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オリンピック東京大会惨敗の「根深い」わけ。今後必要な議論【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
最前列は男子の松井千士キャプテン(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 オリンピック東京大会でそれぞれ12チーム中11、12位だった男女の7人制ラグビー日本代表の総括会見が8月11日、オンラインで開かれ、本城和彦・男女セブンズナショナルチームディレクター、岩渕健輔・男子日本代表ヘッドコーチ(兼日本ラグビーフットボール協会=日本協会専務理事)、ハレ・マキリ・女子日本代表ヘッドコーチが会見した。

 いずれも2016年のリオデジャネイロ大会時のほうが成績は上だった。特に男子は同大会でニュージーランド代表を下すなどし、4位だった。

 惨敗の理由は。まず、総責任者にあたる本城氏から語った。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

本城

「男女共通して、正直なところを申し上げると、1年間の延期は厳しい結果に向いた。男女とも現場は知恵を絞り工夫をして、実戦経験の機会を作りましたが、ただでさえ国際経験の乏しい我々にとって、本番でベストなコンディションを作るのは難しかった。男子が最後に戦った国際大会は2020年3月、女子は2020年2月。男女ともその後に予定された(ワールドシリーズのコアチーム入りを争う)昇格大会、いくつかのワールドシリーズを経てオリンピックに臨んでいたとしたら、結果は違うものになっていた。素直にそう思います。

 男子はメダル獲得を目標に岩渕ヘッドコーチがち密に周到な準備をして臨んでくれました。大会では、初戦のフィジー代表戦、2戦目のイギリス代表戦の最初のキックオフが全てだったと思います。フィジー代表戦は(接戦を演じて)最後に勝利する流れを作りましたがそれを失った(手痛いミスがあり、19―24で惜敗)。イギリス代表戦ではキックオフでコンテストに競り勝ちながらもそのボールを不運にも手にできなかった(0―34)。

 セブンズラグビーがセンシティブな競技であるなか、日本選手のナイーブな面ばかりが出て最後まで修正できなかった。そのナイーブな面を変えるところを含め、この5年間、地力をつけることに取り組んだのは事実ですが、そこに至らなかった。

 地力をつける取り組みのひとつは代表の活動日数を増やすこと。この5年間の年間平均活動日数はリオ前を42日、上回る164日で、2019年は232日を数えました。強化拠点の整備も進みました(東京都内に何度も練習に使用するグラウンドがあった)。

 そしてもうひとつ。セブンズの専門性が高まるなか、専任選手を増やすことです。所属チームとの契約、選手との直接契約を含めた専任契約の制度を導入。この制度により選手全体で2017年1名、18年4名、19年18名と、20年26名、21年20名と契約をかわしましたが、専任化の推進、制度導入の目的は、オリンピックまでの4年間、20名程度のコア選手を固定して強化することにあったわけですから、やや物足りない数字と言えるかもしれません。

 いずれにしても強化の原点は毎年ワールドシリーズにコアチームとして参戦し、経験値、実績値を重ね、オリンピックに臨むというストーリーが正しいことに間違いありません。今後も早期からの専任化を推進するのはマストです。

 一方で、専任化は、もろ刃の剣であることも認識しないといけない。選手にセブンズ、15人制のどちらでプレーするかの決断を早い段階で迫ることになるからです。その結果として、代表チームの水準が下がる危険性もはらんでいます。この辺りについては十分な議論が必要です。

 それと同時に、オリンピックでメダル獲得を目指してくれる選手を増やすためにも、セブンズの魅力、価値の発信は避けて通れません。十分な検討をするタイミングに来ていると感じます。

 ただ、男子選手のポテンシャルを悲観することはありません。パリでもメダル獲得の旗を降ろさずチャレンジして欲しい。

 女子に移ります。ハレには7か月間という短い時間のなか、メダル争いの土俵にチームを引き上げるべくベストを尽くしてくれました。しかし、目指すところと現在地のギャップの現実を突きつけられた。体格、フィジカル、スピードなどアスリート性での苦戦は織り込み済みでしたが、日本らしさも発揮できなかった。

 女子のこれまでの取り組みは競技力の底上げと人材育成の2点です。

 競技力の底上げについては、2014年に創設した太陽生命ウィメンズシリーズのチーム数の充実、ゲームレベルの進歩を見れば、ベースの競技力が高まったのは明らか。女子はアカデミー、デベロップメント、代表へのパスウェイができている。その流れと、早い選手では高校生から(代表候補による)チャレンジチームとして太陽生命シリーズでプレーする…といったように、うまくリンクはしています。その意味では、チーム強化の一貫性、継続性の担保はスムーズだった。

