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「べからずリスト」を増やせる75年目の終戦記念日【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
約1年前にはワールドカップ日本大会があった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 日本にとって75度目の終戦記念日は、新型コロナウイルス禍にある。

 感染症対策が世界的に評価されるニュージーランドでも、8月11日に4名の陽性者が確認され、以後、市中感染が広がっている。スーパーラグビー(国際リーグ)加盟クラブによるアオテアロアの最終節も、8月15日のハイランダーズ対ハリケーンズは無観客、16日のブルーズ対クルセイダーズの試合は中止となった。

 未来が定かでないことを再確認させたが、7月13日から無制限に観客を入れたアオテアロアの実績は消えない。早急なロックダウンなどによって開幕前に感染者ゼロを達成した政治判断が、スポーツに命を吹き込んだ。

 かたや日本では、今夏のオリンピック東京大会開催を目指していたものの、3月に来夏への延期を決める。時をほぼ同じくして、迷走に近い指針が示され世の混乱や分断を招いている。

 日本政府および自治体の多くは、旧来の法律を盾にロックダウンをせず「外出自粛を要請」するという流れを形成。とはいえ、ロックダウンも「自粛」も各家庭の経済を止める行為には変わりはない。給付金の金額や捻出方法に関する議論や申請方法の煩雑さの解消、小型の布マスクをレジに出しても米や卵を買うことはできないという事実の確認など、オリンピック開催の是非を問う前にすべきことはあったような。

 東京で暮らす市民から見れば、目立った対策は表にいまなお出ていない。日々の感染者数が機械的に羅列されたり、一部の自治体が特定の業種に無形の圧(いわゆる「夜の街」への発言)をかけたりするのを傍観するほかない。旅行を促して帰省を自重させる国の方針に触れると、対外的な説明のスキルの重要性を再確認させられている。

 説明のスキルが問われる件と言えば、日本大学ラグビー部の件が挙げられる。元コーチによる暴力がメディアで報じられるや、クラブのホームページは事実上の閉鎖状態となった。

 筆者はかねて、チームを率いる中野克己から当該コーチの辞任理由を「親の介護」と聞かされていた。不都合な真実を切り出すのが難しい心情は理解できる一方、ことが明らかになってから再度、問いかけた際にホームページのコメントを参考にして欲しいと伝えられたのには頭を抱えた。

 ちなみに事件発覚と時を同じくして、筆者のもとにはテレビのワイドショー番組のスタッフ2名、テレビのコメンテーターを務めるスポーツライター1名から電話取材の問い合わせを受けた。1名にはメールで「お伝えできる情報は持っていない」と返答した。

 残り2名には「暴力が事実であればとんでもないこと」という個人的所感を述べるにとどめた。そのうちの1名には、「こんなに強くなった一方でこんなことに…というご意見はありますか」と問われた。昨季の関東大学リーグ戦で一昨季の5位から2位に上がった資料を踏まえて作った質問なのだろうが、こちらは「そっくりそのまま同じことを申し上げればよいですか」といった旨で聞き返すほかない。これから自分が質問をする時には相手にこう言わせぬよう心がけようと身を引き締めた。

 現時点で捉えられるのは、他大学でも当該のコーチの様々な逸話が出回っていること、いまなお当該のコーチに恩義を感じている人物がいることという、やや両極端なふたつの事象のみ。付け加えるとしたら、当該コーチの辞任を残念がるうえで、大学側の部員や外部への説明に疑問を抱くOBもいる、ということだ。断わっておくが、筆者は指導者の暴力やパワーハラスメントには反対の立場である。

 とにかく、日本大学ラグビー部の4年生はこの状況で、10月上旬開幕見込みのラストシーズンを見据えている。

 過去の戦争という過ちを現代人が活かすとしたら、当時の失敗の過程を詳細に振り返り、同じ轍を踏まぬよう「べからずリスト」のようなものを共有するほかないのではないか。この国のスポーツに関わる人々にとって、いまは「べからずリスト」作成の絶好機と言える。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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