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アイルランド代表戦惜敗。日本代表・稲垣啓太、リベンジへの道筋示す。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
大敗も持ち味のドミネートタックルを炸裂させた(写真は昨年)。(写真:アフロスポーツ)

ラグビー日本代表の稲垣啓太は、チームマンであり孤高の人だ。

スクラム最前列左のプロップとして、攻防の際はグラウンドの中盤で突進とタックルとサポートを貫徹。倒れた後の起き上がりの速さにも定評があり、日本代表としては2015年のワールドカップイングランド大会などで活躍した。パナソニックに加入した2013年の時点で、中距離走のタイムはチームのフォワード第3列級の記録を誇っていた。

練習前、練習中の姿には、自己と向き合う気風がにじむ。各自がウォーミングアップをおこなう折は、仲間とのパス交換よりも自ら定めた股関節ストレッチやジャンプなどに集中する。コーチが笛を鳴らした後のショートダッシュとジョグも、列の一番外側でこなす。

6月17日、静岡・エコパスタジアム。チームはアイルランド代表に22―50と大敗した。

2019年のワールドカップ日本大会でもぶつかる相手は、今回、若手主体の編成。勝利の期待された日本代表だったが、タックルミスや反則に泣いていた。前半40分の観の出場だった稲垣は、この80分を通して何を感じたか。

24日に訪れる再戦へのリベンジの意志も踏まえ、明瞭に語る。

以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――試合を振り返って。

「ペナルティーが多すぎましたね。前回の試合(6月10日、熊本・えがお健康スタジアムでのルーマニア代表戦。33-21で勝利も後半に苦戦)を終えてから、あれだけペナルティーを減らそうという話をしていて、今回取り組んだのは(接点の)ボールに絡むのではなくて、そのボールの上のスペースに行く、というものだったんですけど、そこがうまくいっていなかったですね。せっかく敵陣に入っても、つまらないミスやペナルティーでボールを渡すシーンが多かった。ペナルティーの多さがチームの弱点になっている」

――なぜそうなっているのか。

「個人の意識でしょうね。チームでやるべきこと以外のことをやろうとしてしまっている」

――ジェーミー・ジョセフヘッドコーチは「選手が死に物狂いでやっていない」といった類の発言をしていたが。

「死に物狂いじゃない選手はいないと思いますが、それがゲームプランに沿っていたかという問題はあります。マインド、エナジーはすごいですが、プランに沿ってやり切れたかと言えばそうではない」

――想定外だったことは。

「正直、ないです。自分たちでゲームを崩したのが原因です」

――ゲームプランへの信頼度は。

「ゲームプランに対しては、エキサイトしています。このスタッツを出せば勝利に導ける、というものも理解している。そのプランを突き詰めるための細かい部分ができていない。いろんなプランを与えてもらっても、やり切るのは選手です」

――ディシプリン。ワールドカップイングランド大会での日本代表は、予選プール参加チーム中最も反則の少ないチームでしたが。

「当時と人も変わっていますし、新しくなっていくなか、いままで築き上げてきたものがないがしろになっている気がします。いい部分を継続していかないといけないですが、継続しながら新しいものを覚えていくと、人は色々なものに目を向けてしまう。日頃から言い続けないと。

ペナルティーの少なさは、2015年のワールドカップでは際立っていました。あの時は日頃から全員が意識して『ノーペナルティー』と言っていて、それが刷り込まれた状態で臨んでいた。ただ、いまはそれが刷り込まれていないとこの2試合で全員わかったと思います。単純なことだと思うんですよね。越えてはいけない線を越えない。ゲームプラン外のプレーをしない…。ゲームを通して疲れていって、色んな局面ができるなか、それに対応できるようコミュニケーションを取らないといけないのですが、取れなかったですね」

――タックルが外された場面が多かった。

「特別、相手がスペシャルなプレーをした場面は少なかったと思うんです。別に、ディフェンスをしていて脅威を感じることも…。では、なぜあそこまで点数を取られたかというと、向こうはモーメンタム(勢い)を持って、パスもせずに真っ直ぐ真っ直ぐ。忠実にそれをやってボールをキープしているだけなんです。僕らもそこでノーペナルティーで我慢をし続ければチャンスはあったのですが、頑張ってターンオーバーしたボールをペナルティーで手放したり、ルーズボールを持って行かれたりという場面が多かった。そういうところは、なくしていきたいです」

――攻め込ながらもゲインできなかった場面は。

「下げられてはいたものの、結局自分たちの首を絞めたのはペナルティーです。

向こうはセットプレーが安定しているだけあって、そのセットプレーからのアタックの準備はうまかったです。それは、正直に。ファーストフェーズで向こうが確実にゲインを切って来たし、ああいったシーンを続けられると苦しい。セットプレーを安定させ、イーブンに持って行って、ファーストフェーズを止めることが大事。ここで下げられても戻る意識を見せ、いい位置でセットして、ちょっとずつ陣地を返していく…。そうした我慢が必要だったのですが、足りなかったですね」

――同じ相手と、1週間後に戦います。どうしますか。

「ペナルティーを減らすだけで、この試合は大きく変わります。インターナショナルレベルの試合でこうもペナルティーが多いのは話にならない。ペナルティーが多ければ、大差がつきます。向こうはセットプレーなどで、こちらのペナルティーを取りに来るようなラグビーをしています。それに対してこちらは、相手が意図して取りに来る以外のところでペナルティーを与えていました。

もう1回同じ相手と試合ができるということで、選手の取り組みが変わる。そこに向け、準備していくだけです」

昨今は選手の勤続疲労を考慮する声が高まるなか、稲垣は身体が続く限りタフなゲームを経験したいと表明している。「経験しないと得られないものがある」。その意味では、この日にハーフタイムで交代したことについてはどう捉えているのだろうか。

選手交代が指揮官の専権事項であるのを前提として、こう話した。

「選手としてはもっと出たいと思っていますし、自分のなかで悪かったというイメージはない。きっと、何か意図はあったのだと思います。ああいった流れだったので、それを変える、とか」

――最後に、ペナルティー撲滅以外に、どんな働きかけが必要と感じますか。

「いまはペナルティーを減らすこと以外に働きかける部分をなくした方がいいです。それほど重大な問題です」

大敗したゲームほど修正点を限定した方がいいと、歴代の名指導者も口を揃えていたものだ。稲垣の示す道筋はチームの指針とシンクロするか。その答えは、19日からの東京合宿で明らかとなりそうだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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