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優勝占う全勝対決? 山場のパナソニック対サントリーの見どころは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
昨季途中に加入したポーコックは今季も存在感示す。(写真:アフロスポーツ)

 国内最高峰トップリーグは10月21日、中断前最後の第9節として全勝対決がおこなわれる。一昨季まで3連覇のパナソニックが、昨季王者のサントリーをホームの埼玉・熊谷陸上競技場に迎える。もちろん、いずれも加盟するカンファレンスで首位を走る。両者は順位決定後のプレーオフでも対戦の可能性が高く、頂上決戦の序章としても楽しめそうだ。

 パナソニックは前節、それまで7勝1敗だった神戸製鋼を56―7で圧倒。攻守逆転からの速攻で主導権を握る理想的な展開にあって、各人が本来の色彩を発揮。例えばまだ点差が開く前の自陣ゴール前の防御局面では、スクラムハーフの田中史朗が相手の死角からタックルを発動した。

 かたや前節のサントリーは、トヨタ自動車から最大18点差をひっくり返しての勝利を挙げた。勝って反省するサイクルを繰り返していそうだが、直近のトヨタ自動車戦ではビハインドを追う過程で走り勝った印象を与える。ひとつの攻撃を終えたら、すぐ次の職場へポジションを取る。そのサイクルが刷り込まれている。

 両者が最後に対戦したのは今年1月29日。昨季の日本選手権決勝でのことだ。土の混じった東京・秩父宮ラグビー場で両軍が強みを消し合う好勝負を演じ、最後はサントリーが15―10で辛勝した。

 もっとも当時といまでは条件が異なり、例えばサントリーの沢木敬介監督は「パナソニックに対しては色んな意味で新しいチャレンジをやろうとしている」。おそらく、それまで公にしてこなかった攻撃形態を採用するのだろうか。ウイングの江見翔太は言う。

「いままで準備してきたオプションのなかの、試合ではまだ出してないよ、というやつを…。対外的には新しいのかもしれないですけど、僕らとしては(真新しくはない)。お互い、少ないチャンスをいかにものにするかで流れ、勝敗が変わる」

 つまるところ、頂上対決で集大成を見せんとたた前回と違い、年間計画のプロセスとしての勝利を目指すのだろう。勝敗以上に、両者がその過程で得られるものにフォーカスを当てるべきかもしれない。

 両軍陣営を鑑みると接戦は必至。サントリーであればフルバックの松島幸太朗による急場でのフェアキャッチ、パナソニックであればウイングの山田章仁の驚きのインターセプトなど、突発的に発動されたワンプレーが勝敗を分けかねない。

 そうしたキーになるプレーが生まれそうな対戦は、オーストラリア代表経験者同士のジャッカル合戦か。

 パナソニックのオープンサイドフランカーであるデービッド・ポーコックとサントリーのナンバーエイトに入るジョージ・スミスは、ともに相手の援護が薄い接点へすっと手を伸ばす。

 タックラーの接点への働きかけが難しくなった試験的ルールのもとでも、持ち味を変えていない。いずれも組織防御の「出口(ボール奪取)」を担当するとあって、タイトな試合になるほど両者の重要度が増しそうだ。

 どちらのチームが担当レフリーに順法精神をアピールできるかも、両ハンターのジャッカルの成否を分けるかもしれない。ポーコックと同じ背番号7をつけるサントリーのオープンサイドフランカー、西川征克は、こう気を引き締める。

「ポーコックの他にも上手い人はいる。ブレイクダウン(接点)で相手はジャッカルを狙ってくる。そのチャンスを与えないために、(抜け出した味方へのサポートに関する)リアクションで上回りたい」

<第8節私的ベストフィフティーン>

1=左プロップ

山本幸輝(ヤマハ)…NTTコムとのスクラム合戦を終始制圧。

2=フッカー

堀江翔太(パナソニック)…自陣22メートルエリアでのタックル、連続攻撃に顔を出してのロール(回転してタックルをかわすランニングスキル)やグラバーキックなど、多彩なパフォーマンスを繰り出す。

3=右プロップ

伊藤平一郎(ヤマハ)…好スクラムを連発。例えばペナルティートライ獲得でスコアを21―10と広げた1本では、まず伊藤が真っすぐせり上がり、次第に反対側の山本幸輝がせり上がったような。

4=ロック

フランコ・モスタート(リコー)…近鉄戦で今季初先発。巨漢を折りたたんでのロータックルが目立った。松橋周平(後述)のトライなどで17得点目を奪ったきっかけは、ラインアウトからの攻撃中のこの人のしなやかな走り。

5=ロック

ヒーナン ダニエル(パナソニック)…サム・ワイクスとともにグラウンドの右中間、左中間に位置し、薄くなりがちな防御網を突き破る。23得点目が決まった前半終了間際では、一連の攻撃にあって強烈な突進を2度重ねる。強烈なタックルやルーズボールへの鋭い反応も。

6=ブラインドサイドフランカー

松橋周平(リコー)…ナンバーエイトとして先発。後半10分頃に好ジャッカルを放って、試合終了間際にもタックル→起立→ジャッカルのハードワークで向こうの攻めを分断。攻撃陣形のなかで球を持てば防御網をかい潜った。

7=オープンサイドフランカー

デービッド・ポーコック(パナソニック)…要所でのタックルやジャッカルはこの日も。

8=ナンバーエイト

堀江恭佑(ヤマハ)…対するナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィが好ジャッカルを放つ傍ら、この人は攻めで魅す。整った防御網へ勢いよくぶちかまし、そのままトライラインを割る。タックルも強烈。

9=スクラムハーフ

田中史朗(パナソニック)…自陣からの柔らかいハイパントでウイングの山田章仁を走らせたり、攻守逆転を生み出すタックルを放ったり。隙を逃さぬプレーでせめぎ合いを快勝劇に昇華。

10=スタンドオフ

ベリック・バーンズ(パナソニック)…味方が球を動かす間に陣形を整え、バトンを受け継ぐや受け手を気持ちよく走らせるパスを放った。クリーンアウト、タックルでも汗をかく。

11=ウイング

石井魁(東芝)…右側の宇薄岳央とともに空中戦で魅す。思い切りのよい突破も繰り出し、失点直後のキックオフを捕球して追加点を演出も。

12=インサイドセンター

ヴィリアミ・タヒトゥア(ヤマハ)…チーム最初のトライを奪った場面などで問答無用の突破を繰り出す。

13=アウトサイドセンター 

リチャード・カフィ(東芝)…NTTドコモ防御網の裏へのキック、鋭い飛び出しによるタックルなどで、大外スペースの平和を保つ。

14=ウイング

山田章仁(パナソニック)…自陣からでもトライラインまでの走路を見定める感じ。局面に顔を出す活動量。裏へ蹴られたキックを駆け戻って捕球するや、プレッシャー役をひらりとかわして味方にボールを活かしたりも。左側の福岡堅樹とともに脅威。

15=フルバック

松島幸太朗(サントリー)…トヨタ自動車とのクロスゲームで存在感を発揮。前半34分のツイ ヘンドリックのトライの直前には、グラウンド中盤左端で鋭いカウンターアタック(仕掛ける直前のフットワークで、2人並んだ防御の間を広げた!)。6点差を追うなか防戦を強いられた後半28分ごろには、最後尾から飛び出して自陣22メートルエリアで相手のキックパスを捕球。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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