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サンウルブズ最年長の大野均、南アフリカ代表に勝つ自信はなかった。それでも…。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
サンウルブズでもいい「風景」を。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

世界最高クラスのスーパーラグビーへ日本から初参戦するサンウルブズに、37歳のロックがいる。

大野均。日本代表として歴代最多の96キャップ(国際間の真剣勝負への出場数)を誇るチーム最年長選手だ。

地元の福島県郡山市にある日大工学部キャンパスで楕円球と出会うや、人づてに入部試験を受けた東芝で一気に台頭した。身長192センチ、体重105キロという体躯と恵まれたスピード、「考えるのではなく、走りながら考える」という献身的な資質が買われており、朴訥な人柄と酒豪ぶりから人気も高い。

9、10月には、4年に1度のラグビーワールドカップに3度目の出場を果たす。イングランドでおこなわれた大会では、過去優勝2回の南アフリカ代表との初対決で大会24年ぶりの白星を獲得。その後も快進撃を続け、歴史的な3勝を挙げた。

現在はサンウルブズの沖縄合宿に参加中だが、国内所属先の東芝にてイングランド大会前後のジャパンについて振り返っている。当時のチームが事前合宿の最中、大野はサンウルブズ入りを決めている。

以下、1月中旬の単独取材時の一問一答(一部)。

――改めて、4月からの宮崎合宿について伺います。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、早朝練習を含めて1日3、4度もセッションを選手に課していました。誰もが過酷だったと話していますが。

「修行ですね。人生のなかでこれほど汗をかいて、ラグビーだけに特化した生活を送るって、そうそうないだろうな、と。トッププレーヤーたちとそんな時間を共有できていることを、逆にポジティブに捉えました。宮崎のいいホテルで何か月も滞在しながら、自分の好きなラグビーをできている、と。キツイとか、辛いとか、そういうマイナスの面もありますけど、プラスの面もある」

――お酒なんか、飲めないような。

「飲んだりもしてましたよ。同じ部屋に宇佐美(和彦、23歳、ロック)がいて、『飲む?』って聞いたら、『いただきます』と。そこへ真壁(伸弥、28歳、ロック)が入って、伊藤鐘史(ロック、当時34歳)が入って来て…」

――次の日は朝5時から練習。

「だからそんな深酒はせずに10時ぐらいに解散して。そんな感じです。もちろん、毎日飲んでいたわけではないですよ。コンディションに合わせてです」

――…なるほど。試合がなく、多くの選手が「先が見えない」と言っていた6月は。

「ウェイトトレーニングの数値が目に見えて上がっているのがわかったので、やりがいは感じていましたよね。重りをつけて懸垂をするんですけど、去年は20キロで4回するのが精いっぱいだったところ、今年は40キロをつけて4回。ベンチプレスもそうです。昔、ニュージーランドへ留学していた時があったんですけど、やることがないから毎日ウェイトトレーニングをしていたら数値がバーッと上がって。今回も、その時と同じぐらいの重量ができるようになった。一度、ウェイトトレーニングをしたら休まなければいけないとよく言われますが、この時は1日に3回もやっていました。それでも…。宮崎合宿は、それまでの常識が覆された期間でもありました」

――当時は、右手の甲を骨折したまま練習をされていたと。

「あ、まずいな、とは感じましたけど、それを理由にして練習を休んで、31人(大会最終登録メンバー)に入れなかったら悔しい思いが残る。痛いのは痛いですが、まぁ、ラグビーやってりゃみんな痛いんで。幸い、足とかじゃなくて、手の甲でよかったなと。まぁ、プラスの面に集中しながらやっていました。マイナスの面だけを考えていたら…それこそ鬱になりそうだったので」

――やはり、過酷であることは確かだったわけですね。サンウルブズ入りの話も、この時期に決めています。

「代表チームの拘束期間が長いなか、次のスーパーラグビーのチーム(のちにサンウルブズと名称決定)のディレクターにエディーさんがなる、と。来年もこんな生活が続くのかと尻込みした選手も多かったんです。そんななかで、日本協会(または運営組織のジャパンエスアール)の動き出しも遅くて。8月末のデッドライン近くになって、選手を最低25名はプロテクトしないと…(チームが消滅する)という段階になって、急きょ自分にもオファーが来た。今年の春夏みたいな合宿をもう1回というのは…という思いもあったのですけど、もし自分がそのオファーを断って、人数が揃わずにサンウルブズが消滅したら、悔いが残る。日本ラグビーへの恩返し。こういう状況で自分を使ってもらえるのだったら、喜んで、という形で契約しました」

