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帝京大学の7連覇? 東海大学の番狂わせ? 大学選手権決勝プレビュー【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
大会注目選手の1人、帝京大学の竹山。(写真:アフロスポーツ)

6年連続王者の帝京大学に東海大学が挑む大学選手権決勝戦は、1月10日、東京は秩父宮ラグビー場でおこなわれる。このカードがファイナルに組まれるのは、赤いジャージィの覇者が連覇を開始する2010年1月10日以来となる。

王者の帝京大学は有望な選手が集まる前から、段階を追ってウェイトジムを整備。岩出雅之監督が教授を務める大学の医療技術学部と連携を図り、血液検査や栄養管理などフィジカル強化の過程に芯を通した。おおよそ3連覇時の新人の代からは、全国の有力選手が相次ぎ入学希望を表明するようになった。分厚い選手層と繊細な育成計画のコンボで、学生界にあってはほぼ敵なしの状態にある。

かたや青いジャージィのチャレンジャーも体育学部の授業と連動するなどして筋力トレーニングを徹底。全国的強豪の東海大仰星高校など付属校の選手などを口説き、安定的な選手育成を実現している。筑波大学との前年度の選手権準決勝で終盤に逆転負けを喫したのを受け、今季は練習の合間のフィットネスセッションを採用。ベースアップに挑んできた。

端的に表せば、今度のビッグマッチは、身体づくりから逃げなかった者同士の合戦。昨今の楕円球界における流行語を用いれば、ストレングス&コンディショニング(S&C)に注力したクラブによるコンペティションとなる。東海大学体育学部教授の木村季由監督兼ゼネラルマネージャーは、こう解説する。

「いまはS&Cという言葉が流行っているいま、それを無視して強化しているチームはさすがにないと思います。ただ、そこに、どこまで時間とエネルギーを使っているかに尽きる。少なくとも我々はそこにこだわってきましたし、どこよりもそこに力を入れてきたのが帝京大学さんです」

優勢なのは帝京大学か。総じて1対1のぶつかり合いの際の推進力と、その後のサポートの速さと妥当性(確実に相手を引きはがす角度)に長ける。今年度、東海大学とは2度の直接対決をしている。5月24日に東京は帝京大学グラウンドであった春季大会は、59―19で帝京大学の勝利。同会場でメンバーを入れ替えつつおこなった7月19日の練習試合は29-19と、こちらもやや相手に持ち味を出させながら勝利している。

左腕の故障から復帰のフッカー坂手淳史キャプテンはリザーブスタートも、飯野晃司と金嶺志という3年生の両ロックは、大一番(またはトップリーグ勢との練習試合)で強烈なタックルを繰り出してきた。特に飯野は、東海大学のフランカーの藤田貴大に「ずっと声を出してチームを盛り上げている印象」と、リーダーとしての資質を警戒される。仕留め役は新人ウイングの竹山晃暉だ。選手権通算最多トライ記録更新(12)に大手をかける。相手の死角へ駆け込むためのポジショニングなど、無形の力を示す。

2015年11月29日、東京と八王子市の上柚木陸上競技場。関東大学対抗戦Aの一戦で、筑波大学に敗れたのだ。17―20。タックルした選手が起き上がりながら相手のサポートにぶつかる異質な防御方法に、帝京大学の選手が面食らった格好か。「それをさせないように、と練習していたつもりなのですけど、勢いが足りなかった」とは、元気印の飯野である。

もっとも、この敗戦を受け、新人の竹山は「ここから、もっと強くなるなと思いました」。事実、肉弾戦へのこだわりを再点検。岩出監督による「(黒星で)気持ちが入ってきた」という公式談話には、少なからぬ裏付けがある。

正月2日の選手権準決勝では大東文化大学に33失点を喫するなど、守備の綻びは散見される。秋口の試合で守備時間が少なすぎたことから、用意された守備組織の連携がやや淡泊になったと指揮官は見る。坂手キャプテンは「そこはコミュニケーションであったりタックルのミスであったり…。自分たちのいままでやってきたことを確認します」。夏場におこなったサントリーやパナソニックとの練習試合では、強烈なタックルと守備組織形成の合わせ技を示している。大東文化大戦の得点は、68。球さえ失わなければ、点を取る道筋を容易に立てる。

大番狂わせを狙う東海大学は、まず肉弾戦での真っ向勝負を希求。まずはランナーにタックラーが鋭く刺さるのを前提とし、「ファーストタックルが刺されば、帝京大学さんはゆっくりの攻撃になってそこで持ちこたえれば…(実際には、より具体的なプレーについても言及)」と藤田主将。プレーの起点であるスクラムには自信を持っており、軸の右プロップの平野翔平は「どっか崩さないと、相手は慌てない」。8人全体のまとまりを強調する。

一部報道によれば、7日の練習で帝京大学のフルバック森谷圭介が故障。東海大学にとっては、相手のロングキッカーが1人減った印象だろう。

対するフルバックの野口竜司(危機管理力とボディーバランス!)は、かねて「うちにはいいフォワードがいるので、できるだけ前(敵陣の深い位置で)ゲームをしてあげることが大事」と話していた。敵陣の深い位置で球をもらえば、俊敏性のあるスクラムハーフの湯本睦とインゴールまで走り切れるウイングの石井魁副キャプテンらが、間隙を縫うように得点しうる。

左ひざ前十字靭帯の断裂から復帰して間もないNO8テビタ・タタフは、1月2日、明治大学との準決勝で2トライを挙げた。28―19。途中出場から途中退場という起用法はこの日も不変だろうが、木村監督は「それまで、前半のメンバーが頑張ることが条件」と語る。結局のところ、序盤から能動的にタックルを決めさせるほかない。

なお、帝京大学の強さを示す逸話が、神奈川にある東海大学の練習場に落ちていた。

主力格の練習が終わった頃、控えの部員があたりをせわしなく動いている。どうしたの、と、チームメイトに声をかけられたその青年は、「帝京の人が来ているかもしれないから、周りを見ておけって言われてる」と答えていた。この日のセッションに偵察部隊がいたかどうかは知らない。ただ、相手にそれを警戒させたのは確かだった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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