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24日、トップリーグプレーオフ決勝。パナソニック対東芝戦を占う3つの視点【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
前回対戦では引き分け。東芝のリーチ(中央)はパナソニックにとって要注意人物。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

日本最高峰であるラグビートップリーグの決勝戦が1月24日、東京は秩父宮ラグビー場でおこなわれる。2連覇中のパナソニックと3季ぶりのファイナリストとなった東芝が激突する。

昨年9、10月のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げた日本代表のメンバーは、両軍合わせて10名もいる。他の強豪国代表経験者も居並んでおり、ボールのある場所でもない場所でも、苛烈なつば競り合いが重なるだろう。

<特徴><対策><背景>という3つの観点から、決戦を展望する。

<特徴>

パナソニックは、ロビー・ディーンズ監督らスタッフ陣と選手が練習のスケジュールや強度についてフラットな目線で議論。就任3年目の堀江翔太キャプテンが控え選手の目立たぬプレーを褒める環境下、攻守の戦術略を高いレベルで共有している。

怪我から復帰した日本代表ウイングの山田章仁と、その山田を控えに回して先発するウイングの児玉健太郎は、揃って「チームの歯車になる」と発言。司令塔が放つキックパスへの反応や、相手の蹴ったボールを確保した後のランニングコース(グラウンドの真ん中に突っ込んで、他選手が左右に陣形を作るよう促す)などに、その意を表す。的確なキックでチームを敵陣へ運ぶ元オーストラリア代表スタンドオフのべリック・バーンズも、蹴るべきスペースを指示する後方の選手に感謝を惜しまない。

色彩豊かな才能が並ぶ。元オーストラリア代表ロックのヒーナン ダニエルや日本代表ナンバーエイトのホラニ龍コリニアシは、斧のタックルで攻守逆転のきっかけを掴む。キャプテンの堀江は縁の下を支えるフッカーでありながら、相手を自分の目の前に引きつけながらのパスやキックで魅せる。

「1人が判断したら、それに付いていこう、という話はしている」と船頭。システムの概要を把握し合った実力者同士、互いを尊重して勝利を目指す。

東芝では、今季ヘッドコーチから役職を変えた冨岡鉄平監督が各スタッフの特徴を活かす。ファンの間では熱血漢で知られるボスだ。しかし、現役時代にともにプレーした間柄の中居智昭フォワードコーチ曰く、「ち密。交通整理が上手です」。

肉弾戦へのこだわりは伝統的な部是で、それこそ中居コーチが「それぞれのシチュエーションで、もっとも力強さを出せる体勢」でのコンタクトを意識づけ。結果、新人王候補のロック小瀧尚弘は、球を持った相手を抱えて締め上げるチョークタックルを「小瀧上げ」なる必殺技に昇華した。「小瀧、凄いですよ。掴まれたら、外国人も動かないですから」とは、スタンドオフの森田佳寿キャプテンである。

もう1人のロックである梶川喬介副将は、相手の足元へ遮二無二ぶっ刺さる。フランカーの山本紘史は、視界に入った地面上のボールへ果敢に噛みつく。左プロップ三上正貴、フッカー湯原祐希、右プロップ浅原拓真の息の合ったスクラムワークは伝統芸の域だ。

好守両面で、組織が再整備されている。今季からジェームス・ストーンハウスが就任した影響か、対戦相手のセンター林泰基にも「(連続攻撃によるトライシーンについて)そこまでの過程がうまい」と目されている。仕留め役は元ニュージーランド代表のアウトサイドセンター、リチャード・カフィ。南アフリカ代表経験者のフルバック、フランソワ・ステインは、短い脚の振りで大きな弾道のキックを放つ。

そして、クレバーかつ質実剛健な部風を象徴するのは、ナンバーエイトのリーチ マイケルだ。相手の堀江から「淡々と、ずっと仕事をしている」と称賛される。

先のワールドカップでの南アフリカ代表戦。試合終盤の敵陣ゴール前右、足がつった状態なのにスクラムを選択し、そのスクラムから出たボールを追って左タッチライン際に走る。パスをもらう。相手とぶつかった時に、また足がつった。どうにか球を味方に託した先で、ロスタイムの逆転トライが待っていた。

<対策>

両陣営とも、「いままで積み上げてきたものを発揮する」と発言する。東芝の冨岡監督の言葉通り「ラグビーに番狂わせはない」なか、各チームはいかに本来の戦術や技能を発揮するかに注力するのだ。もっともそれと同時並行で、いずれも相手の研究を入念におこなっていよう。まして両チームに散らばる日本代表勢は、ワールドカップでは自発的に対戦相手のプレースタイルや癖を分析。ゲームプラン構築に生かしてきている。

昨年12月12日、秩父宮であったリーグ戦での直接対決は17-17と引き分け。12月の直接対決で終盤に追いついた格好の東芝では、山本紘、リーチが低い前傾姿勢で地面上の球に絡みついた。それを受け、パナソニックは球を隠しながら相手と当たる技術、低い姿勢での素早いサポートを改めて再徹底するという。

