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ワールドカップまで500日切った。日本代表&サンウルブズに「活」?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真左は日本代表キャプテンのリーチ マイケル。中央がジョセフ。(写真:つのだよしお/アフロ)

 俳優の山下真司さんが5月8日、東京・辰巳の森ラグビー練習場にやってきた。

「サンウルブズ新監督の、滝沢賢治です」

 山下さんは1984、85年にヒットしたドラマ『スクール★ウォーズ』で川浜高校ラグビー部監督の滝沢賢治役を演じている。国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦して3季目で開幕9連敗中のサンウルブズへ「活」を入れに来た。

 間もなく、物語のモデルとなった伏見工業高校出身のサンウルブズの選手が2人、やってくる。山下さんはドラマのセリフを用い、「どうしてこんな結果になるんだ!? 悔しくないのか!? じゃあこれからお前たちを殴る! …ふふふ」。カメラマンの1人が山下さんに、選手をげんこつで殴るポーズをリクエスト。慌てた関係者が手で×印を作った。

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(左から内田啓介、山下さん、田中史朗。著者撮影)

 2019年のラグビーワールドカップ日本大会の開幕まで、500日を切った。目下、大会自体の盛り上がりとともに懸念されるのが、日本代表の仕上がりだろう。

 2015年度のイングランド大会時は、計画的な猛練習と運動量を活かす戦いで歴史的3勝を掴む。一方で現在の日本代表は、山下さんが応援するサンウルブズと連携。スーパーラグビーで代表候補生に国際経験を積ませ、チームの強化に繋げたいとしている。現状やいかに。

もっとコミュニケーションを?

 エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチがイングランド大会終了時に退任も、日本ラグビー協会は後任探しに難航。スーパーラグビーのハイランダーズを指揮していたジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチが来日したのは、2016年秋のことだ。

 過去2シーズンで通算3勝だったサンウルブズも、今季からジョセフが率いることとなった。兼任ヘッドコーチである。プレシーズン期間の整備と外国人選手の補強のもと、シーズン5位以上という目標を掲げた。しかしここまで未勝利で、ジョセフはその時々の「けが人」などを敗因に挙げるのみだ。

 トニー・ブラウンアタックコーチが戦術を落とし込み、長谷川慎スクラムコーチ、田邉淳スキルコーチは、全体練習後も専門領域を指導。プレーに関する必須改善事項は、組織防御やジョセフが指導してきたラインアウトの成功率など数点に絞られる。真に改善されるは、人と人との間の風通しの領域にあった。

 チーム最年長の田中史朗は、4月中旬に「もっと日本人選手と外国人選手がコミュニケーションを取れるようにしていきたい」。確かに練習の談話風景や選手のソーシャルネットワーク上では、日本出身者と海外出身者がしばしば別行動を取っていた。

 実は、これは2017年秋の日本代表ツアー時も選手同士で話し合われた課題だった。イングランド大会時はボスのジョーンズ自らが気にしていた多文化共生の領域は、現状では選手の主体性に委ねられている。

 問題が起きたのは4月14日だ。昨年勝ったブルーズとの一戦で、後半にタックルミスをした主戦フルバックの松島幸太朗が途中交代を命じられた。

 10―24で敗れた後、ジョセフは「タックルができない選手は変更せざるを得ない」と断じ、試合後の松島は「どこが悪かったのかを(ジョセフと直接)話したい」。その後チームはニュージーランド遠征に出発。松島は脳震盪のため離脱した。5月7日の段階で、松島はこの件については対話をしていないとし、「もう気にしていない」と続けた。ボスと選手との距離感は、外部の者にとってあまりに未知数だ。

 選手と一部首脳陣との信頼関係がクローズアップされた4月、現場とマネジメント部門との連携についてもさざ波が立つ。当時のニュージーランド遠征中のゲームキャプテンをしていたフランカーのピーター・ラブスカフニが、その月限りで「派遣期間終了」。チームを離れたのだ。

 一般社団法人ジャパン・エスアール(JPSR)の渡瀬裕司CEOは「トップリーグのチームから選手をお借りしているため」と、契約時の段階で4月までの派遣期間が先方の要望だったことを認める。本人のパフォーマンスを受け水面下で契約延長を目指すも、結局は離脱の報せを5月6日に公表することとなった。さらに驚かされたのは、選手もその件をニュージーランド遠征中に初めて知ったという点だ。

