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短縮化決定。やるしかない。2018年度トップリーグプレビュー【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
サントリーの松島幸太朗は日本代表でもエースとして期待大。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

ミス→シーズンの失敗?

 決まった以上、過去を振り向っても仕方がない。

 日本最高峰であるラグビートップリーグの2018年度シーズンが8月31日から各地ではじまる。

 今季はワールドカップ日本大会前最後の国内リーグとなる。2019年のスーパーラグビー(日本のサンウルブズが参戦)を軸に据え準備を進める日本代表側の意向を汲み、ただでさえ減少傾向にあった試合数が今回もスリム化した。例年なら1月に優勝が決まっていたのに対し、今年度は年内でシーズンが終わる。

 日本ラグビーの裾野に影響を及ぼしそうなこの決定に至るまでは、加盟クラブ同士で重ねてきた議論が突如ご破産になったとされるなど、諸問題が生じた。万人が納得するプロセスが取られたわけではない。

 とはいえいまとなっては、現場も「やるしかない」との意気込みでいる。関係部門同士のアライアンスは引き続き必須改善項目としながら、短期決戦をどう攻略するかに注視する。

「形式が変わった。リーグが7試合しかなくなることで、大事なところでミスをするとそれがそのままシーズンの失敗に繋がりうる。そこでミスをしないような準備をしなくてはならない」

 こう危惧するのは、パナソニックのロビー・ディーンズ監督だ。

 今度のシーズン構成を大まかに言えば、「ア、8月下旬から10月下旬にかけ、8チームずつの計2カンファレンスが全7試合のリーグ戦を実施」「イ、中断期間明けの12月からの順位決定戦では、各カンファレンスの上位4チーズずつ計8チームが1~8位決定トーナメントで優勝を争う」「ウ、イから漏れた下位8チームは9~16位トーナメントに進み自動降格および入替戦の回避を目指す」という形状だ。上位進出が予想されるチームでも、「ア」の際に取りこぼしが重なればたちまち優勝戦線から脱落しうる。

 パナソニックは4連覇を目指していた2016年度、今年度と似たようなレギュレーションのもとで開幕4戦を2勝2敗と苦しんでいる。この折はサンウルブズ参戦初年度とあって、国内外のシーズンを掛け持ちする選手のコンディショニングなどに手を焼いていたのだ。穏やかな口調での「ミスをしないような準備を」には、実感がこもる。

王者が最初から難敵と

 2つあるカンファレンスのうちよりハイレベルでの上位争いが予想されるのはレッドカンファレンスか。2連覇中のサントリーは初戦からトヨタ自動車、NTTコム、神戸製鋼と順にぶつかる。着実な白星ゲットが望まれるシーズン序盤に、豊かなタレントとコーチ陣を揃えるクラブと戦い続ける格好だ。

 この3戦の様相が世間のいう予定調和に収まらなかった際は、片方の上位チームともう片方の下位チームが1回戦をおこなう「1~8位決定トーナメント」の組み合わせにも影響を及ぼしそう。沢木敬介監督が「今年は追われる立場というのを意識している」とするサントリーは、この貴重な時期を「(自軍選手に)気持ちよくラグビーはやらせない。揺さぶります」。あえて伸びしろを残したり、プレー選択に制限をかけたりするつもりのようだ。前年度も似たようなアプローチを経て頂点に達しているだけに、勝敗と異なる観点でも注目されたい。

 例えばインサイドセンターでの先発が予想される(本稿執筆時)新人の1人、梶村祐介。オーストラリア代表103キャップのスタンドオフ、マット・ギタウとは、隣同士でプレーしそうだ。ギタウは、動き回りながら細かい連携を取れる熟練者。最良の手本を参考にしながら難しいカードを制すれば、さらなる自信を得られるかもしれない。

 序盤にサントリー戦を控えるチームは三者三様だ。

 まず昨季4強のトヨタ自動車は、元南アフリカ代表監督のジェイク・ホワイトのもと外国人選手と若手を軸にチームを再構築中。20日のプレスカンファレンスでは、指揮官が「どのチームの方も『フォワードがセットプレーを安定させ、バックスが展開を…』と目指すスタイルを口にしていますが、それをできるようになるには時間がかかります」。自軍の調整具合も示唆するような意味深長な言い回しだったが、昨季7年ぶりの4強を達成するなど緊張感の付与を結果に繋げてきた実績ならある。

 入社2年目でキャプテン2季目となるフランカーの姫野和樹は、開幕前後の代表およびサンウルブズでの活動を受けてどこまでコンディションを整えられるか。同じフォワード第3列ではルーキーの吉田杏も重用されそうな見込みで、姫野と同じ帝京大学で磨いた「痛いプレー(肉弾戦での激しいバトル)」に期待がかかる。

カーター入団の神戸製鋼、どう見る?

 一方、ニュージーランドベースのチーム作りに着手する神戸製鋼は、開幕節でそのニュージーランド流をもっと早くから採り入れ下位を脱したNTTコムとぶつかる。

 入団時に話題を集めた元ニュージーランド代表のダン・カーターは、調整遅れのため序盤戦は不出場の可能性が高い。もっとも本当に注目されるのは、合流したカーターが強豪相手に目覚ましい活躍をした時にきちんと白星も得られているかどうかになりそうだ。

 このレッドカンファレンスではNTTコムに加え、ピーター・ラッセル体制3季目のNECもコミュニティーとしての力を拡大。才能のコレクションだけで勝ち抜くのは難しそうだ。

 カーターの神戸製鋼入団の呼び水となったウェイン・スミス新総監督は、クラブの歴史的背景の共有や基本プレーの徹底などで才能集団の足並みを揃えようとしている。かような正当な取り組みがどのタイミングで結果につながるか。注目が集まる。

パナソニック軸のホワイトカンファレンス

 もうひとつのホワイトカンファレンスでは、2015年度まで3連覇のパナソニックが軸となりうる。決定力で注目される山田章仁、福岡堅樹の両ウイングは、ボールタッチの前から注視するとチームの攻撃ライン全体のハーモニーを楽しませてくれそうだ。

「防御のフィニッシャー」に相当する接点でのボール奪取役は、昨季までいたオーストラリア代表のデービッド・ポーコックから元ニュージーランド代表のマット・トッドに交代した。トッドとともにフランカーでコンビを組む布巻峻介キャプテンは、チームがより一枚岩となることが必要だと訴える。

 対抗馬となりうるヤマハは、看板とするセットプレーの構築に強力な援軍を迎え入れた。身長208センチ、体重120キロのリッチー・アーノルドだ。オーストラリア代表間近とも言われた真性のロックが、スクラムのエンジン、空中戦の軸として機能しそう。同じく新加入で南アフリカ経験者のクワッガ・スミスは、フランカーとして勝負どころでのボール奪取と身軽なランニングに期待がかかる。

 東芝も前年に引き続き、立ってボールをつなぐスタイルを軸に据える。日本代表キャプテンのリーチ マイケル(フランカー)に元ニュージーランド代表のリチャード・カフィ(センター)がランナー、サポート役、タックラーと八面六臂の活躍をすること必至。第3節のパナソニック戦、第5節のヤマハ戦で、いかに相手を自分たちの世界に引きずり込めるか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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