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福岡堅樹、引退試合で優勝して「ほっとした」。同僚は軽妙なやり取り。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
有終の美を飾った。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 元ラグビー日本代表でこの春から順天堂大学医学部に入学した福岡堅樹が、5月23日、現役生活最後の試合となる国内トップリーグプレーオフ決勝にパナソニックのウイングとして先発。13点リードで迎えた前半30分にトライを決め、31―26で勝利した。

 前半30分、敵陣ゴール前左タッチライン際でスタンドオフの松田力也からの飛ばしパスをもらってフィニッシュ。ワールドカップに2大会連続出場を果たしたスピードスターは、有終の美を飾った。

 試合後は松田とともにオンライン会見に登壇。かねてスパイクを脱いでからは医者を目指すと公言してきた28歳は、クレバーな言い回しに終始した。

 共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――初優勝。ファンに伝えたいことは。

福岡

「とにかくこれまでずっと僕自身、日本ラグビー、パナソニックワイルドナイツのすべてを応援してきてくれたことに感謝を伝えたいです。たくさんの応援があったからこそ僕自身、自分の夢に向かってポジティブに進めた。これからは、これまでたくさんサポートしてもらったことを自分の形で恩返しできたらいいなと思います」

――優勝して終わった。どんなラグビー人生だったか。

福岡

「終わりの瞬間というのは、本当によかった! と。 そのために両立しながらやってきて、特に4月に大学に入学してからはかなりハードななかでやっていましたし、努力が実ってよかった。ラグビー人生に関しては、あまり振り返ってということを(考えにくい)。自分自身、引退するということに実感を伴ってない部分があるので、これから離れて感じることはあると思うんですけど。いま確実に言えることは、本当に僕は自分のラグビーとしてやりたいことはやりきれたので、何ひとつ後悔はない」

――もう本当にラグビーはやらないか。

福岡

「ハハハハ。基本的にはその予定です」

――ノーサイドの瞬間はひとりの時間を楽しんでいたように映った。

福岡

「試合が終わった瞬間に関しては、ほっとしたというのがあります。前半を大きくリードしたなかで最後の最後で競った展開になって、最後も本当に何かひとつ違えば逆転されるかもしれないなか、リードを守り切って勝てたのはよかったと思ったし、あぁ、よかったという思いがこみ上げてきました。そのなかで、あぁ、これでラグビーすることはないんだなと、じわじわと感じる部分はありました」

――トライシーンは。

福岡

「あのシーンは力也としっかりコミュニケーションが取れていて、目が合って、あ、こいつは放ってくれるとわかりました。外のスペースを有効に使える状態でスピードに乗れた。あとはいつもの形でトライできた。ディフェンスは(目の前に)いましたけど、あの形は自分が強く獲り切れる形だった。いつも通り走り切りました」

松田

「相手のディフェンスが順目(攻撃方向)に回ってきていないのがわかった。外がタイトになると思っていたら、堅樹さんがこちらを見てくれていた。あとは放ったらトライを獲ってくれると信じて放りました」

――サントリーにも日本代表の仲間がいたが。

福岡

「試合前の時点では敵であるので、100パーセント勝つ気で、叩き潰す気でやると。いざ終わってからは、流(大、サントリー)からもお疲れさまと言ってもらえて、彼とも小学校から一緒に切磋琢磨してやってきた仲間なので。最後、優勝という形で締められて、僕もありがとうという気持ちを伝えました」

――ロビー・ディーンズ監督は、ここ数年の間でトップリーグにおけるグラウンドの外側のブレイクダウン(接点)の質が上がったと言っていた。

福岡

「そこは海外でプレーするなかでも狙われていた部分で。そこでいかボールキープできるか。アウトサイドで勢いを出した後にジャッカルされて相手の流れに…ということはこれまでも多々あって、そこは課題だった部分でもある。ルール変更のなかで先に絡まれるとそれをはぐことがなかなか難しいなか、それ(大外での接点での動き)をスキルとして練習してきて、それぞれのチームが意識して取り組んできたことは、日本ラグビー界の成長には繋がっていると思います」

――シーズン中、受験、授業があった。

福岡

「いままでのラグビー中心の生活とはスケジュールも大きく変わりました。コンディションの調整が難しかった部分もあると思います。限られた時間をいかに有効に使うかを意識した。車で移動してすぐに練習ということもあったので、そのなかでしっかりと自分でコントロールをして、パフォーマンスを上げられるように。チームと相談しながら試行錯誤してここまでやり抜くことができた」

――グラウンド上でインタビューをした時、「患者さんの人生と向き合える医者」を目指すと話していた。医師像に向かい、人としてはどういった点を磨きたいか。

福岡

「色々と学んでいくなかで、怪我を治す、病気を治すにフォーカスするんじゃなく、その後の人生を考えた治療法を選択できるか。技術はこれから機械の導入で発展していくなか、心の部分、診断の精度はどうしても人間が担っていく。そこは高めていきたいです。自分自身、怪我の経験は人よりも共感できる部分ではあるので、そういうところは伸ばしていきたいです」

――アスリートの後輩へメッセージは。

福岡

「特にラグビー界のプロ化が進むなか、セカンドキャリアがネックになってなかなか一歩を踏み出せない選手もいると思います。前例がないからといって諦めた選手に、僕みたいな新しい挑戦をした選手(の存在)が『こういう道もある』と知らせ、新しい挑戦に取り組んでもらえるようになれば。(自身が)その可能性のひとつになれば嬉しく思います」

 複数の選手によるオンライン会見にあって、報道陣は福岡に関連した質問を集中させた。ひと際振るっていたのが、稲垣啓太と堀江翔太の発言である。日本代表の盟友でもある2人はこのようなやりとりで聞き手を和ませた。

――福岡選手へのコメントは。

稲垣

「さようなら、っていうくらいです。彼なりにいいプレーをしていましたし、試合後の表情、コメントを振り返っても、満足できるシーズンだったんじゃないかな。最高の形で送り出したと思うので、第2の人生、しっかり頑張って欲しいですね。僕らも彼の活躍を応援していますし、またこうやってラグビーを続けていれば彼に治療してもらう日が来るかもしれないので、そこまでラグビーを続けていたいですね」

堀江

「早く医者になってくれと。頑張って欲しい。彼のおかげで救われたこともありますし、僕らも彼を送り出したいと思えて相乗効果があったのも確かですし。もうちょっとできるやろうなぁとは思いますけど、いち早く医者になって欲しいなという思いも僕らは持っているので。早く、チームドクターになってくれたらって。一番、速く、選手のもとにかけつけられるんじゃないですか」

両者

「選手より速いチームドクター」

「期待しています」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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