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トップリーグ開幕。グラウンド内外で問われる本気の力。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
16チームのリーダー、堂々。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

 日本最高峰のラグビートップリーグが、15年目となるシーズンを迎える。2年後のワールドカップ日本大会の成功、もしくはそれ以降の競技文化醸成に向け、グラウンド内外における本気度が問われる。

 今季は開幕前から、ひとつの話題が知れ渡った。2015年のワールドカップイングランド大会で日本代表の副キャプテンだった五郎丸歩が、古巣のヤマハへ2季ぶりに復帰したことだ。

 五郎丸のいなかった昨季は総入場者数が、一昨季に過去最高を記録した約49万人から約3万人も減っていた。「うずうずしています」と精神的充実を口にする五郎丸には、リーグ戦の話題性アップへの期待もかかるか。

 とはいえ、特定の選手の訴求力への依存はハイリスクでもある。真に期待されるべきは、トップリーグのコンテンツパワーの向上だ。

 そのチャレンジに意気込むのは、群馬県太田市を本拠地とするパナソニックだ。埼玉・熊谷陸上競技場でおこなう6試合を興行ゲームとする。

 興行ゲームとは、開催地の地方協会が開催権を握る形式の公式戦。パナソニックと埼玉県協会は、付加価値のついたオリジナル座席チケットを販売したり、グラウンド前の広場に飲食ブースを並べたりと、外部の知恵を借りながら非日常空間を作るという。

 関係者によれば、スタンドの土台の表面部分をチームカラーの青に染めるアイデアもある。国際・企画部門の村上泰將氏は、「他のスポーツやスーパーラグビーの試合も観たのですが、やはりホーム感がある方が盛り上がるんです」と語る。

 日本ラグビー協会(日本協会)は、ブーム終焉を逆手に取ったプロモーション動画を作成した。今年4月には元キヤノンの瓜生靖治氏も日本ラグビー協会(日本協会)入りし、「トップリーグネクスト」と呼ばれるプロジェクトをけん引。将来的には各クラブに競技者育成の機能を持たせたいとするなど、日本大会終了後の競技文化を作らんとする。

 日本協会はリーダーシップの不足が指摘されるが、現場レベルでは芯の通ったアイデアを持つ人も少なくない。この国の一流企業に支えられてきたトップリーグを2020年のオリンピック東京大会以後も継続させるには、まず、ラグビーそのものの市場価値を上げうる人材の意志をへし折らないことが必要だ。

ある視点からの本命

 グラウンド内では計16チームが2つのカンファレンスに分かれ、別カンファレンスとの交流戦を含めた計13試合をおこなう。各組上位2チームが日本選手権を兼ねたプレーオフトーナメントに進み、1月13日に優勝チームが決まる。

 今度のレギュレーションは、2月からのスーパーラグビーに日本から加わるサンウルブズに十分な準備時間を与えるために作られた。やや短縮された格好だが、頂点に立つ条件は数年来、変わらない。

 監督(またはヘッドコーチ)を中心に戦術略の意思統一がなされており、大物外国人がチームに深くなじんでいることだ。エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチが率いた2011年度のサントリー、堀江翔太、田中史朗という日本人スーパーラグビープレーヤーを擁し一昨季まで3連覇したパナソニックは、その隊列に加わっている。

 前年度はここへ、スーパーラグビーとトップリーグを掛け持ちする選手の管理に戸惑わないことも加わったか。前年度のパナソニックでは当時サンウルブズのキャプテンだった堀江らが、2015年のワールドカップイヤーからの蓄積疲労に難儀。最初の4戦を2勝2敗としていた。

 日本協会が出場過多の懸念される選手をプロテクトするなどの措置は、今季に限ってはおこなわれない見通し。日本を支えるトッププレーヤーを抱えるチームにとっては、当該選手の体調チェック、主力を休ませた際に向けた選手層拡大も問われる状況下である。

 

