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日本代表マルク・ダルマゾコーチ、ワールドカップ2戦のスクラムの深層語る【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
就任2年目の某日、「おはようございます」と日本語であいさつしただけで選手は驚愕。(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

スクラム。ラグビーで軽い反則が起こったあとに発生するプレーだ。

フォワードのポジションを担う大男たちが8対8でがっぷりと組み合い、その足元へ球を転がす。攻防の起点となるセットプレーのひとつで、球を回すバックスの選手はスクラムの5メートル後ろでプレーしなければならない。単純計算でいえば、スクラムが1センチ前に出れば、チームは5メートル前進できることとなる。ボールを前に投げられない陣地取りゲームのラグビーにあって、スクラムは勝敗の鍵を握る。

海外列強国と比べ体格差に劣る日本代表は、この領域をやや苦手とする傾向にあった。しかし、スクラムは単純な力比べではない。チーム間のまとまりや押し込む方向の統一化、レフリーや相手との駆け引き次第で勢力図は変わる。ビジネスシーンなどで「ここはひとつ、一丸となってスクラムを組もう」といったたとえ話が成立するのも、こうしたスクラムの原理原則を鑑みれば納得だ。

現在、4年に1度のラグビーワールドカップに挑んでいるラグビー日本代表は、「我々はスクラムも強みにしています」とエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)。昨年、テストマッチ(国際間の真剣勝負)で11連勝を決めた背景にも、フォワード8人が一体となったスクラムがある。

指揮官のオファーを受けてスクラム強化に専心するのが、元フランス代表のマルク・ダルマゾスクラムコーチだ。いつも何かをぶつぶつ呟く風体が、周囲と一定の距離感を保つ。

組み合った選手同士がシーソーのように押したり引いたりを繰り返す。組み合う選手の上にコーチ自らが乗りかかる…。一体となるための強固なバインド(お互いを掴み合う動作)を醸成すべく、手を変え、品を変え、鍛錬してきた。予定された練習時間は平気で伸ばした。時間管理を徹底するジョーンズヘッドコーチにも、それを認めさせた。

南半球最高峰スーパーラグビーを経験したフッカー堀江翔太副キャプテンの試合中の対応力にも助けられ、ジャパンのスクラム強化を大きく後押し。そんな伯楽が、25日、メディアの共同取材に応じた。

以下、一問一答を編集。

――いつも、スクラムのことを考えているように映ります。休みの日もそうですか。

「スクラムのことを考えますね。やっぱり。1年後、1か月後、2週間後、1時間後、このスクラムはどうなっているのか…。考えますね」

――(当方質問)トレーニングでは徹底して細部にこだわる。各ポジションの足や腕、首の向きまで口を酸っぱくして修正する。なぜ、細部が大事なのですか。

「スクラム、ラインアウト(タッチライン際からボールを投入し、互いが空中などで競り合うセットプレー)などなど、ラグビーはさまざまなパートに分かれています。チームのパフォーマンスを上げるためには、それぞれのパートを正確にやり抜くことが必要ですね。選手にはできるだけ細かい情報を与えて、ゲームの様々な状況に対応してもらう。それが目的です」

――指導を始めた2013年以来、日本代表のスクラムで最も成長した点は。

「フィジカル面ですね。かなり強くなったと思います。そのなかには、色んな人の努力が詰まっています。JP(ジョン・プライヤー ストレングス&コンディショニングコーディネーター)による強化の功績がまずあります。チーム全体の努力が実を結んだということです。

また、低さで勝負ができるようになった。日本人は、体質上、低く、いい姿勢が取れます。それで、相手にプレーをしにくくさせられます」

――昨秋の欧州遠征、敗れたジョージア代表戦(11月23日/ミヘイル メスキスタジアム/●24―35)。ここで押されたスクラムをどう改善したか。

「特に、フィジカル面を強化しました。技術面では、ジョージアが独特な押し方をしてきたんですね。それに対応したから、今年の9月5日にジョージア代表ともう1度、試合をした時に上手く対等に組めたと思います。それだけが理由ではありませんけどね。常に自問自答しながら、これでいいのか、これでいいのか、と考えてきました」

――ワールドカップ。ジャパンはここまで1勝1敗。9月18日の南アフリカ代表戦(ブライトン)は34-32で勝利し、続く23日のスコットランド代表戦では10―45(グロスター)で敗れました。この2試合でのスクラムへの評価は。

「選手たちはスタッフの期待に応えてくれています。ただ、もっとパフォーマンスを上げたいと思っています」

――過去2戦。よかった点と悪かった点。

「スコットランド代表戦。相手ボールのスクラムでペナルティーをたくさん取られましたね。それがどうしてペナルティーだったのかが僕には理解できなかった。レフリングへの注意も払いましたが、この試合では、我々がペナルティーだったことを相手がしても、ペナルティーにならないことがありました。これは、レフリーを批判しているのではありません。私たち側の解釈の方法を変えて、早急に対応策を立てなきゃいけない。信頼できるレフリーにビデオを送って、相談、解析したいと思います。レフリングを理解することで、対応しやすくなりますね。

よかったと思えたのは、南アフリカ代表戦の最後のスクラムです(ノーサイド直前の逆転トライに直結)」

――(当方質問)もっともスコットランド代表戦では、前半20分台あたりからスクラムを修正していたように映ります。押し込まれていたのが、ほぼイーブンに変わりました。

「スコットランド代表戦に向け、事前に『相手はこうだから、こういう押し方をしていこう』という話はしていました。しかし、実際の試合では違う組み方をされたんです。選手は試合中、そこへ対応したようです」

――次のサモア代表に対しては。

「試合は毎回、毎回、違う。しっかりと準備をして、ひとつひとつ(の動作を)、正確にやっていかなくてはなりません。サモア代表はパワフルです。それに対応する準備を必要があります。スピーディーに組む。3人のフロントロー(スクラムの最前列の選手)が一番力を発揮できる、正しいポジションに入る(素早く、チームで定められた適切な姿勢をとる)。スペース(相手の懐)を勝ち取る…。それが必要です。

申し上げたように、サモア代表はパワフルです。ただ、(組み合う瞬間の)スピードがあるというわけではありません。

スコットランド代表戦ではかなりペナルティーを取られました。それも、成長への過程だと思います。

ジャパンのスクラムは一貫性があります。この3年間で、急激に成長しました。それを証明するためにも、ワールドカップはいい結果で終えたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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