 ただ、多くの選手の代表デビューが大学生、高校生時代だったことを考えると、ベースの競技力があがったとしても代表チームの選手層に厚みをもたらしたかは少し疑問です。

 世界と比較して、日本の女子代表が成熟しきれていないということではないかと思います。今回、東京で戦ってくれた若い世代の選手たちには、次の五輪でも中心となって活躍してもらいたいと思っています。

 人材発掘については、多種目からの発掘に積極的に取り組んできました。トライアウトを含め、5名が種目転向してくれました。しかし、メンバーには残りませんでした。

 海外選手と比べアスリート能力の差が大きい女子は、ラグビー選手としてのパスウェイはもちろん、体格やある特定の能力に秀でた選手の発掘、育成は今後も欠かせません。男子よりも長いスパンでの強化設定が必要ですが、パリでもメダル獲得の旗を降ろさずに行って欲しいと思います。

またすぐそこにパリが迫っています。私は退任しますが、新しい体制で成果を発揮することに向かっていきます」

岩渕

「7人制のなかでナイーブさ、繊細さがゲームで出てくる時にチームをどう立て直すかが大きな鍵でした。詳しくはまたお話しできればと思いますが、その部分、特に1戦目、2戦目でいいパフォーマンスをさせられなかったことに大きな責任を感じています」

マキリ

「7か月という短い時間のなかで五輪を目指して強化するのは大きなチャレンジでした。ただ、それは最初から分かっていました。

 これまで女子の培ったものを全部、変えるということはしたくなかった。そこで何を変えるか。マインドセット、ディジョンメイキングの能力、プレッシャー下でも自信を持ち続けることを、彼女たちに持たせたい。それを主軸に、フィジカルレベルの向上、ラグビーに関することについて強化に努めてきました。オリンピックで彼女が受けるパワーの大きさ、激しさがトップレベルになるのはわかっていた。なるべくその状況でもポジティブに戦える状況を作りたかった。なかなか難しい状況下でも互いに切磋琢磨してやりあっていくことで、そうしたこと(確たる心構え、状況判断力、圧力下でも動じない自信)を培っていければと常々思っていました。

 またラグビーでは、常に相手に対してイノベーションでなくてはならない。そのあたりをもっと発揮できればよかった。そこが足りずに日本協会、ファンの皆さん、チームに携わってくれた皆さんの期待に応えられなかった。残念であり、申し訳なく思っています」

——前回大会時よりも力を維持できなかったのはなぜか。

岩渕

「リオデジャネイロ大会後、男子については活動日数、7人制を専任でプレーするという大きな柱で進めてきた。そこについては前向きな数字が出ていますし、2020年3月までのワールドシリーズの結果、勝敗数で言えば、いい結果が出ています。順調という言い方はおかしいですが、強化は前に進む成果を挙げられていたとは思っています。一方、この1年半、国際大会ができない状況になってからの強化という意味では、男子の場合は、コロナ禍において活動することを優先してきましたが、もともと男子の実力を考えますと、保守的な戦い方、保守的な強化の仕方では結果を出せない状況なのは、過去の力関係(ワールドシリーズで敗戦やコアチーム降格を重ねている)からもはっきりとしていました。そこで私自身がヘッドコーチとして思い切った強化戦略を出せなかったというのが、自分自身の反省、責任として強く感じています。

 陽性者を出さないという(意識の)なか、過去にしてきた思い切った取り組みができず、それで戦い方、強化、トレーニングの仕方も保守的になった。自分のなかでもレビューし、そう強く感じています。

 1年延びた期間を有効に使うのが我々の仕事だったと思いますが、それが十分にできなかった。それが結果に大きく影響したと感じています」

 ここでの「保守的」もしくは冒頭の「ナイーブさ」という点については、別な問答でこうも示している。

——男子の「ナイーブさ」がなぜ大事な時に発生したか。

岩渕

「オリンピックに限ってそれが出たというわけではないと思います。私が指揮を執り始めた直後のワールドカップ・セブンズでもフィジー代表と戦いました(前半をリードするも10―35と敗戦)。その時のフィジー代表戦と今回のフィジー代表戦とでは内容はまったく違う。以前はまったく準備する時間がないまま戦いましたが、今回は——最終決定自体はそこまで前ではございませんが——我々としてはフィジー代表と当たる可能性がかなりあると思い、準備をしてまいりました。今回、2020年3月の大会が終わってからオリンピックまでの期間のなかで、そこまで進めてきた強化をうまくシンクロさせられなかったところがあります。

