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「上昇曲線の坂は…」NTTコム大久保直弥フォワードコーチ、電撃移籍を語る 1【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
新天地で練習を指導する大久保フォワードコーチ。心拍数を上げ、身体を当てさせる。

日本最高峰のラグビートップリーグで、驚きの人事があった。前年度までサントリーで監督を務めていた大久保直弥氏が、今季からNTTコムのフォワードコーチに就任した。

現役時代からサントリーに在籍し、おもにフランカーとして日本代表でも23キャップ(国同士の真剣勝負)を獲得。引退後の10年度からエディー・ジョーンズ監督(現日本代表ヘッドコーチ)のもとで同部のフォワードコーチを務め、12年度より3シーズン、指揮を執った。10年度からの日本選手権3連覇、11年度からのトップリーグ2連覇に貢献した。

今年の2月末まであった日本選手権を準優勝で終え、4月1日には新天地での挑戦を発表。NTTコムの関係者は「3月中旬頃にアプローチ。サントリー側も残って欲しいという思いはあったようですが…」と証言している。

チーム合流から約1週間が過ぎた4月14日、当の本人が単独取材に応じた。席につくなり、先手を打った。

「経緯…。これを書かれちゃうとチームに迷惑がかかるから。普通の会社ではありえないことだからね。ただ、クラブの熱意に負けたということだけです」

――国内で、サントリー以外のチームで仕事をするのは初めてです。

「新鮮でしたよ。グラウンド内外で異なることは多々ある。そこは郷に入りては郷に従えで。そこに合わせて生きていく。どこに行こうが、選手の能力を引き出すのが一番の仕事。そこでコーチの環境がどう、というもの(意見)はないです。食事だって、僕が腹いっぱい食べる必要はないし。ただ、勝つというメンタリティは厳しく落とし込まないといけないし、そのために来たと思っている。いまはそこまで自分の色を出すというよりは、観察しながら。もちろん、去年の試合は全部、観ましたけど」

――NTTコムは昨季、ロブ・ペニーヘッドコーチのもと左右に球を散らすスタイルを打ち出しました。後半節のセカンドステージは上位8強のグループAに初進出も、8位に終わっています。

「フォワードの観点から言うと…。以前はセットピースからのストラクチャーのチーム。ただ去年は、その(セットピースなどの起点を担う)フォワードの力が少し分散され過ぎているかな、と。ボスがいない(ペニーヘッドコーチは5月に来日見込み)ので、そうなったプロセスはわからない。ただ、グループAに入るためのギリギリの戦いをしていたとは思うんです。次のステップへ行くには、セットピースをどう勝ちに結びつけるかが重要。いまは世界もトップリーグも、セットピースに勝つイコール試合に勝つという流れになっていて、多分、抗えない。4:6、3:7(で負けている)という力の差だと厳しい。少なくとも5:5に持っていかないと、ボールを持ってアタックすることも難しいですよね」

――ボールを大きく振る、その「手前の起点」で苦しんでいた印象もなくはない。

「面白いのは、(昨季の上位8強のなかで)一番ボールを持っていたチームがサントリーで、一番ボールを持てなかったチームはNTTコムだったんです」

――攻撃したいチームが、攻撃の機会を得られなかった。その背景は、セットプレーやブレイクダウンなどの「手前の起点」にあったのでしょうか。

「ラインブレイクやトライが目的だとすれば、そのための手段は、色々あってもいいと思うんです。ただ、いまのラグビーではコンタクトは避けられない。トップのチームのディフェンスシステム、リアクションはレベルが高いので。それで、そこへチャレンジしなければ下のチームが勝つことは難しい。だから(ラインブレイク、トライ、勝利の)手段として、セットピースの強化やコンタクトの時のサポートが出てくる。フォワードのなかでの武器を見つけられれば、自信を持たせてあげられれば…来た甲斐がある。言うほど楽な仕事ではないんですけど」

――対戦相手として嫌だった選手は、NTTコムにいますか。

「バックロー(フォワードの第3列)に運動能力の高い選手はいる。それが1~4年目に集中している。山下(弘資)、栗原(大介)、鶴谷(昌隆)。(金)正奎もそうですけど。若いフォワードで、勝ちたい意欲があって、その意欲に対して何とか(応える)…と。僕が来た理由はそこにもあると思うんです」

――将来性ある選手に勝者の文化を植えつける。

「勝つ経験のないところからチャンピオンになるための、上昇曲線の坂。ここは死に物狂いにならないと登れない。ラインアウトのテクニックにせよ、スクラムで膝を(地面にすれすれの位置まで)落とす意識にせよ、そこに妥協をしない。フォワード全員がそういうメンタルに変わらないと、難しい。僕より知識のあるコーチなんで、ゴマンといます。ただ、選手として積み上げてきて、エディーと仕事をしてきて、多くのことを学んできています。大事なことを大事だと言い続けること、勝つことへの執念…。ここでどれくらい仕事をするかはわからないですけど、そういう努力は、伝えられるかな、と。勝つこと以上に、勝つまでの努力が素晴らしい。優勝した瞬間はもちろん嬉しいですけど、飲みに行って話すのは大雨の時にした練習のこと。そういうものなんですよ」

(後半に続く)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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