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「コーチは先生」「経営者も同じ」スーパーラグビー優勝2回の名将、指導哲学語る【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
会見で意気込みを語るルディケ氏。

国際リーグのスーパーラグビーで歴代最多となる149試合の指揮を執ったフラン・ルディケ氏が、日本のクボタでヘッドコーチに就任した。「どう勝ってゆくかのブランドを作る」と意気込みを語った。

その後は、過去の教員経験とコーチングの関連性や、読書体験から気づきを得たというチームマネジメント論を明かした。なお現イングランド代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ(日本代表を率いてイングランド大会で3勝)や帝京大学の岩出雅之監督(大学選手権7連覇中)など、昨今の日本で成功した指導者には、教員経験者が多い。

現在47歳のルディケ氏は、2008年から8シーズン、ブルズを指揮。09、10年度のスーパーラグビーを制覇している。昨秋のワールドカップイングランド大会では、フィジー代表のコーチも務めた。3月16日、都内で会見。強豪国の指導者らしく、冒頭では報道陣との協力体制を打ち出した。契約期間は3年。

クボタは、国内最高峰のトップリーグにおいて長らく不振にあえいでいる。一昨季は16チーム中13位となり、下部との入替戦に出場。今季は開幕4連敗を喫するなどし、16チーム中12位に終わった。チームを変革させるべく、熟練の指揮官にオファーを出した格好だ。

昨今では2連覇中のパナソニックが元オーストラリア代表監督のロビー・ディーンズ、昨季4強入りの神戸製鋼がストマーズの前ヘッドコーチであるアリスター・クッツェーなど、国際的な指導者を招へいしている。

以下、会見時のルディケ氏の一問一答の一部(編集済み)。

「記者会見の機会を与えていただきありがとうございます。メディアの皆さんがラグビーに果たしている役割を理解しています。皆さんのおかげで各会社がお金をかけてラグビーをサポートしている。それがここ20~30年、日本ラグビー界を進化させて、昨年の南アフリカ代表戦(イングランド大会で日本代表が歴史的勝利)に繋がっているのだと思います。メディアの方たちは、人々がもっとラグビーをよく知るためのサポートをしてくれていると思いますし、選手のことを伝える機会も作ってくれている。皆さんの役割に対し、私も貢献したいと思っています。ですので、私の話を聞く必要があればご協力します。試合や選手の話、その他、私の考えを聞きたいのであれば、いつでも声をかけてください。2019年、日本にワールドカップが来ます。日本の全てのチーム、メディアの皆さんにも、果たさなければならない役割がある。

コーチングはコミュニケーションが全てです。皆の習慣や考え方を変えることにはコミュニケーションが大事。ただ、まだ私は日本語を話せません。私自身、自分の安心安全なゾーンをこれほど飛び出したことはありません。クボタの皆様にこういう機会を与えていただいて大変感謝しています。世界で活躍している会社で働く機会をいただけて、光栄に思っています。

簡単な修正はないと思っています。もちろん、短期で集中しなければならない。全てのトップリーグチームにとって、開幕までの時間はあと24週しかありません。ここから先の1か月で、日本文化、チームのこと、選手のことなどをもっと学んでいきたい。まだプレシーズン。個人を伸ばしてチームを成長させるのが重要です。私の短期目標は、グラウンド内外全てのエリアで、選手を5パーセントずつ成長させることです。

シーズン前、シーズン中ともに、怪我人を少なくしたい。コンディショニング、ラグビーの部分ともスマートに準備をしたい。

また、クボタウェイを築いていきたいと思っています。クボタウェイは、私たちがどうものごとを進めるかを指します。スーパーラグビーの経験上、プライドをいかに持つかが重要だと考えています。昔、クボタはフォワードに自信があった。特にスクラムで相手をドミネートして、自信をつけていたと思います。

そして2つめのゴールとして、卓越した環境を作りたいと思っています。

最後に、オールラウンドゲームプランを作ります。相手も全力にこちらへ向かうなか、横幅を使って攻撃するだけでなく、縦へダイレクトなプレーをしたり、キックを使ったり、ショートサイドを使ったり、そうしたもの全てを使って対戦しないといけません。

