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ラグビー日本代表戦、できるの? できないの? 発表できない背景は。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
日本大会メンバーの多くが次回の代表候補に名を連ねている見通し(写真:ロイター/アフロ)

 ラグビー日本代表が6月以降に挑む予定だった国内代表戦は、新型コロナウイルス感染拡大のため実施が難しい見通し。しかし、中止や延期の正式なアナウンスはできずにいる。

 関係者によると、昨秋のワールドカップ日本大会で初の8強入りの日本代表は今年、4年の契約延長に応じたジェイミー・ジョセフヘッドコーチのもと約50名の候補選手をリストアップ済み。本来であれば5月から短期合宿を重ねて6月以降のウェールズ代表、イングランド代表との計3戦に臨む予定だった。

 肝心の強化予算については、「代表の強化がとにかく優先というスタンスで予算配分を決めました」と岩渕健輔・日本ラグビー協会(日本協会)専務理事。3月の定例理事会後のメディアブリーフィングでの談話だ。

 2015年まで日本代表のゼネラルマネージャーとして強豪国とのマッチメイクなどに奔走した日本ラグビー界きっての国際派は、藤井雄一郎・男子15人制強化委員長らとの折衝の末に導いた額についてこのように語っている。

「ワールドカップイヤーは通常、前年よりも大きな金額になります。当然、ワールドカップの成果を持続させるには代表強化は重要。ワールドカップ年度よりは多少、減っていますが、活動の日数等々を鑑みて、2018年度のベースと比べると約1億円増で決めました。(2020年度は2019年度比で2億円減の)10億5000万円。18年度は9億3千万円でした」

 代表戦の実施を根拠にしてか、日本協会はかねて今年度予算を組む際に黒字を見込んでいた。しかし、折からの感染爆発を受けラグビー界も活動停止状態に陥る。対戦国が冬に開幕させていた欧州6か国対抗、日本国内のトップリーグは中断。代表戦が流れそうになるのは自然の流れで、複数の協会関係者も「まずは安全第一」を謳う。

 現在、代表候補選手は個別でトレーニングメニューを与えられているにとどまり、近日中に集合できる可能性は目減りしている。代表強化に携わる幹部の1人は、どんどん準備期間が減ってゆくなかで代表戦に臨むのはリスクが高い旨も認める。

 ここまでくると何らかの正式なアナウンスが求められるところだが、事はそう簡単に運ばない。代表戦の実施可否は両国協会の話し合いだけで決まるわけでは決してなく、国際統括団体のワールドラグビーがコミットするためだ。

 

 4月の定例理事会後。岩渕専務理事はリモート取材に応じている。折しも、一部で対イングランド代表戦の延期が報じられていた。端正な言葉選びの背後には、生来のバランス感覚がにじむ。

「まず世界の国々と(意見が)一致しているのは『すべての人の健康、安全を第一に考えること』。日本協会としてもまずそれが最初にあるべきだと考えます。その前提に、春のテストマッチができるのか? 日本代表対ウェールズ代表は? オーストラリア代表対アイルランド代表は? …という話をそれぞれでしています。現状の見通しとしては、そんなに簡単にできる状況ではないというのが一致した方向性です。だからと言って、できないとは決まっておりません。試合について、これからどういうステップで(平時に)戻っていくのかということで言えば、まず国内、その次にクロスボーダー(国際間)、さらに大陸、もしくは北半球と南半球をまたいで試合を…というステップを踏まなくてはいけないという考えが(医療関係者の)話にはありました」

「世界中の国々が財政にも大きな影響を受けている。試合ができる、できないに関しては、ワールドラグビーが主体的にリードし、『ここだけは開催して、あそこはやらない』と言うことにならないよう、財政的考慮をしながら、全員の歩調を合わせる方向で進めています。日本だけがやるとか、やらないとか、ただそれだけの問題ではなく、世界的に話し合いをしながら合意していくことです」

「試合ができないとなれば、ホスト国に大きな財政的ダメージが生じます。その場合に違った方法(穴埋め)があるのかなど、それぞれの国で不利益にならない形を考えていきます。そして、仮に予定されている日程で試合ができなければ、延期も含め、色んな方法を各国と話をしながら進めていきます」

 ニュージーランド協会はこのほど、中断中だった国際ラグビーのスーパーラグビーに加盟するクラブ同士での国内リーグの実施を検討している様子。同国政府は、感染拡大防止策のスピード感が世界的に評価されていた。

 さらにワールドラグビーは5月、医療専門家が各国の協会や他の競技団体、世界保健機構、大会運営団体、選手代表者などとの検討を経て作成した「安全なラグビー活動の再開に関するガイドライン」を発行した。

 文中には「PST」と総称される集会の制限、ソーシャルディスタンシングの徹底、移動の制限などの措置が解除されれば『様々なラグビーの活動の再開が可能となります』とあり、段階的な競技再開に関しては『各協会、クラブ、大会を、政府のガイドラインに沿った競技再開へと導く』のが望ましいと書かれていた。

『ラグビーのプレーの再開は、政府による各 PST 措置の軽減の程度により異なります』

『各協会(筆者注、各地域の協会)が、このデータ(筆者注、ワールドラグビーが世界 78 のメンバー協会から収集したというPST 措置のデータ)を使用して、政府代表者と様々なトレーニングレベルやラグビーのプレーと各 PST 措置の紐づけ(PST 措置の事前解除)について協議することが推奨されます(以下略)』

 条文を紐解けば、やはりスポーツ団体の意思決定は時の施政者の態度と不可分である現実も見え隠れする。いずれにせよ「ポストコロナ」の各国ラグビー界がいかなる形で動き出すのか。政府判断とともに注視したい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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