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過熱取材に間違いメール…。日本大学ラグビー部、春季大会の現場。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
試合を終え、スタンドを前に整列を急ぐ(筆者撮影)。

 両チームが公式戦のジャージィを着ていて、備え付けのスタンドには選手の父兄や卒業生が座っていて、あちこちに卒業生や社会人チームのスカウトがいた。

 2018年5月27日、中央大学の多摩キャンパス内にある人工芝グラウンドには、いつもと変わらぬラグビーの関東大学春季大会の風景があった。

 少しだけ違ったのは、勝った側の談話の細部だろうか。

 現状を真摯に捉えたうえでのユーモアに満ちた自虐の意が、かすかに感じられた。例えば、「知らない人にあいさつされると、びくっとしてしまいまして」など。

 ここでは前年の中位陣同士のBグループの一戦があり、日本大学が中央大学に55―31で勝利していた。

 中央大学の鋭く前に出る防御に乱れが出るや、日本大学が敵陣へ侵入するチャンスを獲得。ナンバーエイトのシオネ・ハラシリが持ち前の力強さを活かし、アウトサイドセンターに入ったフレイザー・クワークも軽やかな突破からのオフロードパスでスタンドの控え部員を沸かせる。それぞれ2トライずつ決めた。

 いずれも、日本の高校からやって来た1年生だ。今季から大学ラグビーの試合での外国人枠は2から3に広がった。骨格や身体能力などに長けた海外出身者を多く起用できることは、日本大学の攻撃を大きく後押ししそうだ。

 春季大会通算3戦にして、2勝目を挙げた。球を奪われた後のもろさなどから「まだ粗いですね。日々の練習で言っているのですが、いざ試合になると粗さが出る」と反省する中野克己監督だが、新戦力の伸びしろに期待しているようだ。

 普段通っている大学がワイドショーなどで連日取り上げられるようになったのは、連休が明けてしばらく経ってからだった。アメリカンフットボール部内における前時代的とも取れるやりとりが問題視され、とばっちりを受けたのがラグビー部だった。

 たとえ愛好家にとってふたつのスポーツが似て非なるものであっても、一部の市民にとっては楕円球を扱うコンタクトスポーツである点で共通して見えるのだろうか。ソーシャルネットワーク上では、両部を混同した形でのクレームが渦巻いた。キャンパス内でも、部員が報道関係者に捕まることも多いようだ。

 選手を守る立場の中野監督は、これを機に自分たちのあり方を見つめ直している。

「部にも間違いのメールが来たりも…。特に(自分たちを)卑下することはないけど、いままで以上に神経質になろうという話はしています」

 マスコミ人はマスコミ人の仕事を全うしているだけで、言われなきクレームも競技認知度の必要性を再確認させられる出来事と捉えられなくもない。

 確かなことは、ラグビーが1チーム15人で攻防を繰り広げる団体球技であることだ。当日のレフリーの傾向を把握しながら正当なファイトを重ね、突破すべきスペースと封じるべきスペースを集団で共有。その延長に、楽しみや勝利が見えてくる。

 また大学の体育会系クラブは、あくまで課外活動組織である。広告宣伝効果を暗に期待されているのも確かだが、部員ひとりひとりの自由な魂は保障されるべきだ。

 1928年創部の日本大学ラグビー部は、今季のチームが始動してからいまのいままで、ただただ自分たちのパフォーマンスを磨いてきた。中央大学戦後の円陣では、別なスタッフがこんな旨の訓示を残した。

「(自分たちは)ラグビーを頑張ることによって大学を盛り上げるしかない」

 出場したレギュラー選手のひとりは、アメリカンフットボール部にも友達がいると言った。出身の系列付属高校が「朝練も強制じゃなかったのに自分たちで出ていた」という雰囲気だったことから急成長したというこの選手は、今度の出来事を「(両チームの)現役部員がかわいそう」とのみ話した。

「自分らはやることをやって、日本大学の名誉回復に携わっていけたら…と、いうことも言っておこうかと」

 テレビをつければ連日のように日本大学のキャンパスや大部屋が映っているが、この日の試合を取材した記者は1名だけだった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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