後半にインパクト。「エッジ」の見直し。日本代表、ライオンズ戦で得た収穫と課題。【ラグビー雑記帳】
ドリームチームのチョークタックルは見事だった。
イギリス、アイルランドの計4協会の精鋭が集うブリティッシュ・アイリッシュライオンズ(ライオンズ)は、ボールを動かす日本代表のランナーをおもにグラウンドの端で待ち構える。捕らえる。掴み上げる。
前半8分頃には、この午後充実のウイング、松島幸太朗が右タッチライン際から大男の下をもぐるよう切れ込むも、アイルランドから呼ばれたジャック・コナンの上腕に丸め込まれる。攻撃は打ち止め。日本代表はその直後、陣地を戻された先でも反則を犯す。まもなく先制された。
フランカーのリーチ マイケルキャプテンは「自分たちのボディハイト(姿勢)が高くなって…。間違いなく、向こうの戦術のひとつだった」。アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーはこうだ。
「(次戦までに)成長させたいところは、エッジのアタック。ここをもう少しシャープにしなければ」
0―28とやや突き放された後半10分以降は、リーチに代わって投じられた姫野和樹がその「エッジ」で好ランを披露。ニュージーランドはハイランダーズで主力格となったバックローは、ボールを持って倒された後に起立し、加速する「ダブルアクション」の動きでも魅する。
勢いは加速する中央部分の接点付近では、やはり途中出場の両プロップ、クレイグ・ミラーとヴァル アサエリ愛が好突進。こちらもリザーブからの登場でテストマッチデビューのスクラムハーフ、齋藤直人は接点へ素早く寄って糸のパスを通す。
日本代表は、ボール保持の時間を増やしてゆく。
後半16分頃、自陣22メートル線エリア左から右大外へ2つフェーズを重ねる。おとりの動きを交えて右タッチライン際にスペースを生み出す。端で待ち構えたのは姫野とピーター・ラブスカフニという2人のフランカーだ。
姫野からパスをもらったラブスカフニがハーフ線までゲインし、姫野が首尾よくサポート。果たして再びの展開もうまくつながり、左中間でアサエリが「後半は相手が絶対に疲れる。試合に入ったら自分のベストを出したい。コンタクトは負けないように」と好突進を図る。
反則を誘うと、敵陣ゴール前右で序盤にミスの多かったラインアウトを成功させる。最後は姫野がサインプレーでトライ。19分のことだ。
以後も敵陣の深い位置でペナルティーゴールを選択し続けられるほど、効果的な攻め手を繰り出してはいた。
これから南アフリカ遠征へ出るライオンズのスタンドオフ、ダン・ビガーは、好意的な総括へかすかに反省点をにじませた。
「後半は少し停滞し、規律にも問題がありました。ただ、全員にとっていい試合になりました」
感染症の影響に苦しむ列島にあって、日本代表の活動は今回が約1年7か月ぶりだった。2019年のワールドカップ日本大会では春から秋までの長期拘束が実って初の8強入りも、今回の始動は国内リーグ直後の5月下旬。世界の強度への耐性を猛練習で磨いてきたチームにとって、端からタフな状況にあった。
それでもふたを開ければ、インサイドセンターの中村亮土、ロックのヴィンピー・ファンデルヴァルトが鋭い出足で好タックルを連発。向こうの持ち味だったモールは、空中で競り合いながら塊を作らせぬよう身体をねじ込む動きで封殺できた。地力がにじんだ。
敗因となったのは、相手のチョークタックルにつながるボール保持者の姿勢作りや根本的なフィジカリティか。特に後者の領域では、2年後のワールドカップフランス大会に向け中長期的な積み上げが求められそうだ。
ただしラファエレは「まずは、来週の試合に集中したいです。その先のことは、考えていません」。じっくりと進むのが、このチームの流儀だ。
チームは7月3日にアイルランド代表戦を控える。今回の先発勢は日本大会組が軸で、目立ったのは代表デビュー組の多かったリザーブ勢の奮闘だった。この図式は、次戦のメンバー編成へどんな影響を与えるか。じっくりと、着実に変化を遂げる。