Yahoo!ニュース

日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、ワールドカップ抽選会後に注文?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
10日、大会優勝杯のウェブ・エリスカップの前で。(写真:ロイター/アフロ)

ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが、5月11日、滋賀県内で共同取材に対応。10日におこなわれた2019年のワールドカップ日本大会の予選プール組み合わせ抽選会の感想や今後の展望などを語った。

抽選会は10日、京都迎賓館でおこなわれた。日本代表は4つある予選プールのうちグループAに入った。アイルランド代表、スコットランド代表、ヨーロッパ予選1位チーム(ルーマニア代表などが濃厚)、ヨーロッパ予選2位-オセアニア予選3位のプレーオフ勝者チームとの対戦が決まった。日本代表は6月にルーマニア代表、アイルランド代表と国内でテストマッチをおこなう予定だった。

組み合わせの詳細は以下の通り。

■ プールA:アイルランド代表、スコットランド代表、日本代表、ヨーロッパ予選1位、ヨーロッパ予選2位-オセアニア予選3位のプレーオフ勝者

■プールB:ニュージーランド代表、南アフリカ代表、イタリア代表、アフリカ予選1位、敗者復活予選優勝

■プールC:イングランド代表、フランス代表、アルゼンチン代表、アメリカ予選1位、オセアニア予選2位

■プールD:オーストラリア代表、ウェールズ代表、ジョージア代表、オセアニア予選1位、アメリカ予選2位

2016年秋に就任したジョセフは、国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズを強化の軸に据える(フィロ・ティアティアヘッドコーチ傘下に代表のアシスタントコーチを帯同させる)。

3月からはサンウルブズの国内滞在組やそれ以外の若手選手などを集め、ナショナルデベロップメントスコッドのキャンプを実施。ここからメンバーを絞り込み、現在開催中のアジアラグビーチャンピオンシップに挑んでいる。

多忙なスケジュールの合間を縫って会見したジョセフは、去り際にメディアへ一つのリクエストを出した。

以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「皆さま、ようこそ記者会見にお越しいただきました。昨日(抽選会直後の会見)とは違った、リラックスした環境で私の気持ちが述べることができて光栄に思います。昨日の結果を受け、最高の気分です。なぜか。これからどういう風にチームを作るべきかが明確になったからです。しっかりとしたプランニングを立ててゆきたい。

今年6月にはアイルランド代表と戦える。我々の準備に関してはとてもいい経験になり、強化に役立つ試合になる。

昨年はスコットランド代表と戦いました(マーク・ハメットヘッドコーチ代行のもと)。その戦いから通用した点、課題を振り返りたいと思っています。

もしかしたら(ヨーロッパ予選1位で)ルーマニア代表が同じ組に入ることも無きにしも非ずですが、ルーマニアとも今年6月に対戦します。いい準備ができる。

昨日は初めて抽選会に参加しました。開始まではリラックスしていましたが、いざ始ってステージに上がった時は、隣にエディー・ジョーンズ(イングランド代表ヘッドコーチ)、スティーブ・ハンセン(ニュージーランド代表ヘッドコーチ)がいる。いずれもワールドカップを何度も経験した名将です。(笑顔を浮かべ)私は、大きなマグロのなかの小さなイワシのような感じでした。

メディアや国民からの印象を新聞で読みましたが、我々が楽なプールに入ったという見解があるようです。ただ、私は決してそう思っていません。アイルランド代表はヨーロッパ6か国対抗でイングランド代表に勝っているチームです。世界3位だと思っている。スコットランド代表も誇り高く、日本代表は彼らに勝ったことがありません(互いがテストマッチと認めた試合では未勝利)。2019年は大事な戦いになると思っています。

ただ、今回は絶好のチャンスでもある。ホーム、我々の家族、仲間の前で戦えるのはラッキーなこと。自国開催でもプレッシャーはなく、思い切って戦える絶好のチャンスだと思っています」

――6月のアイルランド代表戦。相手はヨーロッパ連合軍に主力を取られる予定です。

「我々は何も隠せない立場です。この先2年間で4回のテストマッチのための準備をしないといけない。全ての与えられたチャンスを有効に使いたい。アイルランド代表は変わらず、パワーゲームをしてくる。唯一、変わるのは、何人かの選手だけだと思います。6月は勝ちに行きたいし、成功を収めたい。あとは比較的若い選手たちにチャンスを与えて、高い強度の試合をしたいと思います」

――本番ではヨーロッパとの対戦が続く。現体制が注力するアンストラクチャーからの展開(互いに陣形が崩れたところでの攻防)が有利に働くが。

「キッキングゲームでアドバンテージを見出せると思います。けれど相手はパワフルで、それを活かした戦いをする。ワールドカップは暑い時期におこなわれて、それは我々に有利に働くかもしれませんが、とにかく相手のセットプレーが強いので、そこでの安定が求められます(セットプレーとはスクラムやラインアウトなどといった攻防の起点。ここでのぶつかり合い、競り合いは試合を左右する)。

2015年のワールドカップでは、日本代表のスクラムが安定していたのが強みになっていたと思います。マルク・ダルマゾスクラムコーチの指導で、2014年から2015年にかけ、成長していったと思います。我々のチャレンジもそれと同じ。セットプレーが安定しないと、苦しい戦いになります。

ご覧の通り、サンウルブズもトライを取る能力がある。昨季の日本代表のヨーロッパ遠征でも、それは実証された。アタックは機能しており、テストマッチに勝てる力量があると思っています。けれどもディフェンスが課題。特にセットプレーからのディフェンス。相手はパワーを活かし思い切り当たってくると思う。修正が必要です」

――セットプレーについてさらに伺います。空中戦のラインアウト、ラインアウトから組むモール、相手のモールへのディフェンスについてはどう強化を進めますか。専門コーチを招聘する予定はありますか。

