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大学選手権2連覇へ王手。明治大学、ピンチ脱出のドラマを語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
明治大学スクラムの最前列中央(写真左側)が武井(写真:築田 純/アフロスポーツ)

 ラグビーの大学選手権の決勝戦が1月11日、東京・新国立競技場である。2連覇を狙う明治大学は2日、東京・秩父宮ラグビー場で東海大学に29-10で勝利。田中澄憲監督と武井日向主将は、直後の会見で試合のターニングポイントについて詳細に語っている。

 この日、明治大学は自陣からの連続攻撃などを機能させて後半11分までに24―3とリード。しかし続く18分の失点で24―10とされると、その後も自陣深くまで攻め込まれた。

 後半22分には自陣ゴール前で、ロックの片倉康瑛が危険なタックル。シンビン(一時退場)となった。フォワードで数的優位を作った東海大学はスクラムを選択し、2度続けて反則を誘った。しかし、最後は7人でまとまってスクラムを真横に滑らせることに成功。直後の防御で東海大学の反則を誘い、事なきを得た。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

田中監督

「皆さん、本日はありがとうございました。本当に死闘でした。選手が一番、わかっていると思うんですけど、両校の激しいぶつかり合い、お互いの意地ですね。こういうの、何て言うんでしょう…。僕も、途中から監督という立場を(超えて)両校を応援しているような不思議な気持ちになったんですけど、強い東海大学にチャレンジして勝ち切れたこと、次に皆で進めることを素直に嬉しく思います。1月11日に決勝戦があります。しっかりダメージを回復し、いい準備をして臨みたいです」

武井

「本日はありがとうございました。東海大学さんの激しいフィジカルで、どちらが勝つかわからない、プレッシャーを感じる試合になりました。東海大学さんの最後まで諦めない姿勢など、勉強させてもらうことがありました。次に進めたことを嬉しく思っていますが、まだまだ自分たちの目標は成し遂げていない。いい準備をして、最後、笑って終われるように頑張っていきたいです」

――シンビンで1人欠き、自陣で相手ボールスクラムを組んだシーンについて。

武井

「あそこがこの試合のキーポイント。あの場面、片倉がいなかったんですけど、ヤバイと言うより、ここをしっかり皆で止めようという意思が見られた。以前のチームならあそこで諦めて点を取られる場面だったので、そこを我慢しきれたのはよかった。1本、1本、組むなかで全員がコミュニケーションを取れて、修正して組めた。短い時間での修正能力…。成長を感じられた場面だと思いました」

田中監督

「正直なところ、(点を)取られても仕方ないなと思っていました。次のキックオフの準備をしていたんですけど、本当、あの、よく学生が結束して耐えてくれたなと思います。あそこが今日のゲームのキーポイントになった」

――バックスのうち1人をスクラムに入れる考えはなかったのですか。

田中監督

「途中で入れようかと思ったんですけど、取られるという前提で準備していたので(周囲は笑う)。武井には申し訳ないんですけど…。次のことを考えてやっていたので、僕たちの描いているものを選手が超えていったと思います」

武井

「あの場面で、まとまれば大丈夫という意識であったり、やってきたことを信じられた部分があった。自分たちが意思統一して、7人がしっかり組めたのがよかったと思います」

――例えば、ここでペナルティトライを獲られたらさらにイエローカードをもらう可能性も。

田中監督

「危険だと感じていました。しかしそこも、選手はわかっていたと思うんです。レフリーもコミュニケーションを取っていたので、対応できたのだと思います」

――次のスクラムではダイレクトフッキングでボールを出しました。

武井

「試合の状況やスクラムと流れを判断してやったことです。意思統一していました。片倉が戻るまでは無理にスクラムにこだわる必要はないと思っていた」

――この日を通し、よくルーズボールへ飛び込んだ。準備のなかで注意したこと。

田中監督

「テーマは『タフチョイス』。ひとりひとりが相手よりタフなプレーを選択し、ハードワークする。それがチームとして相手を上回る。そのファンダメンタルな部分にこだわってゲームをやってくれたと思います」

――関西学院大学との準々決勝は22-14と、今季初の僅差の試合でした。ここから学んだことは。

武井

「まだまだ実力がないので、100パーセントの力を出さないといい内容の試合ができないと感じました。関西学院大学さんのファイティングスピリッツは自分たちの忘れかけていたものだったので、それを勉強させてもらえたのもよかった。日々の練習を大切にして、何を成長させなきゃいけないか(を考えるなど)練習に対しても準備して臨めたのでよかったです」

――決勝。早稲田大学と戦います。

武井

「決勝に進めることを嬉しく思いますし、新国立競技場で早稲田大学とやれることも嬉しいことです。ただどこのチームが来ても明治大学のラグビーをやるだけ。あと9日間成長し、決勝に臨みたいです」

田中監督

「右に同じです。相手は関係ないです。大学日本一を目標にやって来たので、1日1日にこだわって、悔いのないようにやっていきたい」

 元サントリーチームディレクターの田中監督は、ヘッドコーチとして明治大学に携わった一昨季に「横のコミュニケーションはあるけど縦のコミュニケーションが少ない」とチームの組織的な課題を看破。監督となった昨季から複数のリーダーを置き、選手間のコミュニケーションを活性化させてきた。

 今回ピンチをしのげたのも、日頃から選手の主体性を引き出してきたからと取れる。指揮官の「僕たちの描いているものを選手が超えていった」という談話が印象的だった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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