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リオ五輪期間中の終戦記念日。「スポーツは何のためにある?」という件について。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
リオ五輪ラグビー7人制がおこなわれたデオドロスタジアムのスタンド。非日常。(写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ)

朝。窓の外に野草とレタス畑を覗く。長野県は菅平高原で、大学のラグビー部の合宿や練習試合を取材して回っている。

取材内容は『ラグビーリパブリック』や今月25日発売の『ラグビーマガジン』(ともにベースボール・マガジン社)をチェックしていただくとして、ここではまず宿泊地に選んだ山荘の話から。

「昔は選手の親御さんがたくさん観にいらしていたんだけど、いまはめっきり。ほら、子どもの数が減っちゃってるから」

おぼんを手にした女将が言う。

インターネットは「LANケーブル」のみでトイレットは水洗ではないものの、チェックイン時に近くでペパーミントのシャーベットが出される総客室数10前後の宿泊施設。かつては、後に日本一有名なラグビー選手の1人となる大学生の家族もハンディを持って訪ねてきたという。が、いまは「不景気になったのも、あるのかね」。確かに東京や大阪の父兄なら、日帰りもできる。その方が「コスパ」がいいと考えても不思議ではない。現政権が富めるものから順に潤す「アベノミクス」なる経済政策を打ち出し、4年近くが経とうとしている。

スポーツライターが政治を語るな、とのご指摘を受ける。こちらとしては予めツイッターのトップページに「リツイートは同意とは限らず」の文言をつけているし、そもそも不案内な政治について何かを指示しているつもりなどさらさらないとお伝えしたいが、多分、ネットユーザーが文句を言いたいのはそこではないのだろうな、ということも理解できる。

確かに、スポーツと政治は別個の存在であるべきだ。ある時は体育が大東亜共栄圏確立の道具に用いられ、またある時は「ソ連のアフガン侵攻に対する制裁」として日本選手団のモスクワ五輪不参加が決まった。かようにスポーツが政治の傘下に置かれる構図の是非は、半永久的に問われるべきだろう。

もっとも、スポーツは政治の道具ではない一方、政治は全ての人民の関心事であるべきである。元アスリートが政権与党のサポートを受けて国政に名乗り出ているように、スポーツや音楽や伝統芸能に従事する人が政治を考えるありようは、誰の「アンダーコントロール」に置かれることではあるまい。個人的にはむしろ、自由であるはずの国の人間が他者の自由を制限する「空気」そのものに、薄気味の悪さを覚える。

8月15日朝。リオ五輪開催期間中の終戦記念日。菅平高原のグラウンドには、次から次へとスパイクとリュックを持った男子が三々五々、現れる。ただただラグビーをするために、である。もっとも、どうしたって元日本代表監督、大西鉄之祐さんのぐうの音も出ぬ格言が思い出される。

「8年間戦争にいってきました。人も殺しましたし、捕虜をぶん殴りもしました」

「そのときに、こうなったら、つまり、いったん戦争になってしまったら人間はもうだめだということを感じました。そこに遭遇した二人の人間や敵対する者のあいだには、ひとつも個人的な恨みはないんです。向こうが撃ってきよるし、死んじまうのは嫌だから撃っていくというだけのことで、それが戦争の姿なんです」

よくスポーツの記事で「敵」とか「自軍」とか、要は戦争に使えそうなフレーズが用いられる。以前はそうした言葉の一切を使いたくないと考えていたが、ある同業者の意見を受け対応を軟化させた。

「だって、スポーツを戦争になぞらえることで、本当の戦争をしないように…という考えもあるんですから」

目から鱗。スポーツはスポーツ以外の何物でもないと同時に、人に戦争をさせないためのアートでもある。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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