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田中史朗、再びの「嫌われ者」宣言。日本代表の6月ツアーへ思い明かす。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
イングランド大会のスコットランド代表戦は10-45で敗戦。リベンジを期す。(写真:ロイター/アフロ)

ラグビー日本代表の田中史朗が、6月のツアーへの意気込みを語った。

4年に1度あるワールドカップの自国大会を2019年に控える日本代表は、6月11日に敵地バンクーバーでカナダ代表と、18、25日にはスコットランド代表とそれぞれ愛知・豊田スタジアム、東京・味の素スタジアムでテストマッチ(国際間の真剣勝負)をおこなう。

スコットランド代表は、歴史的な3勝を挙げた昨秋のワールドカップイングランド大会で日本代表が唯一敗れた相手だ。

2016年度以降はジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)が着任予定も、現在は国際リーグであるスーパーラグビーのハイランダーズを率いており、来日は今夏以降。

6月のツアーでは、スーパーラグビーに日本から初参戦するサンウルブズのスタッフがジャパンをサポート。なかでもマーク・ハメットHCが、代表HC代行という重責を担う。

2日に都内で会見した田中は、身長166センチ、体重75キロと小柄な身体つきながら、相手の盲点を突く判断と負けん気で日本代表53キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)を獲得した。

スーパーラグビーの日本人選手第1号でもあり、秋から日本代表を指揮するジョセフHCのもと、ハイランダーズで4シーズン、プレーしてきた。

日本ラグビー界の人気や地位の向上のため、大胆な提言も欠かさない。イングランド大会では当時のエディー・ジョーンズHCに意見具申できる希少な存在だった。

以下、会見中および会見後の一問一答(編集箇所あり。※は当方質問)。

<会見中>

「こんにちは。今日はお集まりいただき、ありがとうございます。

今回、監督が変わることで、ラグビー自体も変わる。正直、いまはどこを目指してやっているかがわからないのですけど、カナダ代表、スコットランド代表という僕たちのライバルと言えるチームと試合をすることで自分たちの位置がわかりますし、日本代表がどういうものかを実感できるいい機会だと思います。日本代表が、子どもたちにどれだけ夢を与えられる存在なのかが理解できる場です。

日本の皆さんにも、日本代表がどういうものかを観てもらいたいです。全力で立ち向かって、勝利できるように頑張りたいです。これからも日本のために、全力でやっていきたいと思っています。

昨日、熊本にも行ってきたんですけど(5月31日に帰国し、6月1日へ)、子どもたちにはまだラグビーを理解できていない子もいる。日本代表が先頭になって、ラグビーの素晴らしさを広めて、希望を持ってもらえるように頑張ります。これからもよろしくお願いします」

――イングランド大会でのスコットランド代表戦は、歴史的勝利を挙げた南アフリカ代表戦の4日後におこなわれていました。

「休みが短かったというのもありますけど、南アフリカ代表という世界トップクラスのチームに勝ったことで、全員が舞い上がって、喜んでしまったのが問題だと思います。ワールドカップでは、短期間で激しい試合が続く。そのなかで、どれだけ次の試合に向けて集中できるかが大事。それなのに、勝ったことで甘さが出た。その結果、ああいう敗戦になったのだと思います」

――勝つには何が必要ですか。

「まとまることが大事かな、と思います。新たな日本代表のスタート。お互いの考え方もはっきりとは理解していませんし、どういうスタイルでやるかもわかっていない。練習中、練習以外でもコミュニケーションを取って、どの人間がどういう人物でどういう癖を持っているかを理解しながら試合をすることで、統率力が生まれて、日本代表としていい結果を得られるのかな、と思います」

――相手のスクラムハーフ、グレイグ・レイドローキャプテン(イングランド大会でベストフィフティーンを獲得)への思い。

「尊敬の気持ちもありますし、負けたくない気持ちもあります。彼にはリーダーシップもあると聞いている。自分自身も、31歳。リーダーシップを持ちたいと思いますね」

――日本代表の他のスクラムハーフ、内田啓介選手、茂野海人選手については。

「正直、もっと頑張って欲しいと思います。能力的には僕よりも高いけど、まだ経験値が足りないと思います。試合に出て、自分の仕事を理解したうえでラグビーをしていって欲しいです」

――サンウルブズのメンバーがスーパーラグビーを経験。日本代表はどう変わりますか。

「世界トップクラスのリーグでプレーしていることで、身体を当てる面でも慣れは出てくると思います。日本を代表するサンウルブズで戦っているという、1人ひとりの責任感も出てくる。その点はよかったと思います」

――日本ラグビー界への認知度、ニュージーランド国内で変化はありましたか。

「ニュージーランドでは選手もファンも、南アフリカ代表戦のことを言ってくれます。サンウルブズは結果がなかなか出ていないので(現在1勝10敗1分)、観ている方々は『世界は難しい』と感じていると思いますが、まだ1年目です。言い訳になるかもしれませんが、サンウルブズには世界を知っている選手が少なかった部分もある。1人ひとりのレベルは上がっていると思いますし、サンウルブズに入っていない選手にとっても世界の試合を観る機会が増える。これから日本のラグビーは強くなると確信しています。ですから、そうした姿を取り上げていただけたらと思います。メディアに載ることで選手のモチベーションも上がりますし、選手もそれを理解しながらレベルアップしたいと思います」

