Yahoo!ニュース

今後が「未定」でもできることとは。サンウルブズの「エナジーチャレンジ」。【ラグビー雑記帳】※訂正あり

向風見也ラグビーライター
エナジーチャレンジの模様。左上はゲスト参加した元所属選手の浅原拓真

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦してきたサンウルブズは、この国唯一のプロラグビークラブ。参戦5シーズン目の今季は新型コロナウイルスの感染拡大によりシーズンが中断されたことで、所属選手は母国や本拠地などに戻っている。

 今年7月からは、スーパーラグビーのオーストラリア勢などによるリーグ戦があるが、かねてオーストラリアカンファレンスに加盟したサンウルブズがそちらへ加われるかは未知数だ。

 クラブを運営するジャパンエスアールは、『オーストラリアラグビー協会から、オーストラリア政府に対して「サンウルブズのオーストラリア国内への入国」について交渉中』『現在、オーストラリア政府から追加の質問等が提示され、それに対してオーストラリアラグビー協会より対応して頂いている状況』と発表。報道機関が今季限りの解散の可能性を報じたのを受け、情報をリリースした。ここでの「追加の質問等」とは、選手数名の他国への入国状況などの詳細を指すようだ。

 現状では今季限りでスーパーラグビーから離脱予定のサンウルブズにおいて、現場サイドはまた試合があることを信じて鍛錬に鍛錬を重ねてきた。その延長で4月11日よりおこなわれているのが、「サンウルブズエナジーチャレンジプロジェクト」である。

 同プロジェクトでは、リーグ戦中断に伴い世界中に散ることとなった所属選手やスタッフがテレビ電話ツールで「集合」。合同トレーニングの模様をチームの公式facebookページなどで公開し、ファンの運動不足解消も促す。

「コーチ陣のなかにも、『選手がバラバラになったのをそのままにしておくのはどうか』『まずは皆で一緒に顔を合わせたりするタイミングは欲しいよね』という話がありました。自重で、自宅でできるトレーニングを時間に合わせたら、お互いの励みにもなる、やってみようという話になりました。そして、せっかくそれをやるのなら、僕らが戦い続けている姿勢を皆にも見てもらおうとなりました。サンウルブズは、以前からファンとのコネクトを大事にしているので」

 こう語るのは、同プロジェクトを統括する臼井智洋アシスタントS&Cコーチである。

 チームは解散を受け「いつ再開できるかわからないですが、いつ再開されても、少なくとも身体の準備はできているような状態を作ってもらいたい」と意思統一。その延長でトレーニングメニューや身体面の目標設定を共有したが、選手への聞き取りにより「日本以上に、南半球でジムが使えなくなった選手が多かった」ことがわかった。

S&Cチームは全選手が自宅でできる自重トレーニングを提案し、その流れで新たなプロジェクトを始めた。開始日時を日本時間で毎週土曜の15時からとしたのは、「日本の15時だと南アフリカは朝で、(日本と時差の少ない)オーストラリアやニュージーランドの選手も顔は合わせられるだろう」との配慮から。世界有数の多国籍軍は、自分たちなりの方法で選手同士の、選手とファンとの繋がりを作ろうとしたのだ。

「予想以上に色んな方が見てくださいました。いまは大学生、高校生も自宅にいることが多いみたいで、『やってみました』という声も聞こえる」

 エナジーチャレンジおこなわれるのは、筋力トレーニングと有酸素運動を交互に行うサーキットトレーニング。メニューとメニューとの間のインターバルが短く、息が上がりやすい。各部位の筋肉に満遍なく負荷をかけられると同時に、持久力強化にも影響がありそうだ。

 これは選手にとっても「決して楽ではない」と臼井コーチ。音頭を取るスタンドオフの小倉順平も画面上では元気に振る舞うが、初回終了後には臼井S&Cアシスタントコーチは本人から「きつかった」と感想を聞いたようだ。

「選手は身体が重いので、自体重となると負荷は十分に高くなっている。サーキットトレーニングのメリットでもあるんですが、自宅で、ちょっと工夫するだけで持久力の維持にもつながっていくと知っていただけたんじゃないかなと思います」

 

 プロジェクトは週に1回、約1か月半以上にわたりおこなわれてきた。回を重ねるごとに、タイムトライアルやミニチームごとの対抗戦などセッションの設計がよりエキサイティングになった。次回の5月30日は最終回となるが、ここでは選手とファン代表との対戦企画「サンウルブズフィジカルチャンピオンシップ」も繰り広げられる。

「大袈裟ですが、土曜のあの時間(15時から)だけでもエナジーを使い、エナジーを蓄えてもらったのかなと」とは、同プロジェクト開始間もない頃の臼井コーチ。クラブの命運が定まらぬなかでも、「ファンとのコネクト」を切らさずにいる。

※日付に誤りがあったので修正しました。申し訳ありませんでした。(5月28日17時半)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事