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天理大学など関西ラグビーAリーグは11月から。入替戦中止の背景は?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
関西王者の天理大学(黒)は昨季の大学選手権で4強入り。(写真:築田 純/アフロスポーツ)

 9月24日のオンライン会見の最後。関西ラグビー協会の萩本光威会長が文書を読み上げた。

「関西ラグビー協会から、新型コロナウイルスに関わる偏見や差別を生まないためのご協力ということで。まず最前線に携わる医療従事者の皆様に敬意と感謝を表します。新型コロナウイルスは誰でもかかる可能性があり、本人に罪があるわけではありません。誤った情報や認識に伴う不当な差別、偏見、いじめは絶対におこなわないでください。苦しい時こそお互いを思いやりながら、早く励まし、元気になって戻って来た時には温かく迎えていただきますよう、メディアの皆様を通じて多くの方に広めていただきますようご協力をお願い申し上げます」

 おそらく、8月中旬にクラスターが発生した天理大学ラグビー部への誹謗中傷を踏まえての注意喚起だろう。

 この日は同協会が理事会を実施。終了後は、天理大学などが加盟する関西大学ラグビーAリーグ(1部相当)の新しい日程を発表した。

 

 もともとは8チームの総当たりで10月10日に開幕予定だったところ、スタートを11月7日にして、4チームを2つのリーグに分けて順位を付ける形にするとのことだ。この日に会見があるよりも前から、この方針が可決される見通しだった。

 感染症のトラブルが世界を揺らすなか、無事に試合が開催されることを喜ぶファンも多いだろう。ただし、今度のリーグ戦が公式戦として開催されるまでにはいくつものプロセスを経ていること、Bリーグ(2部相当)との入替戦がおこなわれないことなど注視すべき点があるのも確か。

 会見中の萩本会長、中尾晃リーグ委員長の問答や周辺取材を通し、現況を共有する。

 以下、公式会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

萩本

「本日はウェブ会議にご参加いただきありがとうございます。コロナ感染拡大防止の観点からウェブ会見とさせていただいたこと、ありがとうございます。多くの方に参加いただき関西ラグビーの関心の高さを感じている。関西ラグビーがさらに盛り上がるように報道をよろしくお願いします」

中尾

「Aリーグの概要ですが、Aリーグ8チームの総当たり戦全7節で計画していました。しかし、9月の初めにかけてリーグの各大学の状況を調査した結果、大学から活動停止状態で練習ができていないとか、コンタクト練習がまだできていないとか、感染者が出て活動ができていないというチームがAからBまで複数、存在した。運営方式、試合日程の見直しが必要になりました。

 一方で、大学選手権は例年通り開催予定であろうという状況でした。関西からも出場枠(3つ)があるため、遅くとも12月6日までには出場校を決定しなくてはならない。そうしたことから、10月の開幕を約4週間、遅らせて、11月7日から12月7日までの期間、8チームを半分の4チームに分けて3試合分をおこない、最後に順位決定戦をおこなう。このような変則的なリーグ戦となりますが、活動から準備期間も確保されて、選手の体調管理面も問題ないと考えています。

 Aリーグに関しては9月の初めの時点では関西学院大学(部外での感染に伴い屋外施設の利用が一時停止)と天理大学が10月には間に合わない状況でしたが、天理大学は9月10日から全体練習を再開。問題ない。ただ、関西学院大学はまだコンタクトを含めた練習再開に至っていない。

 そのほかのチームに関しては7月から継続してやっているので、当初計画していた10月10日からの試合は実施可能ではないかと。そのため10月10日から25日までは関西大学ラグビー交流戦という扱いで、当初計画していた会場で試合を実施したい」

――関西学院大学が11月の開幕に間に合わせられるという根拠は。

中尾

「現段階で今週初めから全体練習はまだできていないですが、全体を2つに分けて練習することが可能と聞いています。関西学院大学が活動停止になる前のガイドライン(日本ラグビー協会が唱えるラグビートレーニング再開のガイドライン=5.2なら用具を使った1人でのコンタクト練習が可能。5.3なら少人数でのユニットプレーもできる)のレベルが5.2~3くらいまで来ていた状況を考えると、これから6週間があれば11月7日のシーズンには間に合うんじゃないかと。いまのところはそう思っております」

