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ダン・カーターは、大物獲得の成功例になれるか。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ワールドラグビー(旧国際ラグビーボード)選定の最優秀選手賞を3度受賞 。

 日本最高峰のラグビートップリーグには、一線級の選手が相次ぎ加入している。

 2連覇中のサントリーでは昨季以前にジョージ・グレーガンやジョージ・スミス、さらに今季は2シーズン目のマット・ギタウと、オーストラリア代表キャップ(テストマッチ=代表戦への出場数)が3桁台という大物を在籍させている。パナソニックもベリック・バーンズやデービッド・ポーコックといったオーストラリア代表経験者を並べ、過去には南アフリカ代表だったJP・ピーターセンも加入させていた。

 いずれもグラウンド内外での貢献度が大きいとされるが、なかにはチームにフィットする前に帰国する例もある。数年前、某クラブに加わった超大物選手は、練習中に若手日本人選手のロータックルを食らうと「俺の足にいくらの価値があると思っているんだ」とすごんだという。

 この国の楕円球界においては、スター選手の加入が成功した例とそうでない例が入り混じっている。では、今夏話題のこの人はどうなるか。

 ダン・カーター。ニュージーランド代表(オールブラックス)112キャップのスタンドオフで、神戸製鋼に入団した36歳だ。7月16日、神戸市内のホテルで福本正幸チームディレクターとともに会見。フランスでもプレー経験のあるカーターが、新たな環境に適応するための要諦を語った。

 会見では、今季トップリーグにおける楽しみな対戦などについても語った(関連記事:ダン・カーター、「新しいモチベーション」を見つけに来日!【ラグビー旬な一問一答】)。

 以下、会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――トップリーグでは、大物がすぐになじんでチーム成績を上げる例、なじむこと自体に時間を要する例が乱立しています。カーター選手が前者となるには。

福本ディレクター

「確かに、我々のチームでもすぐになじんだ選手、2年目からという選手、最後までなじまなかった選手がいました。今回のカーター選手獲得にあたり、私自身は年齢的な点が少し気がかりではありました。しかし、ウェイン・スミス(今季から総監督。長年、オールブラックスのアシスタントコーチとして活躍)と相談したら『そんなこと、気にする必要はない。彼は誰よりもラグビーと真摯に向き合い、ハードワークしている。それよりも、チームにプラスになることが多い』と聞きました。アンドリュー・エリス(元オールブラックスで今季チームの共同キャプテンに就任)にも同じように聞いたら、彼の加入でチームが大きく変わると聞きました。

 彼をどう活かすかという点で言えば、うちは今季、彼がニュージーランドで親しんだような環境下にいます。コーチングスタッフの多くをニュージーランド人で固めていますし、選手にもニュージーランド勢が多い。我々も、ニュージーランドから新しいベースを学ぼうという状態ですので、ここで彼のペースでなじんでいって欲しいと思っています」

カーター

「もちろん、新しい国、環境に入ることにはチャレンジングな部分があります。日本でおこなわれているラグビーに挑戦すべき部分も出てきます。トップリーグ開幕まで約7週間しかないので、早めにチームに慣れて貢献しなければいけないと思っています。今季のトップリーグはシーズンが短く、どの試合も重要になります。最初からハイパフォーマンスをしていかなくてはならず、周りの選手のサポートも必要です。アンドリュー・エリス、アダム・アシュリークーパーも色々とサポートしてくれるとは思います。またニュージーランドのコーチが数名います。神戸でやろうとしているプレーがニュージーランドでやっているプレーと似ている部分が出てくると思うので、ニュージーランドでの自分の経験も活かし、チームに貢献したいです。

 先ほど仰った通り、チームにすぐ慣れる選手、慣れない選手がいます。複数の国でラグビーをしてきた私の経験上、ハードワークしないといけないとわかっています。神戸でプレーできるよう、前からハードワークしてきています」

――ラグビーを見たことのない国民は多い。ダン・カーター選手のどこを見たら楽しめるかを教えてください。

カーター

「日本ではラグビーが他のスポーツと比べ有名ではないと思いますが、神戸製鋼での私のプレー、スキルを見ることで、ラグビーがわからない方でもラグビーを面白いと感じてくれると思います。

