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サンウルブズの94失点に大騒ぎしてはいけない?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
次のホームゲームは7月15日。東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる。(写真:アフロ)

ラグビー日本代表の強化を下支えするプロクラブ、サンウルブズが、発足2年目にして最多失点記録を更新した。

日本時間7月2日未明、敵地ヨハネスブルグのエミレーツエアライン・パーク。参戦する国際リーグのスーパーラグビー第15節で、前年度準優勝チームのライオンズに7―94で屈した。

おりしも、本家にあたる日本代表は6月に組まれたテストマッチ(国際真剣勝負)を1勝2敗と負け越したばかり。ライトユーザーの興味喚起に大きなハードルが生じ、熱心なファンの心配の種が増えておられる頃か。こういう時こそ、問題点を簡潔にする必要がある。

高阪氏の指導待たれる?

ライオンズ戦で起きていたことはシンプルだ。

計画上は2人がかりで相手を倒すはずだった防御がそうではなくなり、1対1のタックルを外された。その延長線上で防御網に乱れが生じ、リーグ屈指の攻撃力を誇る相手がその隙間をえぐった。攻防の起点となるスクラムでは、特に試合序盤、相手の組みたい高さに付き合わされた格好だ。

両軍の背景もまたシンプルだ。ライオンズは直近の南アフリカ代表選手10名を並べるなど、故障者を除いてはほぼベストの布陣。かたやサンウルブズは6月の日本代表勢が9名メンバー入りも、立川理道キャプテン、堀江翔太といった経験者は揃って休養している。

試合の現象に関しては、タックルを支えるフィジカリティとスキルの点検が必須か。

前者の解決方法は、今回の日本代表のツアー時に出た課題のそれと同じ。国内シーズン、スーパーラグビーと休みなく試合が組まれるなか、主力選手に適度な休養と腰を据えた身体作りの時期をどう付与するか。それを日本ラグビー協会などがイニシアチブを取るべきである。

参考資料:日本代表、2年後ワールドカップへ欲しい「5パーセント」とは。【ラグビー雑記帳】

後者については、ベン・ヘリングディフェンスコーチが相手を真正面でとらえるタックルスキルを伝授中。加えて期待されるのが、2015年のワールドカップイングランド大会での3勝を支えた総合格闘家の高(ハシゴの高)阪剛氏のような客員コーチの定期的な招聘か。

高阪氏は相手の目の前で低い姿勢となる「ダウンスピード」など、小柄な選手が大男を倒すためのスキルを言語化して伝授。チーフスから日本代表入りするリーチ マイケルら、複数の主力組から尊敬を集めている。日本人になじみやすいとされる、体系化された知の落とし込みが期待される。

参考資料:ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの「死に物狂いで」発言をどう捉えるか。【ラグビー雑記帳】

スクラムについては、長谷川慎スクラムコーチはかねて「自分たちのやっていること(チーム内で共有するスクラムのシステム)を80分間、毎回、精度高くできるか」と話している。ライオンズを相手に自軍の型を全うできなかった理由は、もう現地では抽出されていよう。

また、週によりメンバーを入れ替えるマネジメントについては、実質的にはジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチの専権事項だ。

コーチ陣からは「そのおかげで層が厚くなったところもある。短期と長期の両方を見なきゃいけないなかでは、一番いいやり方をしている」という声もあり、選手サイドからも「(必要なのは)慣れ。スーパーラグビーでは、毎試合ベストコンディションでは出られない。疲れてもやらなきゃいけない状況はくる」と自分たちにベクトルを向けた談話が発せられている。

以後はスコッドそのもののセレクション、練習計画の立案などについてレビューがなされるだろう。前述の身体作りの期間が見直されれば、週ごとの起用可能な選手層に幅が出るかもしれない。

見失いたくない足元とは

ポイントを整理すると、今度の記録的な大敗で外野が感情的になる意味は薄いとわかるだろう。ここでメディアとファンに求められるのは、日本ラグビー界が足元を見失わないよう状況を見定めることだ。

繰り返せば、日本代表の強化のために急務なのは肉体強化の計画立案だ。その主導権を握るべき日本協会にあっては、薫田真広・強化委員長が「2015年時に比べ3キロ落ちている」と認めている。そうであれば、万難を排した具体的な行動が求められる。キックを多用する戦術を問うのはその次の段階で、ましてや一部選手の奇抜な頭髪への賛否は揚げ足取りの域を出ない。観る者も惑わされてはいけない。

スーパーラグビーでは、世界上位国のクラブとの試合が週に1度ペースでおこなわれる。出場過多が問題視される前までは、選手側も高強度の試合への耐性が高まった点などを喜んでいた。運用の仕方を誤らなければ、日本代表にとって最良の強化機関に昇華できる。万が一、今回の結果を受けて撤退などを謳う関係者がいても、同意の素振りすら見せるべきではない。

対象をよく知ろうとし、よさと問題点を明確に見出す。この思考の枠組みは、ラグビーの日本代表やサンウルブズの論考以外の場でも転用できる。愛するチームの大敗を受け、落胆するよりも考える。その延長線上で、スポーツ文化をより豊かにできるかもしれない。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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