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いま振り返りたい、白血病を克服したクリスチャン・リアリーファノの凄み。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
オーストラリア代表19キャップ(代表戦出場数)を保持。(写真:ロイター/アフロ)

 2020年の東京五輪の顔として期待されていた競泳の池江璃花子が2月12日、白血病と診断されたことを公表した。本人は公式ツイッターで「私自身、未だに信じられず、混乱している状態です。ですが、しっかり治療すれば完治する病気でもあります」とつづった。事実、この病を治して競技復帰したアスリートは過去にもいる。

 本欄で広く紹介しているラグビー界では、世界的プレーヤーが白血病を克服している。元オーストラリア代表のクリスチャン・リアリーファノだ。2018年は、日本でチームマンとしての態度を示していた。

 サントリーと契約して来日間近とされた2016年夏に患ったものの、骨髄移植と長いリハビリを経て、2017年6月の親善試合で戦列に戻った。同年の夏には国際リーグのスーパーラグビーでもカムバックを果たし、相手チームからも祝福された。感想を問われると、紳士的に応じた。

「遠く離れた日本の人を含め、本当にたくさんの人たちが祝福してくれました。各個人に対して感謝の気持ちを述べることはできないかもしれませんが、常に感謝の気持ちを持ってプレーしています」

 2018年2月には、オーストラリアのブランビーズの一員として一時断念した来日を果たす。日本のサンウルブズと対戦するためだった。さらに8月からおこなわれた国内最高峰のトップリーグでは、サントリー入りを決める前に誘われていたという豊田自動織機に加わる。

 身長180センチ、体重95キロの31歳は、司令塔のスタンドオフやインサイドセンターに入り、鋭いラン、パス、キックを披露。さらにグラウンドの外では、下位に低迷するチームの若手と積極的にコミュニケーションを図る。クラブは下部降格の憂き目にあったが、リアリーファノ自身の態度と姿勢は高く評価された。

 スクラムハーフの木村貴大はこう証言する。

「フィールドのなか以外のところでも、積極的にコミュニケーションを取ってくれる。練習中、試合中の指示の出し方、声のかけ方にも学ぶところが多いですが、フィールド外でも一緒に映像を見たりして、どう考えているかを話してくれる」

 ラグビーでは、グラウンドに立つ15人が同じビジョンを共有するのが吉とされる。司令塔団とされるスクラムハーフとスタンドオフとの間では、その作業がより不可欠とされる。もっとも木村は、リアリーファノほど綿密な対話を求めてきたスタンドオフはいなかったと話す。こうも続ける。

「インターナショナルの舞台でやり続けるって、そういうことなんだな、と思います」

 リアリーファノ本人は「サントリーにはグッズをもらうなど、病気の間もすごくいいサポートをしてくれていました。最終的には実現しなかったですが、復活したらいつでも戻ってくるようにも言ってくれました」と謝辞を述べる。木村に喜ばれた綿密な対話については、こう考えを明かした。

「そこは、僕が大事にしていることです。一緒にチームをコントロールしていくには、互いに考えを共有したい。だからコミュニケーションを取ったり、一緒に映像を見たりしたいのです。概して9、10番(スクラムハーフ、スタンドオフ)でプレーする選手はのみ込みが早いので、その点はとても助かります」

 白血病を克服した運動選手としては「ポジティブでいて欲しい」と発するリアリーファノ。ジャージィを着られなかったサントリーから支援を受けたことで、「日本に特別な思いを持つようにもなりました」。今後もその一挙手一投足で、多面的なメッセージを伝える。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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