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話題の日本ラグビー協会・年収1千万職員募集。背景と仕事内容を聞いてみた。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は2015年イングランド大会時。熱を持続させるには。(写真:ロイター/アフロ)

 日本ラグビー協会は、9月開幕のワールドカップ日本大会後の戦略づくりのために優秀な人材を探している。スポーツ団体職員としては高額とされる年収900万~1100万円を用意し、人材サービスのビズリーチで6月26日まで公募する。

写真左から野田氏、福島氏(著者撮影)。
写真左から野田氏、福島氏(著者撮影)。

 役職名は、「BEYOND 2019戦略室」のマネジャー。同室長の福島弦氏が職務内容や成立の経緯、募集の背景について語った。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――改めて、「BEYOND 2019戦略室」ができた経緯を教えてください。

「正式なプロセスでいうと、2019年3月のJRFU(日本ラグビー協会)理事会で承認され、4月1日から稼働が始まっています。サンウルブズの案件(※1)はあまり関係なく、いよいよ半年後に迫ってきたラグビーワールドカップ日本大会を経た後の仕組みづくりについて――それまでも考えていなかったわけではないのですが――実務レベルで考えていく必要があるとなった。私はもともとラグビーワールドカップ組織委員会のレガシーづくりに関する仕事もしているので、どちらの帽子でやるのかという話はありますが、ワールドカップを活用した人気の継続などのための戦略を作っていく(のが「BEYOND 2019戦略室」の責務)。

※1サンウルブズの案件=2016年から国際リーグのスーパーラグビーに参戦した日本のプロチーム。国際舞台への耐性を作るなど代表選手の強化をバックアップも、日本側は2021年以降の同クラブの同リーグへの参加継続を断念した。福島氏は過去、サンウルブズの立ち上げに携わった。

 ただ漠然と戦略策定をするわけではなく経営判断が必要な具体的な案件も控えています。まずはトップリーグの改革。トップリーグ事業を担当するメンバーが具体的な中身の検討をリードしますが、日本協会全体としても関わる事案です。それからワールドラグビーからのネーションズカップ(新設予定とされる国際大会)の話、秩父宮ラグビー場の建て替えの話。それら具体的なことを考えながら、広くレガシープランニングをしていく必要がある。そのボリュームが大きかったので、既存の組織体とは別な取りまとめチームみたいなものを作ることになりました。執行部の坂本(典幸)専務理事がリーダーシップを取られて理事会にかけ(て成立し)た形です」

――採用は1名。必須の応募資格には「プロジェクトマネジメント経験」「事業会社の事業企画や経営企画、またはコンサルティングファームでの事業計画・戦略の立案経験」「分析・調査・レポーティングの実務経験」「ビジネスレベルの英語能力」「事業会社、総合商社、コンサルティングファームなどでのグローバルビジネスの経験」があり、歓迎されるスキルには「社内調整/折衝能力のある方」「組織や人を動かす人間力のある方」などが記されています。これらのハードルを超えられる方は、もしかしたらもっと良い条件のお仕事に就けるのかもしれません。金額とは異なる面白み、やりがいを訴求するとしたらどんな点になりますか。

「めちゃくちゃ面白い10年が来る。これに尽きます。

 私は5年前にラグビー界へ入りましたが、この10年(2009~2019年)もかなりエキサイティングな10年だったかと思います。の大会(ラグビーワールドカップ日本大会)をマイルストーンに、ジャパンラグビーが国際化し、サンウルブズのスーパーラグビー参戦など新しい動きも色々あった期間でした。

 ただ、ワールドカップと翌年のオリンピック東京大会を経たうえでの今後10年(2020~2030年)は、世界のラグビーが変わろうとしていますし、日本ラグビーはそのリーダーになる可能性を秘めています。少し逆説的になりますが、私自身、2回ほど国際会議に参加させていただいて、改めて感じる事は、今回アジアで初のラグビーワールドカップを開催できるのは凄いことなのだと改めて実感しています。それがあって、世界のラグビーは、全体のスポーツの流れのなかで変わろうといているんです(従来のワールドカップは一部の強豪国のみで開催されていた)。一方で、日本国内でもスポーツ業界全体が変革を求められているタイミングでもあります。タイミングでもあります。変化の時代のなかでの舵取りというわくわく感が、(今回の仕事の)一番の面白さだと感じます。

 また、水戸黄門のバッヂではないですが、『アジアで初めてラグビーワールドカップを主催した』という非常に強いスタートラインを持って次の10年を描いていけるのもいいことです。そこへ、奇跡的に日本ラグビー界の100周年も入ってくる(日本ラグビー協会は2026年に設立100周年を迎える)。変革の面白みもありながら、伝統の重み、格式も感じていける。『伝統と革新』のキーワードを胸に改革に挑んでいけることは、単にゼロイチのスタートアップを立ち上げる事とはまた違った面白さがあるのではないでしょうか」

――具体的に手伝って欲しいことは。

「多岐に渡りますが、ひとつ、事業性の検討。骨太な日本協会を作っていきたいです。

 過去10年間、ワールドカップに向けた強化を図ってきて、こんなに強化に成功した国はない。ワールドランキングでも20位から11位に上がり、一時期は9位に。上位20ユニオンのなかでランキングが最も上がった国。ここについては強化の専門家が『いかにティア1(上位国)へ入るか』を考えていくと思います。

 でも、その下支えのため、協会の骨格事態を強くしなきゃいけない。現在は50億規模で運営していますが、ティア1であれば100億規模で回している。このラインは(強化と)同時に見ていかなくてはいけませんし、(いずれは)それ(増収分)を強化費に回すこともできます。