「それは、自分が担当します。オレノシゴト。ラインアウトとモールのディフェンスは、大きく改善してきています。昨季のテストマッチで唯一取られたセットプレーからのトライは、ジョージア代表戦でのモールからのものです。あそこでは、その前のラインアウトで競らなかったので、簡単に押されて、トライをされました。まずは空中のコンテストでプレッシャーをかけないといけない。競ることが大事です。サンウルブズのジャガーズとの試合でも、モールからトライを取られました。この時も、まずラインアウトで競らなかったからそういう結果になったと思います。

そしてスクラムに関しては、毎試合、強くなっていると思います。昨季は劣勢に立たされた時もありましたが、昨年11月から考えると大きく成長した。セットプレーには特効薬はありません。このまま努力し続けることが大事。相手は必ずでかい相手です。これからも強化し続けることが大事です」

――昨日の抽選会時、アイルランド代表のジョー・シュミットヘッドコーチらとどんな話を。

「抽選会前に向かうバスの車中で、一緒に座っていました。そのなかでの会話は、6月のこと。彼らは、日本の文化に触れてプレーするのが楽しみにしている、ということでした。抽選会後はあまり話す機会はありませんでしたが、アイルランド代表のいまの置かれる立場は、彼らにとって喜ぶべきものだと思います。強いチームです。ただ、ワールドカップまで何が起こるかわかりません。2年間でけが人が出るかもしれませんし、2年後は誰がどんな風にプレーするかわからない」

――元日本代表指揮官での現イングランド代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチともお会いしました。また、安倍晋三首相の姿もありました。

「ジョーンズさんは、日本ラグビーを心から愛していて、長年、日本ラグビーの育成に携わった人物。これまでもサポート、助言をしてくれていて、今回もその関係が変わらないなかで話をしました。安倍総理らほかのゲストの方々からは特に印象に残る言葉はなかったですが、メディアの皆様と同じようにワールドカップを楽しみにされていて、頑張ってくれと言う声をかけられました」

――今回の組み合わせを受け、2018年のマッチメイクへのリクエストに影響は出ますか。

「スコットランド代表とは去年、ぶつかり、アイルランド代表とは今年6月に戦う。この2チームについては、これから彼らの試合をじっくり観察していきたいと思います。2018年の私の希望は、タフなチームと戦うことです。これまでアルゼンチン代表、ウェールズ代表と、これからはアイルランド代表、フランス代表など、上位陣と戦います。より強いチームと戦うこと、それにチャレンジすることが、何よりも日本ラグビーの成長に繋がると思います」

――本番までテストマッチは22試合ほど。6月の戦いの位置づけ。また、多くのチームは2年前からメンバー固定を考えるが。

「考えることは、他の国と同じです。ワールドカップまでの20数試合に加え、サンウルブズが戦うスーパーラグビーが30試合、あります。いまサンウルブズは思うような結果を出していませんが、確実に上達していると思っています。日本ラグビー全体が成長していると感じています。スーパーラグビーというタフな場に参加しているのは、2019年への準備のため。選手への負担は大きいですが、こうした国際試合を経験させることは大きい。これは南アフリカ、オーストラリアがずっとおこなってきたことです。2019年までに50以上の質の高い試合で強化を図れる、という考えです」

――2年以上前に対戦相手が決まることへ、早すぎるのではという意見もありますが。

「私としては開催2年前に決まるのは素晴らしいことだと思います。ちょうどいい時期だとも感じています。先ほどの質問にあったように、2年前からある程度チームを作り上げ、メンバーを固め始めるというのが私の考えでもあります。1年前から急にチームを作り上げるのは、怪我以外での急な変更ができないので無理なこと。今回は11月以降に選手の状態を見極めて構想を固めたい。経験値のある選手に関してはあと2年間戦い続けられるかを、若い選手に関してはワールドカップで戦う力量あるかどうかを見定めていきたいと思います」

――今春は幅広いスコッドのもと活動。今後、どういう形で絞り込むか。

「この形で続けるのが大事なのです。まず20歳そこそこのジュニア;ジャパンがパシフィックラグビーというタフなトーナメントを戦い抜き、さらにレベルが上のNDS(ナショナル・デベロップメントスコッド)のキャンプをおこない、フィットネスレベルを持続させる。サンウルブズで遠征に行かなかった選手も、このNDSで鍛え上げる。これを続けることで、70名ほどの選手を常に見られる。続けてゆく必要性はあると感じています」

――本大会で試合をしたい順番などはあるか。

「自分はそのことへの主導権を握れないと思うのですが、ティア1(強豪国)と初戦で当たって勝ったら、2015年のように自信をつけて大成功を収められる。もし強豪国とぶつかって負けるとプレッシャーがかかり、さらに2敗すると突破が難しくなり…と、前回のイングランド代表(開催国ながら予選敗退)のような状況に陥ると思います。ただ私としては、誰とどう当たろうが、すべてを受け入れて戦うのみです。

…最後になりますが、日本の色々なところにいるコーチがメディアにコメントを出しています。自国開催だから大きなプレッシャーがかかる、とか、色々な話題も出ています。そういうものが多くなると、選手への負担になる。メディアの方には、自国開催は強化に向けて絶好のチャンスだという捉え方をしていただき、そういう発信をしていただければ、チームにとっての強化に繋がるし、助かります。オネガイシマス」

大会に向け、構想の一端を語った通称「JJ」。大柄な体躯と笑顔から親しみやすい印象を与えるが、日本のメディアをくまなくチェックするなどち密さも覗かせる。チームスローガンは「ONE TEAM」。各アシスタントコーチの力を結集させ、国内のタレントの力をフル出力させたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事