 裏方の苦心ぶりは、毎週定期的に定められたジョセフの囲み会見でも起こる。5月7日の午後練習後と設定された会見が当日の朝に「午前11時から」へ変更されたが、似たようなことが以前もあった。

答えは6月? その前に…

 日本代表とサンウルブズの相関関係は強い。視点を変えれば、今季のサンウルブズの活動の良し悪しは日本代表のテストマッチでしか測れないと見ることもできる。

 直近のテストマッチは、スーパーラグビー中断期間中の6月に3試合、ある。ジョセフは5月下旬にあるサンウルブズの海外遠征を他のタッフに任せ、代表活動の準備に専念する。選手のうち6月の日本代表に呼ばれる面子も、5月19日のストーマーズ戦(香港)を最後に一時離脱。休養を挟み、27日からの日本代表合宿(宮崎)へ加わる。

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(オーストラリア代表戦でスクラムを組む日本代表)

 6月の相手はイタリア代表とジョージア代表。本番の予選プールでぶつかるアイルランド代表、スコットランド代表、ルーマニア代表と同じ欧州諸国のチームである。強豪国とされるティア1に1度も勝っていないジョセフ体制にとっては成功体験の欲しい頃だ。

 しかし、その時の結果で体制刷新を求める場合も、事前にそれ以降の妥当な道筋が作られているべきだ。また本来であれば、その事態を引き起こした側の任命責任も問われるところだ。

 

 日本代表が初めて率いるナショナルチームというジョセフは、選手として日本代表を経験も21世紀初頭には母国ニュージーランドへ帰国。2011年にスーパーラグビーのハイランダーズでヘッドコーチとなってからは、長らく低迷にあえぐ。初優勝したのは、相棒のブラウンがアシスタントコーチ就任3年目の2015年だった。

 ジョセフのチーム作りに要する時間やジョセフ自身のキャリアは、イングランド大会のあった2015年の時点ですでに明白だった。前体制と現体制との目指すラグビーの違いも、ある程度の観戦歴があれば判別に難くない。

 

 そのうえでイングランド大会終了後に「日本をよく知っている」からとジョセフの来日を決めたのは、サンウルブズを仕切るJPSRではない。日本代表を統括する、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会である。

 同協会で承認された薫田真広強化委員長がジョセフの評価及び支援を任されているが、4月のニュージーランド遠征時に薫田がジョセフ率いるサンウルブズを視察に行った形跡はほぼないと見られる。それでも、次なる道を選定する際は日本協会が道筋を立てる。

 現場を観察するメディアやファンができることは、安易な感情論に流されることではない。何かを言う前に、事実と証拠を見つめ直すことだ。

それとは別腹で…。

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(流大)

 外野で様々な声が飛ぶなか、サンウルブズはあがいている。ヴィリー・ブリッツとともにサンウルブズの共同キャプテンを務める流大は「スタッフと選手との接点を」。コミュニケーション面の課題に気づき、改善を提案する。ジョセフには、出番のあるなしに関わらずすべての選手と話し合うよう促した。

 リーチ マイケルが日本代表のキャプテンとして立案した「月~水曜に練習、木曜にオフ、金曜に試合前練習再開」という1週間のサイクルも、サンウルブズに限って「月~火曜に練習、水曜にオフ、木曜に練習、金曜に試合前練習」へ変更。もっとも実のある練習をする週の真ん中で集中力を保つためだ。

 懸念される他国選手同士の仲についても、5月には「試合が終わった後とかは、皆で飲みに行ったりしていますよ」と中村亮土は強調する。専門コーチたちも緻密なレビューをおこなうなか、流はこうも続ける。 

「ファンの方は、どんな試合であっても勝つことを望んでいる。ただ、ラグビーのパフォーマンスをしっかり出して、それに勝利がついてくるというのがベストだと思っています。どれだけ批判されても僕たちのやることを信じて、勝つことを目指すだけです」

 5月12日に今季最後のホームゲームを東京・秩父宮ラグビー場でおこなう。「悔しくないのか!」の山下さんも会場に来る予定だ。日本協会のあり方を見直す議論と同時に、当日の選手たちの奮起が待たれる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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