(その強化とは)地力をつける(ことへの注力=※)。今回のオリンピックで予選が3試合あって、初戦を落としても次、またその次の試合に勝てば決勝トーナメントに進むチャンスがありました。ただ、そのようにしていくには地力がなければいけない」

 本城、岩渕の言う「地力」とは、例えばリオデジャネイロ大会でニュージーランド代表を倒した際に見られた周到な準備に基づく一発勝負での強さとは別なものと見られる。ここから続く岩渕の談話からは、本番までにどれだけの「地力」をつけられたのかが読み取れるような。

「この1年半の間、地力をつける取り組みをゲーム形式でやるのが難しい状況になっていった。(日本にいる海外選手主体のチームを合宿へ呼んで)本番と同じプレッシャーをかけるように練習に取り組みましたし、選手も努力をしてきました。しかし、(結局は)やはり本番のプレッシャーのなかで選手やベンチが判断していくということが、オリンピックの大切な舞台で機能させられなかった。それはひとえに私の責任です。

 選手、スタッフは、オリンピックでフィジー代表に勝つべく準備し、いいシナリオで試合を進められたと思っています。勝てるチャンスがあったどころか、勝たなければいけない試合だったと思っています。そのなかで出たナイーブさというのは、選手からというより、私(から出たもの)。

 私は強化の担当者として積極的に色んな強化を進めてきたと考えていますが(気象データの活用など)、ヘッドコーチとしての現場での最終決断、試合中の最終決断のところで積極的に行けなかった。その判断が鈍ってしまったというのが、あったと思います。

 地力をつけるのを念頭には置きましたが、本番の段階で自分たちの力がどのくらいかは、わかっていました。今回、オリンピックでメダルを獲るには、外側からのサポートが重要だとスタッフにも、話していました。

 試合中の選手交代、戦術の伝達、選手が機能しない時の手助けがポイントだった。しかし、いま試合を振り返っても、そのあたりでうまく判断できなかったと思っています。

 繰り返しになりますが、私自身が色んな取り組みに対して保守的になったことが、自分自身の決断に大きく影響した。

 地力をつけるのが大切な一方で、自分たちがどれくらいの力かというのはよく理解していました。オリンピックでは11番目のシードでしたので、そのくらいの実力だろうというのは、わかっていました。そこでメダルを獲る、という目標を考えた時、初戦に勝つのは一番大きなポイントだと考えていました。そこまでの筋道は選手が作ってくれたにもかかわらず、過去数か月、1年ちょっとの取り組みのなかでの積極性が、最後の最後のゲームの判断で出てしまったな、と強く感じています。

 戦績、結果としてよくなった、勝てなかったところに勝てるようになった、あるいは勝ったことがあるという意味では、過去よりもよくなったことは事実だと思います。バックボーンでは、5年間通しての活動日数と専任化によって前向きなところが出ていた。それから、やっている選手のクオリティは確実に上がった。その前がどうというのではなく、リオデジャネイロ大会を経験した選手、経験できなかった選手たちが一緒になって前に進めた。オリンピックの貯金を得て、それを活かすことができた。

 一方、今回の東京大会では、地力は、なかったと思います。そこには最後の1年数か月を前向きに使えなかった計画(の問題)があります。選手たちの貯金と私自身の貯金がイコールにならなかった。ハレは『イノベーティブでなければ日本は勝てない』と。実際、そうです。また、過去のワールドシリーズやオリンピックでもそういう(先進的であった)時に結果を出していました。それにもかかわらず、私自身が大事な舞台でチャレンジしたり、イノベーティブにできたりしなかった」

 報道陣からは、指導体制の一貫性についての質問が飛んだ。岩渕が就任したのは2018年6月。さらにマキリがいまの立場になったのはいまから約7か月前だったからだ。もっとも本城は「こういう結果に終わったのでそういう話も出てくると思いますが」と毅然としていた。

——女子は大会直前に新指揮官が就任。男子でもリオデジャネイロ大会終了後から2年後にヘッドコーチ交替がありました。4年、ないしは5年間の間で指導体制の変化があったことはどう評価するか。

本城

「こういう結果に終わったのでそういう話も出てくると思いますが、リオが終わって、オリンピックを区切りとして新たな(カラウナ前ヘッドコーチによる)体制を作ったと。そして、男子については、そこからさらに強化のスピードを上げていくことを念頭に(2018年に)新たな体制を作った。

 そのタイミング、そのタイミングで判断をしておこなっていることなので、そこに何か大きな問題があったかというと、その点はある種、自然な流れで交代をしたということになると思います。

