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ポールないグラウンド、サインプレー丸裸。日本代表、過酷な欧州遠征で得た課題。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
今回テストマッチデビューのフィフィタ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 今年5月下旬、約1年7か月ぶりに活動を再開させた日本代表は、7月5日までに遠征先の欧州から帰国。6日、藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(NTD)がオンラインで会見した。

 チームは6月12日にサンウルブズとの強化試合を実施し、欧州で2つのテストマッチ(代表戦)に挑んだ。26日はエディンバラ・マレーフィールドスタジアムでブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに10―28で敗れ、7月3日にはダブリン・アビバスタジアムでアイルランド代表に31―39と屈した。

 2019年のワールドカップ日本大会ではアイルランド代表などを破って初の8強入り。2023年のフランス大会に向け、今度の遠征から何を得て、どう活かすか。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと親交の深い藤井NTDが隔離先のホテルで青写真を示した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ツアーを振り返って。

「チームは尻上がりによくなった。負けはしましたけど、いい方向に向かっている。怪我人も、姫野(和樹)と松島(幸太朗)も途中、出られなかったんですけど、幸いに大怪我ではなく、時間が経てばきっちり治ってくるんじゃないかと思っています。

 アウェーということで、このコロナの隔離環境のなか、選手は強いストレスのなか、ホテルからは一歩も出られませんでしたし、そのなかで集中力を切らさずワンチームを保って、コーチ陣、選手ともに最後まで戦い抜いてくれた。パフォーマンス的にもいい試合ができたと思っています。引き続き、8月の終わりから集めて次の大会に向かっていきたいと思っています」

——久々の代表戦でパフォーマンスが出せた理由は。

「前回のワールドカップ前に3年かけて、サンウルブズとか大変な苦労をして(首脳陣、主力選手がスーパーラグビーに参戦して試行錯誤)、コーチ陣、リーダー陣がどのようにしたらチームに戦術を落とし込めるかというノウハウを身に付けていた。短期間で、練習の意図、やり方が身体のなかに浸み込んでいて、新しい選手も含めて短期間で戦術を落とし込めた。ここが一番の要因だったと思っています。

相手によって(異なる)強みがあり、(日本代表はそれに対しての)スキルを身につけていった。それ(付与する技術)を次の相手によって変えていく。徐々にパワー、スピードがついて『どう相手を弱らせるか』のスキルを身につけたのがよかった。

 …それにしても、最初はアウェーで、ポールもないようなグラウンドに連れていかれて。オールブラックス(ニュージーランド代表)なら使わない練習場だった。これは協会の仕事になるかもしれないですが、世界と渡り合うところまでに行けていないというのが実感したところです」

——「ポールもないようなグラウンド」とは。

「スコットランドで。(同国が日本大会で)負けているのもあると思うんですけど…。環境としてはかなりストレスのかかる環境のなか、皆、集中力も切らさずによくやった。それと、サインプレーがほとんどばれたんですよね。(情報漏洩には)本当に気をつけてやったんですけど、完全に丸裸にされていたので、そういう意味では今後どうやって…。意表を突くプレーも作っていかないとああいう相手には勝てないですが、それをどのように落とし込んでいくかがこれからの課題だと思っています」

——向こうが用意したグラウンドを黙って使うと、よくないことが起きそう。

「十分にあり得る。(日本代表には)絶対に負けられないという雰囲気は色んな所から感じていた。いまのままだと、コーチ陣、選手が10パーセントプラスの実力をつけないと勝てない状況なので、ギリギリで勝つにはその部分(バックヤードでの準備)でも上回っていかないといけない。そこを今後どうするか。日本全体で戦わないと、アウェーで勝つのは難しい」

——フランス大会に向けた視察については。

「本当に1~2週間で状況がどんどん変わる。コロナだからとあまり早くから予定してやると間違える可能性がある。やる場所は決まっているので、ギリギリまでコロナの状況を見て、向こうの環境を合わせて整備したいと思っています。

 これはコーチ、選手の問題ではない。協会のなかにそういうセクションがあるのか、ないのかもわからないので、私たちが現地でどういうグラウンドで、どういう施設を使うかについて交渉していかないと、アウェーではストレスしかなくなってしまう。その部分では、まだまだティア2のレベルかと」

 ここでの「ティア」とはラグビー界の階層。伝統的強豪国をティア1と呼ぶ。現在はこの呼称をなくすべきとの潮流が強まっている。藤井氏もかねて「ティア1、2」との概念は差別用語に近いのではといった旨で話していたが、今度の練習環境を受けて「ティア2のレベル」との表現で自責した格好だ。

——ここからは、遠征のプレーについて振り返っていただきます。セットプレーの安定ぶりと若手の台頭について。

「セットプレーの進め方も含めリーダー陣、コーチ陣がうまく連携。起きている間はセットプレーの勉強をしている感じ。慣れてきたのかなと。新人はこれぐらいやるだろうという選手と、(2020年の)サンウルブズの時によかったという選手――齋藤もよかったですし――その意味では層が厚くなった。今回の遠征では非常に良かった点かなと思います」

——アイルランド代表は、ラインアウトからの1次目でフォワードとバックスの切れ目を攻め込んでいた。

「アイルランド代表はアンストラクチャーのチームに弱くて、そういうアンストラクチャーのチームにばかり負けている。そこ(日本代表はその展開)にもっていかないといけなかった。自分たち的にはああいう形で回される方がよかったのですけど、何せ試合はやっていないので、予期せぬことが起きた。簡単にゲインしたり、裏に出ることができたりしたので、ちょっと軽いプレーがいくつかあって、その中から点数を取られた。あの部分はすぐに治る。特に、相手の『あそこが怖い』というのはなかった。ただ、モメンタムで前に行かれたのだけはきつかったですし、あの部分を止めていかないと次には行けない。次に行くには、あのモメンタムを止めることだと思っています」

