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帝京大学のヒーローができるまで。大学選手権総括&極私的ベストフィフティーン+α【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
帝京大学の細木主将。胴上げで歓喜。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 キャラクターが立った。

 ラグビーの大学選手権は1月9日、帝京大学の4年ぶり10度目の優勝で幕を閉じた。2017年度までの9連覇時代と同様に、折り目の正しさと激しさのバランスが際立った。

 往時との違いは、主将の醸す色彩か。

 スクラムを押して反則を取れば、プロレスラーのごとく両手を突き上げて叫ぶ。試合が終わればその場にうずくまり、首を振りながら大泣きする。

 細木康太郎。その存在は、このクラブで栄光を勝ち取ってきた従来の主将よりも大学クラブの主将然としていたような。

「試合が終わってから涙が出たのは、自然だったのでわからないです。…嬉しかったのと、いままでの色んなことを思って、涙が出たのだと思います」

■細木主将が生まれるまで

 帝京大学の連覇が止まった2018年度以降、大学日本一のチームは常に入れ替わる。

 細木が帝京大学に入ったのは、9連覇を達成した翌年度のこと。世代随一のプロップとして活躍も、欲しいものは手に入らなかった。

 特に2年時の選手権では3回戦敗退。チームが流通経済大学を相手にタックルミスを重ね、39―43で屈したのだ。当時の細木はこうだ。

「この試合の印象は…。勝てたと思っていたというところ。勝てると思っていたというところです。隙を見せたというか、僕たちの甘い部分が完全に出て、負けた、と、思います」

 新型コロナウイルスが流行り始めて自宅待機を命じられた3年時の春は、2年時の出場した試合を一気に見返した。

 それまで強豪との試合でよく黒星を喫したため、「毎回、同じ試合を観ても悔しいなぁと思って。もう(過去には)戻れないんで、今年、優勝したい」。その年は4強止まりに終わったが、最終学年時の主将就任へ覚悟を固めた。

■王者に立ち向かったタフな古豪

 際立つ人格が頂点に立った学生ラグビー界は、ウイルス禍にさいなまれた1年でもあった。

 ワクチン接種の普及化もあり秋以降の災禍は見られなかったものの、夏場は複数の大学で感染者が確認される。

 主要リーグのうち、関東大学リーグ戦1部は開幕を延期させた。関西大学Aリーグでも、京都産業大学が8月に陽性反応者を出したためにオープニングゲームを先送り。今季就任の廣瀬佳司監督は言う。

「一番、鍛えたい時期に活動を休止。残念でした。その間はミーティングもトレーニングの指示も、何もしませんでした」

 振り返れば昨季は、一昨季まで47年間指導した大西健元監督から伊藤鐘史前監督へバトンタッチ。今季は、わずか1シーズンでの指揮官交代という異例の措置が下されたなかでスタートしていた。

 それでも、平野叶翔主将は強調する。

「僕らが(監督を)決められるわけじゃない。しっかり切り替えて頑張っていこうとしていました」

 3年生の福西隼杜はこのように述べた。

「大西先生が作った伝統のベースがあり、そこに色んなエッセンスが加わった。色んなプレーができるようになった」

 果たしてチームは、シーズンの試合を通して尻上がりに成長する。指揮官は続ける。

「集合した時は試合をできるレベルではなかったのですが、段階的に(状態を)上げていった。それがうまくいきました」

 粘り強く接戦を勝ち取るという組織としてのキャラクターを確立させ、15大会ぶりの選手権4強入りを掴み取った。

 帝京大学との準決勝では、30―37と応戦。リクルーティングで相手が上回っているのを自覚して臨み、後半29分まではリードしていた。

「勝利を目指してやってきたので、(力が)足りなかったという実感だけです」

 試合後の平野主将の談話が、好試合が生まれたわけを物語った。

■群雄割拠は続くか

 大学ラグビー界はいま、群雄割拠の時代の只中にある。

 帝京大学の連覇が止まってからは毎年、王者が入れ替わっているのだ。

 チームの戦力は選手個々の実力、部内で施されるコーチング、練習環境、マネジメント、クラブ文化と複合的な要素の組み合わせによってなされる。

 それを踏まえれば、これから特定のチームが黄金期を築くのは至難の業ではないか。今回は帝京大学が久々に頂点に立ったものの、一時「1強」の状態を作った岩出雅之監督はそのまま退任する。

 複数のクラブの力が拮抗するのは、興行、強化と複数の側面から見ても望ましい。懸念されるのは、ガラパゴス化のリスクだ。

■求められるのは客観視

 国内王者を決める日本選手権に学生参加枠がなくなったのは、2017年度のことだ。

 当時、日本選手権での「打倒トップリーグ勢」を目指していた帝京大学は、ここで目標を下方修正。この動きは、こんにちの学生ラグビー界の混戦模様とも無関係ではない。

 時を前後して、帝京大学にリードされてきた強化環境の面で複数の強豪校が追いついた。かくして群雄割拠の時代に突入した。

 さらに現日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、大学生選手の招集にはやや消極的だ。それなら日本ラグビー協会主導で代表予備軍を編み、有望株だけで遠征をおこなってもよさそうだが、昨今の社会情勢でそれが叶わない。