――今度の日本代表招集に応じた背景を語ってください。休みなく戦っており、身体は辛いと思いますが(※)。

「しんどいというのは言い訳にしかならない。日本のため、子どもたちに夢と希望を持ってもらうために、全力でプレーしたいと思います」

――チームをまとめるために、どんな発信、発言をしていきますか(※)。

「日本人という人種がそうなのか…。あまり発言できない、目上の人に何かを言えない。そういう部分(首脳陣への意見)を若い選手から聞いて、上にしっかり伝える連絡役のようなことをしたいです。そういう役割ができる選手は、僕を含めて何人かしかいないと思っています。チームをまとめるための、嫌われ役。そういったことを、やっていきます」

――最後にメッセージをお願いします。

「僕はいまラグビーをやっていて、ラグビーで生活をさせてもらっています。でも、ラグビーが全てではないです。ラグビーを好きになっていただけることは嬉しいですけど、自分の好きなことを1つ見つけて、常に人生を楽しい状態で保ってもらえれば、日本全体が活発になる。1人ひとりが幸せな人生を送れる。これからも何か1つ好きなことを見つけていただき、暇があればラグビーを観てもらえたら嬉しいと思います」

<会見後>

――熊本へ行って来て(※)。

「(東日本大震災発生後には)福島へも行かせてもらって。その時と、一緒の状況でした。家が崩れて1階が潰れていたり、いまにも崩れ落ちそうな建物も何戸もあった。何とも言えなかったです。

ただ、子どもたちを観ると、笑顔があった。安心しましたね。楽しかったです。

まだまだ何かできるだろう、とは思いました。これは会社に迷惑がかかると思いますが、トップリーグの選手が全員で行って、何かできることをやるというのも不可能じゃない。僕たちが行動するのが大事だな、と、再認識しました」

――ハイランダーズでは、ジョセフHCと日本代表について話しますか。

「『(6月のツアーでは)何試合するんや?』とは言われました。一応、全部出たいとは伝えました。最終戦の翌日、ハイランダーズが南アフリカへ遠征に行きます。もしできたら、そちらへも…と言われています。どうなるかは、監督の判断です。基本、彼はいま、ハイランダーズのことを考えています。その他、自分の時間で日本のことを考えてくれていると思います」

――今季はおもにリザーブで、出場機会が限られていますが。

「(試合時間が)短いです。(笑いながら)ジェイミーにもそう言ってます。…出ている時間のプレーは、まぁ、悪くはないと思っています。ただ、ハイランダーズにはアーロン・スミス(ニュージーランド代表スクラムハーフ)という選手がいる。目の前の彼に近づけるように…。ニュージーランドでは、日本代表の試合があることで、フィットネスもやっていました。楽しみです。スーパーラグビーでどれだけレベルが上がったか、試合に長く出ることでわかって来る」

――ヘッドコーチ代行を立てて強豪国と戦います(※)。

「とりあえずパイプ役です。堀江(翔太、サンウルブズと今度の日本代表でキャプテンを務める)のように、マーク・ハメットとコミュニケーションを取っている選手もいる。そういう選手が、言えない部分も、言っていきたいと思います」

――今回の代表招集の経緯。

「いや…あまり(正式な打診などは)なかったです。(連絡があったのは)最近だった気がします」

――二つ返事で応じたのですか。

「どうでしょう」

――この春、日本代表の選手招集やスケジューリングが一筋縄ではいかない状況です。そのあたりのことを選手同士で話し合ったりはするのですか(※)。

「します。個人というより、日本のラグビーがどうしたらよくなるかを考えなくてはいけない。ただ、世界では選手が考えることは少ないんですよ。協会とかがしっかりしているので。そういう部分を、日本にも持って来れたらいいなという話はしています」

――ベテランの域に入ってきました。

「ベテランどうこうというより、経験はあるので、日本代表の思いを新しい選手に伝えたいと思います」

――ワールドカップイングランド大会後、モチベーションの維持は。

「正直、難しい部分はありました。ワールドカップが終わった後は、正直、もういいかなという思いもありました。試合に出てはないですが、スーパーラグビーも優勝して、しっかりした結果とは言えませんが(目標の8強入りは逃した)、ワールドカップでも勝って…。この後、どこをモチベーションにするかと考えたこともあったんですけど、パナソニックに帰ってラグビーをすると、勝ちたいという思いが出てきています。代表になったからには、自分たちがやらなきゃいけないと再認識させてもらった感じですね」

――先ほどの会見で、「何か好きなことを見つけてほしい」と仰られました(※)。

「子どもたちにはよく言っています。『英語を勉強してね』『ラグビーだけじゃなく、好きなことを見つければ人生が楽しくなる』と。僕にとっては、その好きなことがラグビーだったというだけです。ただ、ラグビーが全てじゃない。僕自身、ラグビーが終わったら何をしようと迷っている段階ではある。

…こういうことを子どもたちに早い段階で伝えれば、それぞれが人生の楽しい時間を増やせると体感しています」

――悟りのようです(※)。

「そんな感じに、なってしまいますよね。ここまでの話的には…。ただ、子どもたちも、そうなってくれれば楽しいと思います。自分も、ラグビーをやっていて(楽しいというより)しんどい時間が長かったので」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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