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ワールドカップ開幕から1年。日本代表はいま。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ロシア代表戦。ボールを持つ松島幸太朗は現在、フランスのクレルモンに所属。(写真:アフロ)

 ピンチに出くわしてもたくましかった。1年前の9月20日、ラグビー日本代表は東京の味の素スタジアムでワールドカップ日本大会の開幕戦に挑む。

 ロシア代表に30-10で勝利。本番直前になって試合用のボールと練習で使っていたボールの大きさが違うのではという疑惑が発生したり、当日は日本代表の往路のバスが交通渋滞に巻き込まれたり、複数の選手が過緊張に映ったりするなか、そもそもの地力の差をスコアボードに反映させたのだ。

 その後、予選プールで全勝して初の8強入りを果たした。同時並行で起こったのは、空前のラグビーブームだ。

 同代表のスローガンである『ONE TEAM』は流行語大賞を受賞。大会組織委員会によれば、今大会期間を通じての観客動員数は延べ170万4443人、1試合の平均観客数は37877人(※1)、実質的な黒字は約68億円にのぼった。

■2020年活動見合わせの背景

 あれから1年。日本ラグビー界は、新しい波と対峙している。

 前年の体制を継続する日本代表は当初、6、7、11月にウェールズ代表、イングランド代表、スコットランド代表、アイルランド代表といった強豪国とのテストマッチ(代表戦)をするはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて世界中のラグビー界が足止めされる。

 まず、夏前のテストマッチが予定通りの開催はできなくなった。1月から実施の国内トップリーグも、2月下旬までの計6節を終えて不成立となった。

 一時は6、7月の試合が秋に延期される可能性もあったため、首脳陣は水面下で約50名の候補選手をリストアップ。それぞれに平時の肉体強化や走り込みのメニュー、週に1度のフィットネステストを課した。オンライン上のミーティングやレクリエーションの機会も作り、チームの土台のそのまた土台の構築に取り組んでいた。今回初めて候補入りした選手は「これだけのことをして8強入りしたのか」と、ナショナルチームのハードワークの文化に触れたことを前向きにとらえた。

 ファンの潜在的ニーズは、当分、叶わないこととなった。

 8月には11月の試合もおこなわれないこととなり、それと同時並行で企画された国際大会、エイトネーションズ(※2)の参加要請も、列島は辞退した。ジョセフ側で話をもちかけようとしたというニュージーランドへ渡っての国際試合も、実現には至らなかった。

 日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事は、こう説明した。

「日本代表はワールドカップで結果を出した。ティア1と呼ばれる(強豪の)チームとどう試合を組むか、組めたらそこに向かってどうトレーニングをするかを毎週のように話してきました。これらのチームと試合をするにあたり、最低限の準備がどうしても必要だとも思っています。状況が変わるのを待ちながら考えたのですが、想定した状況を作り出すことはできなかった」

 ジョセフに限らず、強化に携わった複数の関係者が日本代表の特徴を「準備に時間をかけるほど力を発揮する」と看破してきた。ましてや長らく実戦からも遠ざかった状況下。「大国とぶつかるには綿密な準備が前提だという見解は、そのまま2020年の活動見合わせの確たる根拠となった。

■本当の『ONE TEAM』へ

 時計は巻き戻せない。日本ラグビー界は、これまでに起きたことのすべてを受け入れ、かつ、競技文化の定着と代表強化の両立を目指すこととなる。

 名実ともにラグビーの盛んな国のひとつになるには、コロナ禍の発生を嘆く以前に検討すべき課題はある。

 例えば、昨今のプロ契約の選手の増加に伴い、選手の契約に関しても関係各所の一層のプロ意識が求められるか。例えば、選手が移籍を志す理由を「いるチームとウマが合わないから」という程度に考える意思決定者がいたら、それは周囲の人物がそっと諭すしかない。

 次回のトップリーグは2021年1月に開幕予定で、22年1月からは国内各クラブに収益性を求める新リーグが発足する。

一方、2019年まで候補選手の強化を支えたプロクラブのサンウルブズは、2020年限りで国際リーグのスーパーラグビーから除籍されている。昨今の社会情勢を受けスーパーラグビーそのものが終幕したことも受け、ガバナンス側は新たに始まりそうな「クロスボーダー大会(※3)」への日本チーム参加へ交渉を進めたいところだ。

 2023年のフランス大会では日本大会であった日程的なアドバンテージ(※4)はない可能性も高いとあり、選手層の拡張は喫緊の課題だ。強化計画を練る代表強化サイドと他の領域を担当する協会幹部がどこまで連携を図れるかは、今後の焦点となるか。

 日本代表のスローガンだった『ONE TEAM』は、多様な国籍、背景を持つ構成員が子細に渡る対話を経て、一枚岩の集団を作ることを意味していた。言葉の本当の意味で『ONE TEAM』が形成されれば有事のトラブルにもそう動じないことは、1年前のロシア代表戦で証明されていた。言葉の本当の意味での『ONE TEAM』を追求する旅は、現在進行形で続いている。

※1 ともに中止となったプール戦3試合を除く。

※2 統括団体のワールドラグビーが相次ぐテストマッチ中止の穴埋め案として企画した8か国対抗戦。イングランド代表、ウェールズ代表、アイルランド代表、スコットランド代表、スコットランド代表、フランス代表、イタリア代表というシックスネーションズ(欧州6か国対抗)参加国にフィジー代表、日本代表を加えた計8か国で実施される予定だった。辞退した日本代表の代役はジョージア代表となった。

※3 各国リーグの上位クラブによる大会

※4 予選プールは中6~7日の間隔で実施。過去は中3~4日で試合をすることもあった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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