――サンウルブズの命を繋ぎ、現地入り。そして迎えた9月19日、ブライトンコミュニティースタジアムで南アフリカ代表と戦います。帰国後、別のインタビューで「もし、ここまで猛練習をして南アフリカ代表に勝てなかったら、日本が世界に勝つ日はやってこないのでは」といった内容の話をされていました。重い言葉です。

「イングランドに入ってからですね。ふと、南アフリカ代表戦を前にそんなことを考えた時に、漠然と不安が出てきたというのはありましたね。1年前に戦ってスクラムを粉砕されたジョージア代表(9月5日、グロスター・キングスホルムスタジアム)との試合でスクラムを押して…。その部分での手応えはありました(13―10で勝利)。やってきたことは間違いではなかったという手応えです。ただ、自信というものはなかったですね」

――結局、34-32で白星を掴むわけですが、勝利への手応えを掴んだのは。

「こちらがペナルティーを犯した時、相手がショット(ペナルティーゴール)を狙ってきたところですかね(後半32分、29-32と勝ち越された場面)。あそこは(ラインアウトを選択され)モール組まれるのが一番、嫌だった。

日本代表には、後半途中まではいい試合をするという歴史があった。前半をいい試合したからといって後半も…とはならない。

南アフリカ代表は最初、大差で勝ってやろうという意気込みで来たと思います。ただ、途中から僅差でもいいから勝ち逃げしようというメンタルが見えてきた。イケる、と言うか、いままでとは違うなと感じました」

――最後はノーサイド直前に、劇的な逆転トライを決めます。

「(キャプテンでフランカーのリーチ)マイケルは、(敵陣ゴール前で相手が反則した際)スクラムを選択して、トライに繋がる一連の攻撃のなかで、3回もボールを触っているんですね。それまで南アフリカ代表を相手に身体を張ってきて、80分を過ぎても(ロスタイムに入っても)少しでもボールを前に持っていこうとする…。その姿に、そのプレーに、涙が出そうになりましたね」

――ノーサイド。実際に感涙されていました。そして10月3日の第3戦目。サモア代表を26-5で倒したゲームが、大野選手にとってのイングランド大会のラストゲームになりました。

「サモア代表はフィジカルで日本代表を圧倒し、いらんことをして日本代表に精神的なダメージを与えようとしてきたんです。ただ、日本代表はそれを冷静に対処して、逆にサモア代表が熱くなって、シンビン(一時退場処分。最大で2人同時に退いた)を出して。日本代表がレフリングに対処できたのも大きいですね。

自分は前半の最後の方のプレー、あの山田(章仁、30歳、ウイング)のトライ(右タッチライン際で身体を回転させながら相手をかわす)に繋がる一連の攻撃が始まる前に、肉離れをしちゃって、もう、後半はプレーできないな、と。

それこそ怪我した瞬間、筋がバチっと行った瞬間、あぁ、もうこれで自分のワールドカップは終わったな、と。でも、まだプレーは続いていて、すぐに交代できる流れではなかった。逆にそれをラッキーと思った。この試合で悪化してもいいから、最後まで走り続けよう、と、攻撃に参加していたら、山田がトライを取ってくれて。あぁ、ホッとしたなと思って、グラウンドを去りました」

――当時は10月12日のアメリカ代表戦(グロスターはキングスホルムスタジアムで28-18と勝利)の勝利と他会場の結果次第で、決勝トーナメントへ進む可能性がありました。結局は、アメリカ代表戦前日に挑戦権を失うのですが…。

「あとあと調べたら(翌日に病院で検査)、肉離れは次の決勝トーナメントまでには治る怪我でした。決勝トーナメントには行けないからと言う気持ちは…なかったと言ったら嘘ですけど、それ以上に、まずはアメリカ代表に勝って、胸を張って帰ろうというだけでした。ワールドカップの思い出…。どれを挙げろと言われても難しいのですが、最後、帰りのバスに乗ってヒースロー空港に向かう時、酒を飲みながらどんちゃん騒ぎをしていたところが、いい風景だったなというところです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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