 スキルだけでなく、精度、一貫性も(見て欲しい)。キックをひとつとっても、精度、一貫性を保ちたいと思っています。

 ラグビーは激しいスポーツですが、そのなかでも私は冷静さを保ち、リーダーシップを取りたいと思います。アメリカンフットボールで言えば、クォーターバックのようなイメージのポジションです。他選手ともコミュニケーションを図って、オーガナイズをしたいと思っています」

――日本で楽しみな対戦は。

カーター

「トップリーグにはワールドクラスの選手がいます。そのなかでも、パナソニックに入るマット・トッド、キヤノンのイスラエル・ダグ(以上オールブラックス経験者)など、自分の元チームメイトとの対戦が楽しみです。同じチームでやっていたので、ライバル心が生まれます。彼らのチームが勝ったら『僕が勝ったぞ』と言いたい。仲のいい選手が相手チームにいたら、負けたくない。各チームに知人や対戦経験のある選手がいますので、彼らと会ってプレーするのも楽しみにしています」

――7月末から合宿があり、8月末に開幕。現在のご自身のコンディションは。

カーター

「来日2日目ですが、トップリーグの最初の試合から全力で行こうと思っています。ラシン92で約11か月間の長いシーズンをおこない、その後リカバリーを入れ、いま、トレーニングをしています。具体的にいつからプレーをするかについては、トレーナー、メディカルスタッフと相談して決めます。モチベーションは高く、身体はいい状態。ただ、いつからプレーするかについては何とも言えません。16シーズンくらいラグビーをやっているなか、いつからラグビーをするかは本当に重要だと考えています。ここ数週間の相談のうえ、決めたいと思っています」

――カーター選手は2003年から2015年までニュージーランド代表に選ばれ、2005、12、15年には、統括団体のワールドラグビー(2014年11月18日までの名称は国際ラグビー評議会)が選ぶ最優秀選手賞を獲得しました。一番印象に残っている試合は。

カーター

「ニュージーランド人なら誰でも皆、オールブラックスになりたいという夢を持っています。私がそれを叶えたのは2003年。それは昨日のことのように感じています。そこから自分をオールブラックスと言えるようになったので、自分、家族にとって特別な日になった。

 それ以外で印象に残っているのは、2005年のライオンズとの試合。そこではベストパフォーマンスを出せた。

 長くオールブラックスでプレーしてきたなかでもうひとつ覚えているのは、私にとって最後のオールブラックスの試合、2015年ワールドカップイングランド大会の決勝戦です。その試合で勝つことによって、オールブラックスはワールドカップ2連覇を達成しました。プロスポーツの世界では何も保証がされていないなか、あんな素晴らしい形でオールブラックスでのキャリアを終えられたのは嬉しく思います」

――日本食について。

カーター

「一番好きなのは寿司です。寿司は日本の寿司が世界一おいしいです。日本で日本の寿司が食べられるのは楽しみです。ニュージーランドにいる栄養士には、もっと納豆を食べなさいと言われます。納豆も食べたことがあって、味が好きか嫌いか…という話になると思いますが、好きになれるよう頑張って食べたいと思っています」

――ラグビー先進国ではなく日本をプレー先に選んだわけ。

カーター

「私ほど長くプレーをすると、チャレンジが必要になってきます。オールブラックス、クルセイダーズ(ニュージーランド国内での所属先。2003年から2015年まで在籍)は自分にとって居心地のいい場所でした。そして新しいチャレンジを求め、ヨーロッパ(フランスのラシン92)に。向こうで3シーズンやった後、もう2年間ヨーロッパでするか、違う国でプレーするかを考えた時、日本で新しいチャレンジをしたいと思いました。日本のラグビーが成長していることも、自分の新しいモチベーションになっていると思います。

 新たな環境でプレーするには、スキル、自分ができることをチームメイトに証明しないといけない。これもモチベーションになっています。新しい友人とともに、新しい文化、環境のもとでプレーするのが楽しみです。

 トップリーグに関する知識はまだ不足していますが、分からない点があること自体がモチベーションになっています。今年、優勝を狙うこともモチベーションになっています。エキサイティングな気持ちです。プロ選手としては最後の場所で、いままで以上にハードワークし、楽しみたいと思っています」

 異国での適応に向け「ハードワーク」を誓うカーター。気心の知れたスミス、エリスらとどこまでチームをけん引できるか。若手への的確な助言にも期待がかかる。

 折しもサッカーのヴィッセル神戸に、スペイン代表のアンドレス・イニエスタが加入。関西地区のスポーツ界が盛り上がりそうだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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