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早稲田大学→慶應義塾大学。三井大祐コーチの葛藤と挑戦とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
神奈川・慶應義塾大学日吉グラウンドでの三井コーチ(著者撮影)。

 現役時代に早稲田大学ラグビー部へ5年間プレーした三井大祐は、昨季まで母校でコーチを務め、今季から同大のライバルである慶應義塾大学に移籍。5月、単独取材で心境を明かした。

 三井コーチは現在34歳の元スクラムハーフ。大阪・啓光学園(現常翔啓光学園)中学でラグビーを始め、同高校2、3年時に全国制覇を経験している。早稲田大学では留年して挑んだ5年目の2007年度に大学日本一を経験。卒業後は東芝で選手生活を送り、2013年からは同部コーチに就任した。

 2017年に東芝退団後はニュージーランド留学を経て20歳以下日本代表、ジュニア・ジャパンのコーチを歴任。昨季、早大のバックスコーチとして昨季のジュニア・ジャパンの齋藤直人を指導した。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――就任時から、そのプロセスが注目されていました。

「送り出してくれた早稲田大学も、迎えてくれた慶應義塾大学も(環境を)整えてくれた。いま、何の不自由もなくラグビーに集中できる環境を与えていただきすごく感謝しています。ここに来ることを決めるまで悩んで、悩んできたのですけど、いまここで過ごしてみると、色んな人の力があってここに立てているんだな、考え過ぎていたのかな、と思うこともあります」

――決断を下すにあたり、一番迷った点は。

「最終的に決めたのは昨季の早稲田大学のシーズンが終わってからですが、早稲田大学の選手に結果を残せなかった(優勝を目指しながら4強で終わった)なか自分だけ次のチャレンジに進んでいいのかというところです。1年という短い期間で終わるのは無責任じゃないか、とも」

――決め手は。

「こうしてお話をもらうことは誰にでもあることじゃない。それに(今季から慶應義塾大学のヘッドコーチに就任した)栗原徹さんに誘っていただいた時、話を聞いてわくわくしたんですよ。早慶、伝統校というのと関係なく、本能的にチャレンジしたいと。それが一番の決め手です。

 栗原さん自身が面白い発想の方で、僕にないものをいっぱい持っています。栗原さんの『どう強くするか』のビジョン、なぜ僕が必要かも具体的でした。僕自身、ラグビーのコーチとして成長して上を目指すなか、この人から学びたいと思いました。栗原さんとはトップリーグで同じ年度のコーチ研修を受けました(栗原は前NTTコムスキルコーチ)。2泊3日が年に2~3回あって、そこで仲良くなって」

――栗原ヘッドコーチの凄さについて。

「観察している。着眼点が『あ、そんなところを見てるんだ』という感じです。人と見ているところが違う。あとは、話も上手い。僕が選手だったら引き込まれるだろうなと思います」

――早稲田大学の相良南海夫監督とは、いまも交流がおありのようです。

「もう、大好きです。親分というか、懐が大きい。今回のことも、僕が決断する前から相談をさせていただいていて、それを聞いていただきながら、最後に僕が『行く』と決めた時に『わかった。お前が決めたことなら応援する』と。そして実際にこちらへ入った後も、お食事に行く機会がありました」

――改めて、慶應義塾大学での三井コーチの役割は。

「自分たちで考え、相手に的を絞らせないアタックをしたい。ディフェンスでは仲間と繋がり続け、仕事をし続ける。例えばですが、すぐに起き上がって次の仕事へ…という繋がりを大事にしたい。『ラインスピード!』『タックル!』『プレッシャー!』というよりも、個々のちょっとしたハードワークや気遣いがチームのためになるということを、大きなところに(据えている)。仲間のためというディフェンスをします」

――新天地の選手、どう映りますでしょうか。

「素直というか、こちらが言ったことを必死に取り組んでくれる。ただ、悪く言えば真面目過ぎる。自分たちで考えてやる、(提示されたことの)先を行ってみるというのが足りないかなと感じています。答えをすぐ欲しがるというか。『この場合はどうなのですか?』。ラグビーは状況判断のスポーツなので、ある程度のガイドラインはあっても状況、状況によって判断しなくてはいけない。だけど『こう、こう、こう』というものを求めるあまり、それ以外のことが起きた時にどうしたらいいかを自分たちで考えられなくなってしまう。『こうしよう』の先の考えられるよう(力を)養っていけば、もっとよくなる」

――判断力を養うには。

「与えるガイドライン(プレー中の立ち位置などの指針)はきっちり固め過ぎず、余白を残す。自分たちで考えることの楽しさを感じてもらいます。

 ディフェンスでいうと、スクラムからのディフェンス1次目の後、チームによっては順目(攻撃方向)に何人行きなさいと決めているチームもあると思いますが――それのいい、悪いは別にして――(慶大では)前を見て判断しましょう、としています。加えて、そのなかで全体をコントロールする意思決定者を作る。前を見て判断させる。ただ全員に判断しましょうと言うと難しいので、意思決定者にその役割を与える」

 選手の談話を総合しても、昨季以上に選手が状況判断をおこなう余地の増えた慶應義塾大学。5月26日、長野Uスタジアムで関東大学春季大会Aグループの早稲田大学戦をおこなう。三井にとっては古巣との初対決だ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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