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日本代表候補ウルフパック。試合後に指揮官が謝った理由は?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
戦況を見つめるジョセフヘッドコーチ。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 4月27日、東京・秩父宮ラグビー場。日本代表候補にあたるウルフパックが強化試合をおこなった。ゲームの名目が公式大会などではなかったことなどから、対するウェスタン・フォースの選手たちは就労ビザ取得に難儀。試合は無料で開催された。

 なお、4月20日に千葉でおこなわれたハリケーンズB戦は有料。前日には、ハリケーンズのレギュラー勢が公式の国際リーグ・スーパーラグビーの第10節(対サンウルブズ=日本)に出場していた。

 ウェスタン・フォース戦には延べ「11217人」の観客が集まった。ウルフパックは51-38で勝利。しかし、終盤の守備の乱れが課題とされた。

 報道陣が戸惑ったのは、この先だった。日本のトップレベルのラグビーの試合では、通常ノーサイドから30分程度で公式会見が始まる。しかしこの日は、試合終了から1時間が過ぎても始まらない。その間、広報担当者が2度、「ミーティングが長引いている。間もなく到着します。しばらくお待ちください」と頭を下げた。

 さらに、広報担当者が「会見後も重要なミーティングがあるため、ミックスゾーン(試合後の取材エリア)を通過させる選手のリクエストを事前に受け付けたい」と告げたあたりで会見場は騒然。複数の出席者から「よほどの事情がない限り全員を通過させるのがルールでは」と異議が出た。

 間もなく、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチとピーター・ラピース・ラブスカフニゲームキャプテンが会見に出席。冒頭で指揮官は謝罪した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「遅れて大変申し訳ありません。色々、いまのうちにやっておくべきことがありました。オーストラリア遠征のメンバー発表、さらにサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦。ウルフパックとも連携)も今夜オーストラリアに旅立つ。その前にやるべきことがありました。忍耐強く待っていただき、感謝いたします。

 きょうの試合ですが、3分の2は満足しています。大きなプレッシャーもかけられました。相手は当初予定していたのと違う作戦でプレーしてきたので、こちらも変更を加えなければならなかった。そこにも臨機応変に対応できたと思います。ディフェンスでも相手に圧力をかけ、得点に繋げられました。残念なのは後半にリードした状態で入れたのにも関わらず、メンバーの入替後に自分たちの形を崩して相手にプレッシャーをかけられた。自分たちのプレーが平凡になってしまった。これもいい反省として修正していきたい。課題を活かして勝利のために強化を続けていきます」

ラブスカフニ

「非常にいいスタートを切れた。60分はいいラグビーができた。勢いを相手に与えてしまったが、ヘッドコーチも言ったように反省点が出たと前向きに捉えています。相手は当初のゲームプランとは違う戦いをしてきたが、うまく対応できた」

――きょうの試合のディフェンスの出来をどう思うか。一貫性を謳っていたはずだが。

ジョセフ

「一貫性がなかった、気を抜いたのが残念なところ。きょうのような相手に、リードしていたのにも関わらず一瞬でも気を抜いたり、メンタルのスイッチが切れてしまったりすると、その隙を狙われます。だからきょうの満足度は10点満点中5点。半分はよく、半分は課題です。これは技術的な問題ではなく、リードしている時にどんな意気込みで入れるかだと思います。リードされてから必死にやることはできますが、優勢な時にこそどんな取り組みができるかが課題になります」

――26日、サンウルブズはハイランダーズに完敗。序盤に早い段階で経験値の高い3番(山下裕史選手)を交代させるも、スクラムで苦しみました。今日もスクラムでコラプシングの反則を取られていました。課題でしょうか。

ジョセフ

「まだじっくり検証していない。昨日のハイランダーズ戦では、スクラムだけでなく色々な局面で劣勢でした。後半は気持ちを整えてフィジカルに挑んだが、体格が大きく、強く、経験値の強い相手を前には、精神的な強さがないまま入ってしまうと大量失点をしてしまう。彼(山下)はああいう試合展開の要因を作った1人ではあると思いますが、彼だけ(が問題)ではない。彼は、現在ジャパンのスターティングの3番ではなく、それを目指している状態です。きょうのコラプシングはどうとでも取れる。特に着目はしていません」

――今後、守備をどう改善するか。

ジョセフ

「アタック、ディフェンスだけではなく、全ての局面で意識しこだわり毎試合取り組んでいます。きょうのディフェンスが後半なぜああなったかについて話すと、フォース側が後半に挽回しようと思ってポジショニングも速くなっていて、裏にボールを入れ、ボールキャリーも強く、危機感も持っていた。逆に、フォースが前半にそうできなかったのは、我々がプレッシャーをかけていたから。プレッシャーをかけ続けられなかったのが我々の反省点で、要因はメンタリティだと思います。

 早い段階でディフェンスリーダーも担当している流(大)が外れたのも要因となっていますが、ワールドカップで成功するには23人だけでは勝てない。全ての人が意識を持って戦わなきゃいけない。これは強化のためにやっている。明日になったらフォース戦のことなんか誰も覚えていないかもしれません」

――ウルフパックにいる主力選手をサンウルブズに移し、強度の高い試合を経験させる考えはないのか。

ジョセフ

「特に主力ばかりをこちら(ウルフパック)で育成しているとは捉えていない。サンウルブズもスーパーラグビーでいい成績を残さなければならないことも念頭に置いています。6月から代表活動が本格化するなか、サンウルブズからこちらの方へ選手を呼ぶということもありますが、正直、マネージメントや人の扱い方で手こずっていたところもあります。マイケル・リトルのようなサンウルブズでのプロ契約選手(日本代表資格未取得者)が序盤に怪我をしたので。

 ウルフパックも全員が主力ではない。リーチ マイケルキャプテンはまだプレーしていませんし、姫野和樹も1試合半くらいしかやっていない。適切なピークを迎える時に、皆がしっかりと強化がした状態になる。ここにフォーカスしています。ただ、いま言ったような理由があり、サンウルブズが一貫したパフォーマンスをするのが困難。それがこのチーム(ウルフパック)にも色々な影響が及んでしまっていることはあります」

――スタンドオフに入った松田力也選手について。

ジョセフ

「松田の評価ですが、10点中7点。前半はいいプレーをした。ここまでの1週間も、周りに優秀なリーダーがいたからだとも思いますが、よくチームを準備させました。彼にはこれかれもこういう機会を与えていきたい。

 田村優は昨日のサンウルブズの試合で、後半から出場して大きなインパクトを与えていた。彼の経験、状態がそのような影響を与えたと思います。タフな環境でラグビーをして鍛える重要性を再確認しました。主力となる10番を2人も、タフな環境で育成できているのは、ワールドカップに向けて大事なことだと思っています。松田は若干リズムが狂った時、9番(スクラムハーフ)と一緒にコントロールし、戦略的に課題を克服しなければなければいけないという課題がある。ここはこれからの1週間で修正していきたい」

 会見後は「シビアな用事がない選手はミックスゾーンを通過する」とのアナウンスがなされ、同エリアでは数名の主力選手が問答に応じてくれた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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