 大学ラグビー界の有望株が日本代表との繋がりが希薄に映る点は、大学ラグビー界の「にわかファン」の取り込みの遅れにも影響を及ぼすだろう。

 日本代表選手の源泉となっているのはリーグワンだが、大学側とリーグワンとのリンクもより強固になるべきだろう。

 今季、リーグワンの各クラブのリクルーターが、関東の大学の有料試合のチケットを一般の販売サイトで購入していることが発覚した。

 有望な大学生を見つけ、コミュニケーションを図って採用に繋げるのがリクルーターの使命。大学生にとっては卒業後の選択肢を広げるキーパーソンだが、一部の人気カードで複数のリクルーターが抽選に漏れたために観戦できない事態が生じているのだ。

 当該の試合を主催する関東ラグビー協会の幹部は「改善します」と話すが、そもそもリクルーターがチケットを購入していることを理解していない関係者もいた。

 リクルーター側は「曲がりなりにも日本ラグビー界の発展に寄与している自負があるのに…」「もうチケットは買うから、せめて我々の分を用意するくらいはして欲しい」と嘆く。

 昨年は東芝のワーナー・ディアンズが高卒1年目で代表入り。高校年代のトップ選手の進路選択にも多様化が見られる。一方、前身のトップリーグ時代からあった、大学と社会人クラブとの二重登録性についての議論は宙に浮いたままだ。

 今後も大学ラグビー界が従来のポジションを維持するには、運営側が業界全体における立ち位置を再認識することが不可欠だ。 

■極私的大学選手権MVP&MIP&新人賞&ベストフィフティーン

 MVP、新人賞、ベストフィフティーンは勝利への貢献度やプレーの一貫性を基準に独自で選定。MIPはグラウンド外での態度なども加味。

★MVP 細木康太郎(帝京大学、プロップ)…準決勝の後半20分から復帰するや、驚異的なスクラムの強さで魅する。相手の反則を誘ってからの絶叫はニュース素材となる。

★新人賞 本橋拓馬(帝京大学、ロック)…力と技を駆使して接点周辺の防御網を攻略。空中戦、フェーズプレーでも、多少乱れた球も両手で柔らかく捕球できる。器用。守ってもタフにタックルを重ねる。

★MIP 三木皓正(京都産業大学、フランカー)…身長173センチ、体重95キロと小柄も地上戦で際立つ。関東の有名私学への進学を希望も、受験結果を受けて関西の古豪の門を叩く。この時点で、ラグビーに生きると覚悟。

1、中村公星(明治大学)…準決勝では自陣ゴール前でのジャッカルを放つ。きれのよい突進、スクラムでも際立つ。ワンプレー後、次のプレーに移るまでが身軽。

2、江良颯(帝京大学)…タッチライン際で強烈な突破。相手の軸をひっくり返すタックル。スクラム。

3、細木康太郎(帝京大学)…スクラム。相手の1,2番の間を引き裂くような強烈な押し込み。突進。

4、小池隆成(東海大学)…鋭く力強いタックルの連続。運動量。

5、本橋拓馬(帝京大学)…相手の球出しを遅らせるチョークタックル、味方のカウンターラックを誘うロータックル、相手タックラーをかわして前に出るランニングスキル。

6、ラウシー・アサエリ(京都産業大学)…京都産業大学のロックでプレー。要所でのジャッカル。

7、三木皓正(京都産業大学)…帝京大学の大男たちへも果敢に刺さりまくった。小さくとも初速の速さと体幹の強さで防御を支えた。

8、奥井章仁(帝京大学)…突進とリーダーシップが重宝された。準決勝ではトライセーブタックルを披露。

9、廣田瞬(京都産業大学)…防御。強気の仕掛け。

10、高本幹也(帝京大学)…複数名の防御を引き付けながらパスをさばく。明治大学との決勝戦ではハイパントを多用してボール保持率を高めようとするなど、そのゲームで求められるプレーを選べる。

11、谷中樹平(帝京大学)…もともとはスクラムハーフでプレーも今大会からフルバックで出場。ハイパントキャッチとカウンターアタック。決勝戦では鋭いインターセプトでピンチを救った。

12、丸山凛太朗(東海大学)…準決勝で怪我から復帰し、技術と判断力のよさを披露する。キックパスでトライを演出し、ロータックルも連発。

13、ジェイミー・ヴァカラヒ(京都産業大学)…タックルとジャッカル。思い切りのよいゲイン。

14、白國亮大(帝京大学)…決勝戦でハットトリック。スペースへ駆け込む速さとフットワーク。

15、雲山弘貴(明治大学)…故障明けは感覚を取り戻すのに苦心も、選手権に入るや徐々に調子を上げて適所へロングキック。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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