 女子については(指揮官交代に)いささか唐突感があったというご指摘があるのは、その通りだと思います。1年オリンピックが延期になったことで、新しい刺激が必要だと判断しました。つまり、動かずして結果を待つのか、リスクをある程度承知したうえで動いてチャレンジをして結果を待つのか。後者を取ったという判断です」

——女子のマキリヘッドコーチは、もともとオリンピック東京大会まで指揮を執る予定だったのか。もしくは成績次第では続投もあったのか。

本城

「どちらかといえば前者です」

——男子の岩渕ヘッドコーチは2019年から日本協会の専務理事との兼任となった。

本城

「専務理事との兼任は望ましい姿ではなかったのは事実です。ただ、それがチームに影響したことはなかった。本人は大変だったと思うが、両方をやり切ってくれた」

岩渕

「兼任していたかどうかではなく、ヘッドコーチとしての力がなかったんだと思います。スタッフが勝たなきゃいけないところに持って行ったなか、勝てなかった。ヘッドコーチとしての力量の問題だと思っています」

 もともと男女7人制日本代表の総監督だった岩渕がいまの立場に回った経緯は、当該の時期に掲載されたサッカーの次はラグビー? 岩渕健輔、メダル獲得への決意。【ラグビー旬な一問一答】に詳しい。

 リオデジャネイロ大会後にダミアン・カラウナヘッドコーチを招聘も、約2年間の強化プロセスを踏まえて指揮官の交代を決断。岩渕は2016年リオデジャネイロ大会まで続いた瀬川智広ヘッドコーチ体制も側面支援していた。

 そのため、指揮官就任に関するこれより先の問答については、上記の事実関係を再確認したうえでお読みいただきたい。

——リオデジャネイロ大会で4位だった瀬川ヘッドコーチを解任したことは間違っていなかったのか。

本城

「それはわからないですね。今回こういう結果だったことは事実ですが、今回はリオデジャネイロと同じ体制で臨んでいないので、正直、わからないです」

岩渕

「仮定の話なのでどうなっていたかはわからない。そういう議論は過去の15人制においてもありましたが、どっちの方がよかったかは答えられないと思います。ただ今回の結果がこうなったことに対しては、自分自身がクリティカルなところでチャレンジができなかったことに大きな責任を感じています」

 会見では他に、選手選考に関する質問も出た。長らく専任契約をかわしていた男子選手が本番でプレーしていなかったことなどを踏まえた内容だった。

 それに対して岩渕はこうだ。

「長くかかわっているからオリンピックに出られるというわけではない。(代表にいた)期間を問わず、どの選手も7人制に対して前向きに取り組んでくれた。他方、強化のなかで何回かのセレクションのタイミングについては、これまで参加してくれた選手に対して明確に提示してきました。そのなかで選ぶ、選ばないについては、見る方によって確度は違います。それに関し、なぜ選ばなかったかについては選手に伝えています。それが納得できる、できないは選手によってございますが、少なくともそのプロセスでやっています」

 事実、男子代表の顔ぶれにはリオデジャネイロ大会の経験者や海外での代表経験者など多士済々の顔ぶれ。本番で見られた「ナイーブさ」の背景については、前掲の岩渕の談話通りだ。

 本質は、本来描いていた強化プランが思い通りに進んでいたかどうかであろう。また、もしプラン通りのプロセスを踏めなかったとしたら、何が原因だったのか…。

 グラウンドの外にあったかもしれぬ敗因について、本城たちはこう言及した。

——男子の専任契約制度。思うように機能しなかった理由は。

本城

「冒頭でご説明した通り、本来であれば男子の専任契約の正しい姿は、リオデジャネイロ大会以降の4季でメンバーを——新陳代謝をさせながら——固定して戦って、時間をかけて(チームを)作っていくのが正しいというものだったと思っています。ただ、専任化を推進し始めた最初の2年間は、選手の育成というのに関してはとっても苦労しました。

 これはすごく、根が深いというか、難しい問題だと思っています。

 日常的にセブンズをプレーする環境が(日本に)ない。だから専任契約という話になるんですが、選手の立場からすると、15人制日本代表も目指したいし、トップリーグもしくは新リーグの所属チームでもプレーをしたい。それは自然な流れです。そのなかで4年間、セブンズ専任でプレーをするのは大きな決断になります」

 確かに今度の東京大会に向けても、リオデジャネイロ大会で活躍した羽野一志や合谷和弘、同大会のメンバー入りに迫っていた藤田慶和が合流したのは2018年以降。それ以前の屋台骨を支えた顔ぶれには、経験値の浅いメンバーも少なくなかった。本城は続ける。