 また、お金は(事業性の見直しの)結果でしかない。その過程では、新しいファン層を作り、ラグビーをする子供たちを増やし、ラグビー経済圏を広げるという、日本ラグビー全体の敷地をぐっと広げる作業も大事になります。

 三角形でいえば、頂点――日本代表がティア1を目指す――の高さを伸ばしていくことと同時に、底辺全体を広げることも必要。部屋にこもってグーグル検索するだけではなく、どんどん他ユニオンや他のスポーツ団体の扉をノックして情報を集約する。はたまたそこでネットワークを作って、何か一緒にやれることがあればそうする関係を築く…。このように、日本ラグビー協会のパイプを開いていってくれる情熱と馬力のある人に来て欲しいです。私と野田(大地、戦略室長代行)と新しい方の3人がピラミッドを作るのではなく、3人がそれぞれで広がりを作っていくのが理想です」

――来てもらう方が力を存分に発揮してもらう方の環境づくりについては、どう考えますか。

「(採用された方のために)色々な人に会ってもらう機会を私の方でセットすることが重要だと思います。新しい執行部との顔通し、外部のステークホルダーの方とパイプを作る作業をしなくてはならないですね。

 また、出すべきタイミングでの出すべきプランはあります。そのマイルストーンを達成していくうえで、やるべきことは粛々と作業してゆくことになります。ネーションズカップに向けた強化プラン、大会後に日本とアジアにどうラグビーを広げていくかというレガシープラン、JRFUの視点で見たトップリーグの最適なガバナンス…」

――今度の6月に、この戦略室を承認した執行部は刷新される見込みです。意思決定者の顔ぶれが変わることは、業務に影響ありませんか。

「現場の目線で言うと、そちらを気にしすぎてやるべきことを止めるわけにはいかない。粛々とやるべきプランを作ったり、他のユニオンの財務分析をしたり、トップリーグとユニオンが協調していくガバナンスについて考えたり、日本代表の契約周りの仕組みづくりを調べたり。すべき事実の積み重ねは無限にあります。

 

 もうひとつ、ワールドカップでどれくらいラグビーのマーケットが広がるかを定量的に取らなくてはいけない。ラグビーワールドカップ組織委員会は『国家イベントとしてどれくらいの経済効果、インパクトがあったか』を調べる。この経済効果検証は必ず必要な作業です。ただ一方で、JRFUはジャパンラグビーの事業性の視点での調査をすべきと考えます。例えば、『今回のワールドカップで初めてラグビーをテレビ観戦した人は日本全国で何人いたか?』『その人はラグビーにどんなイメージを持っているか?』『どうであればその後のトップリーグを観に来てもらえるか?』『地域のばらつきはどうか』という視点です。この調査結果は、誰が執行部になろうとも資料としてお渡しして、経営判断をしていってもらわなくてはなりません」

――2015年のワールドカップイングランド大会後のブームが一過性に終わった際は、この「ジャパンラグビーの事業性の視点での調査」に改善点があったとされています。

「あの時もいくつかのデータは出ましたが、今度はそれをより先手をやる、ということです。それは多分に、海外との交渉でも有効打になっていくはずなんです。経済規模からすると、南半球のユニオンにとってはラグビーが根付いていて人口の多い日本という市場を見捨てるわけにはいかないはずです。今後いい条件のディールを結んでいくためにも、ラグビーマーケットとしての日本に関するデータを取り、かつ先々のプランニングをしていきたいです」

――日本ラグビー界の10年後。どうなっているのが理想ですか。

「先ほど100億規模と言いましたが、それはあくまで数字での結果だけであって、最終的に目指したいものはそこではないのだろうなと感じます。個人としての『なぜラグビーを生業にしているか』についての思いは、ラグビーを通じて世の中が少しでもよくなること(を目指している)。ラグビーの魅力は色々な方が色々と語っていらっしゃいますし、日本協会としても言葉の作り方を含めてプランニングしていきます。そんななか私がラグビーについて素敵だと感じるのは世界との繋がりです。釜石の仕事(※2)をさせていただいて改めて感じますが、ラグビーワールドカップは、釜石の一人の高校生が、世界を見る具体的なきっかけを作っています。彼らが、今回の大会を通じて、海外の高校生と交流をしたり、英語で釜石を紹介するパンフレットを作ったり。ビジョンや戦略を作るときどうしても視点が高くなってしまいがちですが、本当に重要な事は、こうしたミクロの視点で、人の人生がラグビーで良くなっているかを見る事だと思っています。世界が分断の時代を迎える中で、ラグビーというスポーツが、日本と世界をつなげるスポーツになると良いなと思います。ある意味、ラグビー日本代表も、ユニオン主義というラグビーならではのルールの下で、肌の色の違う様々なバックグラウンドの選手がひとつのチームで戦います。ラグビーというスポーツを通じて、人と人の境界線や国境を越えたつながりが生まれ、結果として、『ラグビーってなんかワクワクするよね』と日本中の若者が言ってくれるようなラグビーのブランドができて行けば最高だと思います」

※2釜石の仕事=ワールドカップ日本大会の開催会場のひとつに釜石鵜住居復興スタジアムがある。福島氏は組織委員会の業務の一環で、同会場のこけら落としに携わった。

 福島氏が語った「BEYOND 2019戦略室」の業務は、誰かがやらなくてはならない仕事であるのは確かだ。自己実現とは別な大義を持つ人物の応募が待たれる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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