——「相手のモメンタムを止める」。方法は。

「ゴール前ではひとりの選手に2人バインドして入ってきた。ディフェンスでも1人のアタックに2人が来ていた。うちの選手はどっちかというと、2人で来た選手に対して2人で行っていた。バインドした選手にもプレッシャーをかけたんですが、そこに1人しか行っていなかった。(体格差があるなかでの)1人に対して1人では、影響はあったのか…と。

 あとは、後ろから走り込んできた選手に前に出られていた。あの辺は、速く立ってセットして前に出るか、テクニックで補うか…。その部分は、コーチ陣で補っていくと思います」

——リーチ マイケル主将について。リーダーシップの部分で極端に負荷がかかっているのでは。

「尻上がりによくなった。(遠征中に)彼のリーダーの仕事を減らして、ラグビーに集中できるようにしたらよくなった。ただ、リーダーを代えることが彼のパフォーマンスをあげる要因とは限らない。リーダーであり続けるのがモチベーションのひとつだと思う。そこは話をしながら、彼のパフォーマンスを出せるようにしたいとコーチ陣で話した。それで最後、結構、よかったので、あのやり方がいいと思います。アイルランド代表戦前は、(仕事の)中身を変えたので、そこが成功した」

——リーチ選手と同学年で司令塔の田村優選手は、次回大会へ向けても重責を担うか。

「そこは選手が出てくればというところ。いまのところ彼に並ぶ選手がいない。あと、彼はビッグゲームの選手。相手が強くなるほどいいパフォーマンスをする。その意味では、いまのところ、田村の代わりが日本にいないというのが、彼が出続けている理由だと思います」

 選手層の拡大へは、高いレベルにおける若手のプレー機会の確保が急務だとした。まずは、8月下旬以降の代表合宿と代表戦について語る。

——この先について。8月以降の合宿や試合の日程や人数について。

「合宿を経て国内で——相手がどこかは決定していないですが——人数は今回、欧州へ行った人数からは多めにしています」

——春に発表した候補選手が中心か。

「それプラスアルファの選手も出てくる可能性も、マイナスになる可能性もある。サンウルブズ戦で出た選手は少し早めに始めて——個人メニューになると思うんですけど——今回の代表メンバーでは体脂肪率、フィットネスで規定値に達したメンバーはしっかり休みます。そうでない選手は少し早めに始めて、9月2日にテストをして、最初の合宿に呼ぶ選手を決めて、9月中旬には全員、揃ってできる形にしたい」

——ガンター選手は母国へ帰った模様です。テストマッチデビューをしていない人が一定期間以上の帰国をした場合も、代表資格は失効されることはありませんか。

「それも確認して、帰れる状況の選手だけ、帰っています」

——秋の試合数は。

「ホームで練習試合を含めて2試合。海外で3試合の5試合を交渉中というところです」

——2022年以降の試合は。クラブチームベースでのクロスボーダーマッチが開催される予定、とも伝えられていますが…。

「来年に関してはテストマッチの予定しかない。クロスボーダーも引き続き話していかなきゃいけないと思っているのですが、海外では国によってコロナのレベルや考え方も違う。イギリスなんて、観客もマスクしてないような状況やったので。だから、今後19日から規制がなくなると聞いていたので、国によってどう情勢が変わるのかなと」

——試合数確保の交渉は。

「基本的には岩渕(健輔)専務理事と、海外の担当者と、やりたいレベルの相手を探しながらやる感じ。数というより、相手とタイミングを重視しています」

——2022年1月からの新リーグが始まる前までは試合のない期間が続く。

「今回も問題でしたが、スコッドに外れた選手が次のレベルでやるチームがない。例えばジュニア・ジャパン、ニュージーランドで言うとマオリ・オールブラックスのようなものが。イギリスでも話したが、『ちょっといいな』という選手に、(2021年までの)トップリーグではなく、国際レベルの試合を経験させたい。今回はサンウルブズがなくなった(国際リーグのスーパーラグビーでの日本チーム参加枠が2020年限りで消えた)。この経験をどう若い選手に積ませるかで、頭を悩ませている」

——それはU20(20歳以下)日本代表のことか。

「日本の場合、20歳までは大学に行っているのでコントロールするのが難しい。高卒選手が出てくれればU20でもいいですが、代表に直結する強化をするのならジュニア・ジャパンのように年齢が23歳くらいまでの選手を海外でやらせるように。あとはトップリーグの若い選手で1チーム、作って、(海外の)大会、もしくはトップリーグ(2022年1月からの新リーグ)Lに出させるとかをしないと。『ちょっと見たい選手』がやりたいラグビーのなかでできるかが見られない状況。その辺の連携がなかったと言えば、なかった。今後は、それをひっくるめてやりたいと思っています」

 現在は隔離期間中。帰国後の長時間におよぶ滞留については、選手のSNSからも明らかだ。

——選手のいまの状態は。

「関西の11人は9時に到着し、PCRの検査を受けてホテルに入ったのが夜の7時くらい。ものすごい大変やったんです。試合もして朝5時に出て、(到着後は)ぶとうパンひとつで(空港で)過ごした。今朝は結構、ゆっくり寝たんじゃないかと。食事も大変で、一歩も外に出られない。色んな食事を頼んだりしながら、6日間耐えるしかないかなと思います。もう1週間は自宅で自主隔離となります」

——隔離の免除がなかったのはオリンピック競技ではなかったためか。

「そう聞かされていた。ただ、オリンピックにも関係ないスポーツの人が出されていた。どんな形になっているかわからないですが、次はスポーツ庁とかに交渉したい。(空港での長時間滞留は)めちゃくちゃ大変なんですよ!」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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