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勝ち越されたから成長できる。明治大学、ファイナリストとなった実感は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
後半32分にダメ押しトライの齊藤誉哉が喜ぶ。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 明治大学ラグビー部が、2季ぶりに大学選手権の決勝へ進出。1月2日、東京・国立競技場での準決勝で、東海大学を39―24で下した。神鳥裕之監督、飯沼蓮主将が会見した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

神鳥監督

「新年早々に国立競技場という素晴らしい舞台でできたことに感謝したいです。タフなトーナメントをひとつひとつ勝ち上がる選手を頼もしく思いながら観ていました。東海大学さんが最後まであきらめず後半のタフな時間帯も乗り切って、流れを取り戻した。これを自信に変えて次の決勝へ準備したいです」

飯沼

「きょうの試合全体では本当に走り回って、東海大学さんを疲れさせて、明治大学の持ち味であるクイックテンポで外へ振って、展開して…と。早稲田大学戦(12月26日の準々決勝)ではFWに頼ってしまっていたので、今回はBKがリードして引っ張ろうと話していた。それを体現できてよかったです」

 この日は深い攻撃ラインで好ランナーを活かし、前半を21―3とリードして折り返す。ハーフタイム直前には、自陣中盤のラックでプロップの大賀宗志、ナンバーエイトの大石康太副将がカウンターラックを決めている。

 しかし後半は、一時21―24と勝ち越された。東海大学陣営の1人は、前半のうちから明治大学の防御にギャップがあることを看破。後半は「スペースへボールを運ぼう」と意思統一していた。

 スクラムハーフの飯沼主将の感触は。

——前半、自軍の防御をどう見たか。

飯沼

「ひとりひとりが前に出て刺さって、セカンドマンも入って、前に出させない。全員がそうできた。自陣で継続された時もありましたが、早稲田大学戦で課題となったオフサイド(の反則)もありませんでした。やってきたことがやれているということで、話していました」

——では後半、防御を破られた理由はどのあたりにありますか。

飯沼

「天理大学戦でもあったように、(大きく)リードした後に『ここで気を緩めたらだめ』と言っていたんですけど…。(東海大学の後半の)1トライ目は、相手ボールがファンブルして、そこに(圧力を)かけようとした明治大学のバックスが3人(一か所に)寄ってしまい、そのショートサイドを突かれた。2トライ目はカウンターラックを仕掛けてボールを獲ろうとしてファンブルして、トランジションのところを行かれてしまった。どこか心の緩みがあったのか、わからないですけど…。リードした後、トライを獲った後、前半を折り返した後、皆に何を言うかを考えて、決勝に臨みたいです」

 残り時間25分で勝ち越される状況下、飯沼選手はある言葉で選手を鼓舞する。続く17分、連続攻撃からペナルティーゴールをもぎ取り24―24と同点とする。

——後半、勝ち越された時の心境は。

飯沼

「前半うまくいって折り返して、『後半、追いつかれる可能性もあるのを心に留めておこう』と話していました。3トライ目を獲られた時は『準決勝はこうでなきゃ面白くないだろ』『これで勝ったら、点数を離して勝つよりも自信がつく』と、皆を前向きにさせました。試合前にも『タフなゲームになると思うし、ひとつになって、やることを決めて、生まれ変わって、いつも通りにプレーしよう』と言っていました」

——同点に追いついた。合言葉の「メイジタイム」がこだました。

飯沼

「苦しい時間が明治大学の得意な時間。メイジタイム、と伝えました」

 この日は12月上旬まで本調子ではなかったフルバックの雲山弘貴が好キックを連発。東海大学側は「蹴り負け」を敗因のひとつに挙げた。

 26分、スタンドオフの伊藤耕太郎が防御を2人振り切って決勝トライを決める。直後のゴール成功で31―24。

 その状況を招いたのも、雲山だった。自陣からの足技で徐々にチームを前に押し出し、グラウンド中盤からの連続攻撃を誘発。さらに敵陣22メートル線付近左でパスをもらうと、飛び出す防御の裏に絶妙なキックを転がす。

 カバーに回った東海大学はタッチラインの外へ蹴りだすほかなく、ここで明治大学が敵陣22メートル線付近左でラインアウトを獲得。伊藤のトライが決まったのは、その直後のことだ。

——伊藤選手がトライ。彼があのように相手を吹き飛ばして駆け抜けることはあるのか。

神鳥監督

「(相手をかわすのが好きな)彼のプレースタイルにないようなトライだったと思いますが、前回の早稲田大学戦でも激しいタックルでゲインラインを押し返すプレーも見せてくれていた。トーナメントを通じて選手が成長している顕著な例だと思い、観ていました。彼だけではなく、ひとりひとりが頼もしく映るシチュエーションが多くなったなぁと思っています」

飯沼

「耕太郎は1年目、フルバック。(スタンドオフとしての)経験が浅く悩んだ時期があったと思うのですが、1戦1戦、自信が感じられて、だんだん力を発揮できているんじゃないかと思います」

 時間の限られた公式会見中、指揮官や主将へ雲山に関する質問はなかった。

 ただ、直後に報道陣のリクエストを受けて登壇した大石副将は「悩んでいる部分もあったと思いますが、彼は自信を持つことが一番。彼にも要求し、こちらも彼の要求を聞くというなか、パフォーマンスがよくなってきた」と言い残している。

 会見中に始まった準決勝第2試合の結果を受け、9日の対戦相手は帝京大学に決まった。明治大学にとって、加盟する関東大学対抗戦Aでの直接対決で負けた相手である。

——次戦へ。

神鳥監督

「まだ相手は決まっていない。毎回、言っていますが、毎週のルーティーンとしてしっかりと準備をしていく。相手がわかった地点でその特徴を加味して、1週間を迎える。特別な1週間を過ごすより、いままで通りのスケジュールに合わせ、選手を送り出す」

飯沼

「ファイナルの試合では細かいところで差がつく。神鳥監督が春から仰ったように、凡事徹底。当たり前なことを当たり前にやり切る。ルーズボールへの反応、ひとりひとりが早く立つ、ゲインされたら早く帰る、勝利への執念…。そこを明治大学の強みにしてきたので、それを大事にやっていきたいです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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