かたや東芝は、パナソニックの組織的な防御を破る手法をどこまで徹底できるか。過去のチームが試みたおもな手段は「極端に前へ出る外側のタックラーの背後へのキック」だが、突破役のカフィは言う。

「まずは1対1でゲインライン(攻防の境界線)を越えていかないと」

タックラーとぶつかったのち、サポート役の力を借りて1歩でも前に出る。前に出る際は1人でも多くの防御役を接点に巻き込む…。そうしてパナソニックの守備網を作る人数を減らし、エースランナーの走路を創出したいところだ。

一方、パナソニックのキーマンを問われた冨岡監督は、「9番」と発す。9番(スクラムハーフ)の田中史朗は「(相手を引きつけて)スペースを作って(味方を)走らす」という動きを、その場にあったテンポで遂行する。相手ボールラインアウトの折に大きな声を出してサイン交換を邪魔するなど、あらゆる合法的手段を駆使して白星に執着できる。守ってもピンチの場面の接点へ臆せず身体を突っ込むのだが、それについては、かえって本人は反省している。

「(接点へ)入り過ぎのところがある。そういう時に裏を蹴られたりする。もう少し、周りを見ながらやりたいです」

東芝としては、果敢にぶつかる田中のジャージィを接点で掴み、その背後へステインらが鋭利なキックを放つなどの脚本も用意しているだろうか…。

もっともパナソニックは、先方の立てそうな仮説だって織り込み済みである。センターの林は、今季のリーグ戦を振り返ってこう語っている。

「チャンピオンである僕たちに、相手が凄いチャレンジをしている。分析をして、こちらの弱みを突こうとしている。裏を蹴られるのは、神戸製鋼(準決勝で対戦)にもクボタ(リーグ戦終盤で苦戦)にもやられている。僕らとしてはやることは変えず、(飛び出した選手が蹴られたらすぐに背走するなど)1人ひとりの運動量を増やす」

研究と対策の範囲は、笛にも及ぶ。東芝のリーチはジャパンの躍進の背景に「レフリーと上手くコミュニケーションが取れた」ことを何度も挙げている。当日の担当レフリーの笛の基準や性格は、事前に下調べする。両陣営のジャパン組には、その癖がついている。

決勝戦を担当するのは戸田京介氏だ。堀江曰く「いらんペナルティー」からシーズン序盤の失点を招いたパナソニックでは、貞廣泰彰チームレフリー兼ITサポートが厳しく取り締まる反則の種類などを選手にリポート。当日は、試合中の粛々としたやりとりが必要だとしている。堀江は「どの試合もそうですけど、セルフジャッジをしない(笛が鳴るまでプレーをやめない)でしっかりとレフリーとコミュニケーションを取りたい。(相手のジャッカル対策は)ボールキャリーが仕事をして、サポートも速く、と。それができていない場合はレフリーからも言われると思うので、グラウンド上で対応したい」と話した。

<背景>

パナソニックの田邉淳バックスコーチは、チームの特徴である守備についてこんな話をしていた。

「必要なものは3つあると、僕は思う。個々のテクニック、システム、あとは、ココ。決勝でどれが一番、大事か。テクニックは急に上がらないし、システムは変えられない。となると…。責任を持って、自分のためではなくチームのために身体を張る。それがどれだけできるかってことです」

戦術略の構築や対戦相手の分析を突き詰めるもの同士のゲームだからこそ、個々の「ココ」、すなわち選手の精神の充実ぶりも重要項目に昇華される。

19日、多くのメディアが集まる都内での決勝戦前共同会見。東芝の冨岡監督が親会社の不適切会計問題発覚とその後の苦境ぶりについて語った。

「そんななか、我々は何が表現できるのか。それは日本ラグビーが変革期を迎えるいま、先頭を走ること。さらに勝利をもって笑顔を作ること…。勝つための大義は明らかでございます」

現役時代はレギュラー定着前の2002年度からキャプテンを務め、5シーズンで7個の国内タイトルを手にした38歳。熱血漢というパブリックイメージと、何より「ち密」という側面を併せ持っている。チーム内でも折に触れかようなメッセージは発しているというが、公の場で、かつ質問をされる前の発言だったことに妙味がありそうだった。

――どうですか。

そう問われた森田キャプテンは、黙って笑っていた。

部員のトラブルが起きたシーズンに優勝した過去もあるだけに、会見後、パナソニックの堀江は「ああいう時の東芝って、強い。メンタルの用意もしとかんと、やられちゃう。少しでも勝てるやろうと思ったら、勝てない」。チームメイトには、「毎練習、毎練習、いいメンタルで」との声がけをして当日に備えるという。

「ビッグゲームの前ほど、それが難しくなる。先々のことに気持ちが行かないようにしたい。まぁ、僕が言わなくても、そういう話は他のプレーヤーもしてくれていますよ」

堀江としばし意見交換をするフランカーの西原忠佑は…。

「どっちかと言うたら、相手には燃える要素がある。こっちはそれがまだない。当日までに、どうするか」

勝敗予想がしづらい、接戦必至のファイナル。一瞬、一瞬ごとの心身のありようを凝視されたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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