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ウクライナの血を引く中井健人、平和を祈る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター

 左腕のサポーターには「PRAY FOR PEACE」と書いた。平和を祈る。

 ラグビー・リーグワン1部の静岡ブルーレヴズの中井健人は、日本人の父、ウクライナ人の母を持つ。

 母の祖国はいま、戦火に見舞われている。3月5日の第8節で今季初先発を飾った中井は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイに24-30と惜敗。試合後は会場の東京・江戸川陸上競技場でオンライン会見に出席し、思いを述べた。

 中井は身長182センチ、体重92キロの25歳。筑紫高校、法政大学を経て2019年に前身のヤマハ発動機ジュビロ入り。身体能力とキック力を長所に、レギュラー定着を狙っている。この日は前半27分、敵陣22メートル線付近左のスペースへ駆け込みトライを決めた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「今回の試合では我々はエリアを取ってディフェンスする(思いだった)。前半はエリアを取っていけたんですけど、ディフェンスのところでコネクション(つながり)があまりうまくいかず、ゲインを切られ、トライに繋がる場面があった。後半はそういったところを改善して追い上げ、僅差になった。勝てなかったということは、我々の力不足です。ここでは満足できない。これからしっかり、もっと成長できるように頑張っていけたらなと思います。

 私自身は今回のゲームには感謝の気持ちを持って、当たり前である平和の環境をありがたく感じ、プレーすることを心の中で決めて、体現することができなと思います」

――腕に書かれたメッセージは。

「先ほども言わせていたんですが、私の母親の祖国であるウクライナが大変な状態になっています。当たり前にラグビーができる環境は幸せなことで。僕にはウクライナ東部、首都キエフに住む親せきもいますし、それぞれに思いがあって、本当につらい状況を電話で聞いたり。まだ連絡がつながっていることでほっとしていることがあるんですが、まだまだおびえながら生活していると思う。当たり前の日常が戻ってほしいという思いを込め、テーピングに文字を書かせていただきました」

――ご自身はウクライナへ行ったことは。

「小学校、中学校の頃に、行っていました」

――落ち着いて試合に臨めたか。

「ラグビーの時は切り替えてやっています。まだ親族と連絡が取れている状態なので今後不安ですが、連絡が取れ続けている間は安心できると思います」

――このゲームでトライを取った気持ちは。

「母は『いま健人ができることは、ラグビーで私や親せきを喜ばせること』と。トライが取れたことには、母親も喜んでくれるんじゃないかと思います」

――気持ちの切り替えができた裏には、どんなサポートが。

「一番は母親ですかね。母親は僕よりもつらい状況だと思いますが、それにもかかわらず『健人が平和な日常にありがたみをもって楽しむことだ』と、1週間、毎日、電話で言っていました。チームメイトにも、『ラグビーができることに感謝し、気持ちを込めてプレーすること』を宣言させてもらいました」

 平時は柔和な笑みを浮かべる中井。この午後は、パフォーマンスにメッセージを込めた意を、折り目正しく示した。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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