パナソニック対トヨタ自動車。名将対決の見どころは。【ラグビー雑記帳】
日本最高峰のトップリーグは約1週間の中断期間を挟み、9月22日から第5節をおこなう。
過去4節のレビューをもとに修正を図る各クラブの戦いにあって、名将対決と目されるのは23日の一戦。埼玉・熊谷陸上競技場でのパナソニック対トヨタ自動車だ。
一昨季王者のパナソニックは、2000年代にスーパーラグビー(国際リーグ)のクルセイダーズの黄金期を樹立し、その後はオーストラリア代表も率いたロビー・ディーンズ監督が就任4年目を迎えている。
某スタッフに「俺がロビーさんなら絶対にキレているようなことを言われても、ロビーさんは受け入れる」とうならせる傍ら、元在籍選手の証言によれば「一度この週は休め、と言ってきたら、自分が『できる』と言っても休みを与える」。柔軟性と頑固さを兼備し、地域獲得、堅守、自由に映る攻撃を貫くための型を落とし込む。特に、味方がキックした後のチェイスライン(球の飛ぶ先で作る防御網)の統一感と捕球役に迫る防御は、相手チームを手こずらせている。目下、開幕4連勝中だ。
「目の前に起きていることへの選択への自信、ボールを動かすべき時に動かしたことへのチームとしての自信が向上しています。言葉にすると簡単なように聞こえますが、これをやるためには大変な練習、コミュニケーション、判断力が大事になっていきます」
かたやトヨタ自動車は、南アフリカ代表のボスとして2007年のワールドカップフランス大会で優勝したジェイク・ホワイト新監督を招へい。「フィジカルラグビー」を部是としながら勝負どころで泣いてきた古豪に、メリハリのついた鍛錬を授ける。
13年目のロック、谷口智昭曰く「いつも言われるのは、『この相手にはこう…という調整は俺に任せろ。あとはお前たちが自分のできるプレーをすれば絶対に勝てる』ということ」。当の本人はここまでの戦績を3勝1敗とするさなか、具体的なよさについてこう話をしていた。
「トヨタウェイとは、ハードワークをすることと、それによって勝つことです。いまうまくできていることはディフェンスからアタックに切り替えること。相手がミスをした後、トヨタは陣地に入ることができています」
戦術共有の密度と所属選手の資質においては、いずれも国内トップクラスとされる集団同士の一戦。両軍の戦法を鑑みれば、「キックとボール再獲得までの規律」を重視するクラブ同士の対決となりうる。空中戦の競り合い、その周辺でのボールへの反応が試合を左右しそうだ。
ここで注目されるは、蹴られたキックを追う人、捕る人のスキルと運動量だ。
セットプレーや肉弾戦に身体を張りながらチェイスラインを作るフォワード陣では、パナソニックは8名中6名を海外出身選手で固める。なかでもーストラリア代表66キャップ(国際真剣勝負への出場数)を持つフランカーのデービッド・ポーコックは、孤立した相手ランナーの持つボールへ鋭く反応。フランカーに新人キャプテンの姫野和樹らを入れるトヨタ自動車としては、特に自陣で球を持たされた際のボールキープに注意を払いたいところだろう。
味方司令塔の蹴ったハイボールを追いかけて捕るのが役割の両ウイングには、パナソニックは福岡堅樹と山田章仁の日本代表コンビ、トヨタ自動車は7人制日本代表のジェイミー ヘンリーと今季初先発の彦坂匡克を起用する。互いに従来以上の圧力をかけあうなか、手元を狂わせないのはどちらか。
もちろん、かような攻防の起点となる両スタンドオフの資質も勝負を分けそう。パナソニックはオーストラリア代表51キャップのベリック・バーンズを、トヨタ自動車は元20歳以下南アフリカ代表のライオネル・クロニエがそれぞれ屹立。両者にとっては、どちらがより多く意図のあるキックを蹴られるかがフォーカスポイントになりうる。
なおこの試合は、パナソニックは埼玉県協会がタッグを組んで興行ゲームとして運営。グラウンド外での盛り上げにも期待がかかる。
<第3節私的ベストフィフティーン>
1=左プロップ
石原慎太郎(サントリー)…NTTコムのスクラムをドミネートし、再三突進。
2=フッカー
杉本博昭(クボタ)…豊田自動織機のスクラムをドミネートし、タックルや突進でも存在感。
3=右プロップ
石澤光(サニックス)…接点の真上(チャンネルゼロ)の突破からトライ。スクラムは背中の角度がぶれずに安定。
4=ロック
ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ)…前半終盤にあった自陣22メートルエリアでの防御局面では、接点への絡み、タックル、その後のすぐの起立などを貫く。その他の場面でも空中戦での妨害役や攻撃での杭を全う。
5=ロック
真壁伸弥(サントリー)…11点リードで迎えた後半初頭の防御局面で何度も顔を出す。
6=ブラインドサイドフランカー
デービッド・ポーコック(パナソニック)…コカ・コーラに大勝も序盤こそ打ち合いを強いられていた。そんな折の前半31分ごろ、トライを防ぐ防御で魅す。
7=オープンサイドフランカー
ジョージ・スミス(サントリー)…グラウンド端のスペースで球を受けると、防御の様子を見ながらパスやキックを配してトライを演出。好判断による飛び出しでのタックルなど防御でも存在感。
8=ナンバーエイト
堀江恭佑(ヤマハ)…ブラインドサイドフランカーのウヴェ ヘルとともに突進役を全う。3トライを奪った場面以外でも、再三リコーの堅守へぶちかました。
9=スクラムハーフ
アンドリュー・エリス(神戸製鋼)…時に真後ろに立つフォワードに勢いよく突っ込ませるなど、NECの堅守を切り崩すべく多角度的に仕掛ける。
10=スタンドオフ
大田尾竜彦(ヤマハ)…リコーを相手に前半を21―7とリードも後半はしばし膠着状態のヤマハだったが、この人が入ると攻めのリズムが豹変。攻撃ラインの左右幅が広がり、徐々にリコーの我慢の堅守にほころびを作る。
11=ウイング
福岡堅樹(パナソニック)…問答無用の爆走。
12=インサイドセンター
ヴィリアミ・タヒトゥア(ヤマハ)…球を持てば、しっかりと揃えられた防御網を力づくで押し戻す。防戦一方の場面では好タックルも繰り出す。
13=アウトサイドセンター
村田大志(サントリー)…防御網の大外からせり上がってのタックルでピンチを防いだり、ゲインラインへフラットに駆け込んでの突破からハンドオフを繰り出したり。攻守で知性とインパクトを示す。
14=ウイング
ヘンリー ジェイミー(トヨタ自動車)…東芝を20-18で制した日の決勝トライは、この人のハイボールへの捕球からのランがきっかけ(その後、ライオネル・クロニエのキックパスが相手防御のスペースを裂いた)。陣地の獲り合いと防御が続いたゲームにあって、空中戦での安定感で魅した。
15=フルバック
リアン・フィルヨーン(NTTドコモ)…50メートル超のドロップゴールを決め、エリアの取り合いでもロングキックを連発。