私からは以上になります。もし質問があればお願いします」

――「日本でのコーチングが目標」なのはなぜですか。オファーを受けた理由も含めてお願いします。

「私はスーパーラグビーのブルズやライオンズで、14~15年という長い間コーチしてきた。選手や対戦相手のことをよく知っている。日本は、私に違ったチャレンジをもたらしてくれると思いました。ここは唯一、プロとセミプロがミックスされた国です。フルタイムの会社員がパートタイムでラグビーをしている環境です。

私は10年、教師をしたことがあります。スクールレベルなど、さまざまな環境でコーチングをしてきました。ですが日本では、私も、家族も何かを学べるとも思いました。

フーリー・デュプレア(今季までサントリーに在籍した南アフリカ代表。かつてはブルズでもプレー)の経験も参考にしました。彼も家族もこちらへ連れて来て、色々なことを学んで、自分の人生を豊かにしている。私もそうしたいと思いました」

――日本のどこに関心を持ったか。

「去年、フィジー代表のコーチをしていました。日本代表のことを、パシフィック・ネーションズカップ(昨夏)で対戦をする時に分析しました。スキルの高さ、ボールを取り返すためのワークレートに驚きを感じました。エディーさんも、それを大事にしていたと思います。

デュプレアからは、日本の労働倫理について話を聞きました。年中無休で頑張る、と。日本の選手は向上したい気持ちが強く、何をすべきかを伝えれば、その通りにやる。

また、家族と一緒に過ごせる点も決め手になりました。スーパーラグビーはノンストップでシーズンが進み、家族との時間は取りづらい。私には、3つ子と、もう1人の子どもがいます。全部の時間ではありませんが、より質の高い家族との時間を取れると思っています」

――(当方質問)クボタの現状をどう見ていますか。最初に着手すべきことは。

「可能性のあるチームだと思います。ただ、例えば60分、65分、試合をリードして、最後に逆転されることが多い。それはフィットネスの問題か、どうゲームを締めるのかの理解が足りないのか…。そのあたりが、最初のフォーカスポイントになると思います。

そして次のシーズンにもっとよくなるために、ボールの保持率を上げないといけない。昨年は大事なラインアウトでボールを失ったりしていた。スクラムでもポゼッション(保持率)を上げないと。特別なスキルを持った選手がブレイクダウン(接点)でボールを取り返すことも必要になってくると思います。しっかりボールを持って相手にプレッシャーをかけて、コンタクトの際もしっかりボールをキープすることも重要です。

また、もっと戦略的にキックを蹴らないといけません。そうでなければ、ただ私たちがボールを失うだけです。ボールをどう取り返すか、私たちにとってのいいアンストラクチャー(お互いの陣形が乱れた状態)を作れるか…。そうしたプランを考えながら蹴ることが大切です」

――(当方質問)スタッフとの役割分担は。

「まず石川さん(充ゼネラルマネージャー)が素晴らしいマネジメントをしてくれ、経験のあるスタッフを集めてくれました。

アシスタントコーチのジョン・マクファーレンは、過去に4年間、一緒にブルズでコーチをして、成功を収めています。お互いの理解ができている。彼には国際的な経験もある(元南アフリカ代表アシスタントコーチ)。スクラムハーフのパス、戦略的なキックの部分、そして元フッカーなのでラインアウトのスローイングを指導してもらいます。

ソークス(アランド・ソアカイ)は今季からフルタイムのフォワードコーチに、栗原喬はバックスコーチに就任しました」

――今季の目標は。

「メディアの方に想定でお話はしたくないですが、成長をしなくてはいけないことは言える。クボタは、選手や施設に大変な投資をしてくれている。前任者もハードワークをした。どんどん戦えるチームになって、結果を継続させる。そうすれば、勝利は後からついてくる。そこはお約束できます」

――日本には南アフリカ出身のコーチが多いです。どのコーチに負けたくないか。

「自分自身だと思います。対戦相手が我々にチャレンジをしますが、彼らのことはコントロールできない。そんななか、私たちが勝ち続けるには何が必要かを見続けていくことが大事。なので、ライバルは私たちになると思います」