――この11月からの戦いは公式戦という扱いか。

 

萩本

「公式試合です」

――今月頭のリーグ委員会の時点では、今回の順位決定戦が実施される場合は「リーグ戦不成立」となるのではという話になっていた。結局、この11月からの戦いはもともと公式戦扱いにする予定だったか。それとも、議論を重ねるなかで公式戦にしたのか。

中尾

「ここに至るまでに数回リーグ委員会を重ねました。何とか違った形でリーグを開催できないかという案が色々と出まして、最終的に出たのが4チームに分けて順位決定戦をやるという形になりました」

――この戦いを公式戦扱いにすると決めたタイミングは。

中尾

「正式に決まったのはきょうです」

――関西学院大学以外は交流戦をおこなう。交流戦をするチームとそうでないチームとの間で仕上がりに差が出そうだが、議論、異論は理事会で出なかったのか。

萩本

「理事会では出ておりません」

――公平性が問われそうだが。

萩本

「今年度はコロナの影響もあって、特別な年だと思っています。日本協会でも岩渕健輔専務理事が『大学選手権をおこなう』と言う方針も出しているので、柔軟に対応しなくてはいけないという議論を重ねて、各大学が納得したということになっています」

――これから万が一、感染事例が出て11月7日の開幕が難しくなった場合は。

中尾

「感染者が出た場合は決めていないですが、大学選手権(出場校決定)は11月7日からいまの形で実施できなければ代表3チームを選出できないと考えています。11月以降で(感染者が)出た場合は日本協会と相談する形になろうかと思っています」

――大会中、関西協会はどんな感染症対策をおこなうのか。

中尾

「最終的に各チームの方々と意見交換をしながらやっている段階で、もう少し時間がかかる」

萩本

「コロナ対策のガイドラインは大学委員会などですでに策定している。それに則ってグラウンド内外で対応したいと思っています」

 萩本会長が読み上げた通り、いまの国民にとっての最善手は罹患者への偏見をなくしながら感染症の拡大を防ぐことだろう。今度のリーグ戦開催も、その延長線上にある出来事。学生が思い切り身体をぶつけ合う前提にも、各自の健康や安全は不可欠だ。交流試合の公平性に関する点を含め、さらなる情報発信が求められる。

 そして、より深掘りされるべきは入替戦の話題だ。

 今季の関西大学リーグ戦では、下部との入替戦は実施されない。

 上部リーグの下位チームと下部リーグの上位チームが激突する入替戦は、出場校の来季以降のプレー環境、強化予算などを大きく左右するビッグマッチ。

 中止に持ち込む場合は、下部リーグのクラブへの相当な説明が求められるところだが…。

――入替戦の中止について。

中尾

「入替戦に関しましては色々と議論はありました。関西リーグということでリーグ総当たりの試合をやってリーグを成立させることと、コロナの関係でコンディションがそれぞれ違うチームがマイナスの評価を受けるようなことはやめようということで、最終的にはリーグ委員会のなかで承認していただいたという状況になっています」

――その見解には一定の理解は示せる一方、B以下のチームのモチベーションが気になります。

中尾

「その点は、最後まで『下のチームの目標がなくなる』ということで、最後まで議論になりました。ただ、その他のチームを含めて『目標が本当に入替戦だけか』となると『少しでも試合を多くやってあげる』『試合からいろいろ学ぶことがあるのではないか』となり、最終的にその意見でまとまった」

――確認です。その決定は、全チームが了承したという認識か。

中尾

「はい。リーグ委員会で全チームが認めたということで」

 入替戦の消滅については、「チームによって意見は異なると思う」「リスクを最小化するには仕方がない」という意見がある一方、「反対意見はあったが受け入れられなかったと聞いている」と話す大学関係者もいる。

 もし、実態の見えぬ「特別な状況」という文言を隠れ蓑に議論の透明性を失わせたり、「全チームが認めた」という説明で一部のチームの関係者に消化不良をもたらしたりしているのだとしたら、アスリートの命を守ることとは別な領域で議論が求められよう。

 今回の正式発表が、すべての当事者にとって納得のいくものであることを願う。改めて、関西大学Aリーグは11月7日に開幕する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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