的だったので、先週はヴェルブリッツさんを目標としていて、倒せたのはよかった。ただ、次も簡単には倒せない。いい準備をしている、という感じです。

 監督は、『勝ち切る』と話されている。いつも通りのイーグルスだったら、ベスト4のチームにいい試合をしたら『よかったね』という話になっていましたが、『いまは、そういうチームじゃない。勝ち切らないといけないチームになっている』と話していました。僕自身もそうだと感じます。本気で、勝ちにいこうと思っています。

 ワイルドナイツ、次に対戦するサンゴリアスは、自信があるからこそひとつのミスに動揺しない。イーグルスもどんと構える、最終的に自分たちが勝てる、みたいな自信を持てれば、トップ4のチームには勝てると思っています。

 僕自身、(相手が前所属先であることについては)何も感じないだろうなと思っていたのですが、今週になって…意識しますね。やっぱりそこが、自分の気持ちです。沢木さんも僕自身に、勝ちたいという気持ちを話します。2年前までいたチームですし、知っている選手というか、いまでも仲良くしてくれる先輩、後輩もいます。成長したなと思ってもらえるように、特に、7人制から帰ってきて成長したなと思ってもらえるように、プレーをしたいです」

――7人制日本代表の話題が出ました。改めて主将として臨んだオリンピック東京大会までの道のりを振り返っていただけますか。

「本当に得たかったものはメダルでしたし、セブンズの文化みたいなものも作りたかったのですが、11位という結果で…。僕自身、主将もやっていますし、責任も感じている。いまの強化体制の部分も、あのオリンピックから始まっていると思うので、そこには悔いが残っています。コロナの影響であまり国際大会にも行けなくて、経験が浅くて、自分たち同士でやり合うところでしか、世界との差を詰められなかった。自分たちの見えている世界が狭かったところが、あの結果につながったと思います。また、セブンズではスタートダッシュが切れないとずるずると行ってしまう部分があって、逆にいいスタートが切れればリオの時のようにベスト4まで行くこともできると思うんですが、そこ(フィジーとの初戦)を勝ち切れなかったのが大きい部分かなと。

 

 ただ、そこで僕が得たのは一喜一憂しないという部分です。

 代表の主将という立ち位置で2年くらい過ごしました。周りが先輩ばかりのなかで発言することも多かったですし、誰よりも相手のことを分析しました。ここで自信がついてきたからこそ、自分の強みがオリンピックで活かせた。お客さんはいなかったですけど、ああいった場所で(リオデジャネイロ大会で金メダルの)フィジーなどの強いチームに対してもトライが取れた。ここで動じずプレーできていたことは、リーグワンで活きています。学生時代、サントリー時代から考えれば、メンタルは成長したと思います」

 国際経験を通して精神的に図太くなったという松井。かつての仲間との大一番へも、落ち着いて挑む。

 ちなみに自宅では、昨年結婚した元ビーチバレー選手の坂口佳穂さんの手料理に舌鼓を打つ。献立の一部がSNSに掲載されたのを受け、「奥さん、夜はほとんど食べないんですど、僕だけのためにわざわざ作ってくれていて、サポートしてくれています。母親には怒られますが、奥さんの方が料理は上手なので、感謝しています!」と笑った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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