――教師の経験について。

「9歳以上の子どもを対象に、パブリックスクールでテクニカルドローイング、シビルエンジニアリングを教えていました。現役時代は、大学生の頃からライオンズでプレーをしていましたが、21歳の頃からは選手を続けながら教師をしていました。10年程です。

コーチは、先生でなければいけないと考えています。複雑なことを簡単に教えたり、学びの早い人、遅い人、それぞれにどう教えてゆくかを考えなくてはならないからです。他にも見て学ぶ人、聞いて学ぶ人、感じて学ぶ人と、それぞれに合った指導も必要です。その意味では、コーチにとって現役教師の経験が必要かと思います」

――ラグビー人気が高まる中。どんなプレーを見せたいか。

「観客が何を楽しむかは、その土地によって違う。それを知らなければ。イギリスはスクラムが大好き、クロスゲームを楽しみます。スーパーラグビーはボールが動いているところが楽しまれます、トライで盛り上がります。日本のたくさんの人に観てもらって、何で盛り上がるのかを知る必要があります。私たちは、成功するためのブランドを作らないといけない。どうやって勝つのかというブランドです」

――2019年のワールドカップ日本大会に向け、どんな貢献をしたいか。

「まず、競争性を高めたいです。タフな相手と戦う時、しっかりとした準備が必要。その質がテストマッチ(国際間の真剣勝負)と同じレベルになれば、どんどん緊張感が生まれます。

各会社がトッププレーヤーを呼んでいる日本ラグビー界で、我々がレベルを上げていい試合をする。そうすれば、周りのチームはもっといい準備をしなければならなくなる。そうしてレベルを上げていきたいと思います」

――イングランド大会で、過去優勝2回の南アフリカ代表が日本代表に32―34で負けました。そんななか、日本のチームを率いる。母国での反響は。

「その時、私はフィジーにいました。…ジョークです。ただこういうことは起こり得ます。いい状態で準備をしないと、負けます。確かに南アフリカの人たちは、誰もがスプリングボクスが勝つと思っていました。ただ、ジャパンはベストゲームをしました。74分まで南アフリカが勝っていましたが、ミスが多かった。日本に勝つ資格がありました。ちなみに今度の就任は、南アフリカの誰にも言わないでここへ来ました。この記者会見を受けて、何か意見が出てくると思います」

――(当方質問)世界中の勝てるコーチに共通項はありますか。

「ほかの方のことはお話しできませんが、いろんな本を読んできた限りではこういうことが言えます。『負けは自分の頭に、脅威は心に残す』。負けることもありますが、そこからどう盛り返すか。それが大事だと、学んできました。

ビジネスの世界でも同じだと思いますが、社員と正直なコミュニケーションを取って、プライド、労働倫理を持たせ、成長させることも大切です。その環境を整えていきます。

ここから正義が生まれます。正義がないと、会社は回りません。ラグビーに置き換えると、正義はプレースタイルにあたります。そのプレースタイルの確立が、勝つ文化を作ることにも繋がります。人、環境、プレースタイルが大事です。

あとは、正しい船に正しい人をに乗せ、間違った人は船から降ろすことも大事だと思います。

目指すビジョンに向け、コミュニケーションをとりながら周りを引っ張る。それは、経営者の方にも共通する要素だと思います」

――(当方質問)スーパーラグビーに日本から今季初参戦するサンウルブズについて伺います。消滅する可能性があった発足前と、発足してシーズンを戦ういま、どう見ますか。

「全ては、昨年のワールドカップからスタートしています。日本代表がプライドを持ってあの結果を出した先で、色々なものが始まっています。いまはマーク・ハメットヘッドコーチが環境を整え、選手に合ったスタイルでプレーしています。ボールをキープしながらプレーする、と。チーターズともいい試合をしました(3月12日、31-32と肉薄)。経験を積むなか、強度、判断、スキルレベルを身に付けてゆくのではと思っています」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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