 統一感、大物の存在、さらにはメンバーの厚みという観点から優勝候補と目されるのは、サントリーとパナソニックだ。

一昨季に9位と低迷も昨季全勝優勝を果たしたサントリーでは、2シーズン目の沢木敬介監督が今季も妥協なき鍛錬で若手選手を鍛え上げる。開幕直前には元日本代表S&Cコーディネーターのジョン・プライヤー氏を招へいし、サンウルブズの活動などで疲弊した選手のコンディション改善に着手した。

 昨季トライ王とシーズンMVPのダブル受賞でサンウルブズ入りしたウイングの中鶴隆彰は「もう、すでに早く試合がしたいマインドになっています」と意気込む。

 外国人勢ではオーストラリア代表111キャップを誇るフランカー(またはナンバーエイト)のジョージ・スミスが密集戦でにらみを利かせ、身長2メートルのジョー・ウィーラーが空中戦を制圧。攻撃的ラグビーを標榜するチームにあって、要所での球の奪い合いで光る2人の存在は大きい。

 さらに新加入したオーストラリア代表103キャップのマット・ギタウは、合流間もない頃は移動中にチームのサインプレーのリストを熟読するなど献身ぶりを示す。沢木監督は「100キャップ獲ってる奴は、サボらない。彼は動きながらコミュニケーションが取れる」と信頼し、全試合に出場したスタンドオフの小野晃征の負担減も期待している。

 パナソニックでは、就任4年目のロビー・ディーンズ監督は「去年に比べ、今年はいい状態」。3位だった前年度に出番を増やした中堅以下の選手、日本代表の万能バックスである松田力也ら新人の底上げに目を細める。

 途中加入で終盤戦の巻き返しをもたらしたオーストラリア代表66キャップのフランカー、デービッド・ポーコックも、8月上旬に来日。それよりも前に合流していた同51キャップのベリック・バーンズも、入部5年目にしてチームの陣地獲得戦術を高質にする。ディーンズ監督は続ける。

「選手自身がメンタル、フィジカルをどうマネジメントするかが大事。選手間の競争がうまく作用すれば」

プログラムの妙は

 今季のサンウルブズへの加入選手を昨季の2人から追加召集を含め7人に激増させたのは、前年度2位のヤマハだ。看板の強力スクラムを醸成した長谷川慎フォワードコーチが日本代表とサンウルブズに専念するため、現役を退いたばかりの田村義和がスクラムの指導を継承する。

 強化計画の変更が必須となるなか、以前よりボールを動かす向きを強めるなどほど良きマイナーチェンジを図る。フルバックに五郎丸が入ることで、昨季の正フルバックだったゲラード・ファンデンヒーファーはウイングへ回る。この人の走力とロングキックも魅力である。清宮克幸監督はこう展望する。

「いままでやってきたものを活かしながら、新しい取り組みをする。いまが組織として、そういう力を一番発揮できるタイミング。その意味では、今年はパフォーマンスが高まる可能性の高い年でしょうね」

 そのヤマハと開幕戦を戦うトヨタ自動車は、元南アフリカ代表監督のジェイク・ホワイトを招いた。巨躯を揃えながら8位に終わった、前年度の汚名を晴らしにかかる。過去5度優勝も前年度9位だった東芝は、7季ぶりに復帰した瀬川智広監督のもと立ってボールを繋ぐ伝統のスタイルを蘇生させんとする。

 

 ひたすら走りまくったサニックスはイングランド代表29キャップのジェフ・パーリングを入れて空中戦を安定化。ニュージーランド、アイルランドで実績を作ったロブ・ペニーヘッドコーチ体制4季目となったNTTコムとともに、上位陣を打ち負かすストーリーを描きそうだ。

 約5か月間続くゲームの背景には、各チームの計画や狙い、背景も見え隠れする。観戦者は優勝争いを追うなかで、自身の業務や学業とリンクする知見も獲得できそう。もっとも、よく堀江が強調する「スポーツなんで、楽しんで観てください」もまた真実だ。2017年のトップリーグは、さまざまな観戦ニーズに応えることができるだろうか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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