「これに対する特効薬はないと思っています。やるべきことは、選手たちがオリンピックに出てメダルを獲得したいと思ってもらえるようなチームになることです。一番のマーケティングはチームが強くなること。現場に負担をか

けつつ頑張ってもらいました。

(それ以外には)ワールドシリーズを招致する、アジアシリーズを日本で開く、年に数回は国内でセブンズフェスティバル的なものを開催するなど、日本でセブンズのプレーを生で見てもらうところからスタートすること(が必要)。そうしてセブンズ自体の価値、魅力、ステータスを上げていく。そんな取り組みをしていかないと、なかなか選手に選んでもらえる存在にはならないと思っています。

 もうひとつ、誤解を恐れず、言葉を選ばず言いますが、代表チーム側の割り切りもあると思います。

 リオデジャネイロ大会後最初におこなわれたワールドシリーズではコアチームとして全10大会に参加しましたが、ここでは総勢27名の選手がプレーをしています。そのなかで(東京大会に向けた)最終選考に残ったのは7名です。残り20名は——結果としてですが——最終選考に残らなかったというか、次のシーズンも継続して(7人制を)やるような形にはならなかった選手たちです。

 代表チームサイドは、その辺を4年間、割り切って強化するということにシフトして臨むというのもひとつのやり方かなと思います(よりメンバーを固定化することを意味するか)。ただし、それにはリスクも伴う。そのあたりも含め、議論する必要がある」

——女子については。

本城

「女子は男子以上に活動日数を割いてやっていきたいんですが、選手の入れ替わりのサイクルが凄く早いというか。今回、平均年齢は22歳ほど。年齢だけで物事を判断するつもりはないですが、若い選手に頼らざるを得ない状況でした。この選手たちが3年後残って、次に新しい選手が残ってという循環になっていかないと、いつまでたっても経験の少ない選手でメンバーが編成されるという構図が変わっていかない」

——今後について。女子ではさらに身体能力の高いタレントの発掘、男子では専任化の推進へ強化予算の確保が課題となるのでは。

本城

「女子のタレント発掘ということで、冒頭でお話した通り5人の種目転向がありましたが、メンバーに選ばれなかった。ラグビー選手のパスウェイと競技転向からのアスリート発掘というのは、これからも両輪でやっていかないといけない。ハレとも話をしましたが、全国でトライアウトを頻繁にやって、そこに我こそはという人に応募してもらうようなことも含め(着手したい)。数も増やしていかないといけない。

 男子については、お金の問題ではないと思っています。4年後のオリンピックを目指して『やります』と踏ん切りをつけてくれる選手が少ないことが根っこにあります。だったら、完全に競技として(15人制と7人制の代表を)セパレートした方がいいというご意見があるのも事実。検討しないといけない」

 ここでの「セパレート」とは、15人制の選手から7人制日本代表を選ぶいまの構造を見直すことを指すのだろう。有力選手が7人制へ注力するタイミングを待つよりも先に、わずかながらに存在する7人制に全てを賭けるタレントに多くを投資するイメージか。本城は続ける。

「この4年間はそこまで踏み込んでいくと、代表チームの一定水準が担保できない心配があって踏み込まなかった。ただ、すぐにそう(分割)するかどうかは別にして、重要なテーマとして議論すべきだと思います」

岩渕

「今回のオリンピックが終わり、会長、副会長とも話をしました。協会としてはっきりしているのは、男女ともメダルを獲りに行くというスタンス。より加速させる必要がある。ここははっきりお伝えします。一方。本城ディレクターからもあったように、解決しなきゃいけないことはある。お金の問題は当然として、それ以上のことがある。男女とも、どこの国もやっていない先進的な取り組みが必要です。

 7人制が岐路に立っている。特に競技人口は多くない、かつトップ10前後にいる国は難しい状況にあります。日本も同様です。どう解決するかのひとつが専任化であり、15人制との両立でしたが、ここから再度見直し、より踏み込むか、それ以上のことを考えるか、別なことをするのか、強化の方で考える必要がある」

 指揮官は両者ともこの日限りで退任。本城も8月いっぱいで現職を辞する。

 新たなヘッドコーチ選考に関しては、会議体「次期ヘッドコーチ選考会議(議長は森重隆・日本協会会長、顔ぶれは非公表)」がすでに稼働。推薦候補者を選考、理事会審議を経て、決定するとのこと。男子は9月18日からのワールドシリーズ・バンクーバー大会で出場権を持つが、代行ヘッドコーチを立てての参加の可能性もある。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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