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高校ラグビーのセンバツ、開幕。「飛び級」で20歳以下代表入りの中野将伍の魅力と課題【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター

身体が大きくて実直そうな若い男性は、ほぼ自動的に憧れや好意や期待の対象となる。スポーツ界ではなおさらだ。その枠組みに入りうるラグビー選手が、福岡県の東筑高校にいた。新3年生の中野将伍である。

身長185センチ、体重96キロと国際クラスの体躯。50メートル走のタイムは「6秒台前半」のようで、球を抱えてスペースを駆ければ追いすがるタックラーを次々と蹴散らす。「ボール遊びは2、3歳から」と競技暦は長く、パスやキックの技術にも定評がある。

短髪。1960年代の青春映画の主人公の顔立ちみたいな顔だち。「将来のために勉強はきちんとしておきたい」からと県下有数の進学校である東筑高校へ進み、推薦入試での早稲田大学行きを視野に入れている…。この人、広く受け入れられやすい要素の塊でもある。

――持ち味は。

緊張しつつ、端正な口調で答える。

「ボールを持った時の身体の強さ。昔から、同年代の人よりは大きかったです」

高校2年の冬から20歳以下日本代表候補となった。飛び級の格好だ。

いまの日本ラグビー界には、「実力者はなるたけ上位のカテゴリーでプレーを」という不文律がある。国際競争力の強化のための方針で、日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)も筑波大学新4年の福岡堅樹、早稲田大学新4年の藤田慶和などを招集し続けているのだ。

「身体はまだできていないのですが、彼にしか持っていない強さを活かして欲しい」

2月にこう語ったのは中竹竜二。中野を選んだ、20歳以下日本代表のヘッドコーチ(HC)である。こちらも東筑高校から早稲田大学へ進んでいる。

「ずっと高校生同士でやってきたので、これから待ち受けるプレッシャーとどう戦うか…」

3月、フィジーへ発った。「ジュニア・ジャパン」としてパシフィック・チャレンジに参戦。カナダやフィジーの代表予備軍とぶつかり合い、中野は、どう感じたか…。

30日、埼玉の熊谷ラグビー場。

高校ラグビー界における春の日本一決定戦、全国高校選抜大会の開幕戦があった。

東筑高校の副将である中野は背番号「12」をつけて先発し、埼玉県の深谷高校を相手に2トライを奪う。

特に後半16分の2本目では、この人なりに工夫を施していた。真っ直ぐ当たっては厳しいマークに潰される。だから、まずは「外」へ開く。球をもらう瞬間、「内」のスペースへ飛び込む。結果、約60メートルを独走した。

全国大会の常連である深谷高校に対し、部員数わずか21名で冬場の九州大会に出たのも今季が14年ぶりだったという東筑高校は、鋭いタックルを連発する。「ディフェンスから」。終盤は畑井雅明監督の青写真通りに試合を進めるなか、エースが仕事をしたのだ。

もっとも指揮官は「本当はもう少しボールを動かしたかった」と反省しきりだった。ノーサイド。14-14で引き分け。クールダウンをする中野も、ずっと課題を口にしていたのだった。

「ミスが多かった。マイボールを継続すれば、もっといい攻撃ができたかなと思います」

相手の守備網が揃ったところへ突っ込んだ時は、効果的なチャンスメイクをできなかった。

「組織的に足りないところがあるので、修正できるようにしたいです」

話題は、直前まで参加していたパシフィック・チャレンジにも及ぶ。

本来の強みが通用しなかった。その現実を語ったのだった。

「国内とはパワーもスピードも違った。自分はまだまだだなと思うところがたくさんあった。まずはフィジカル。1対1で当たり負けたところがある。相手が強くなればなるほど、基本どおりに低く当たらないとボールに絡まれてしまう」

身体が大きくて実直そうな若い男性は、ほぼ自動的に憧れや好意や期待の対象となる。ただ、そこで話を終わらせてしまっては自分のためにならない。中野の思いは、おおよそそういうものだった。「ディフェンスは、アタックほど得意じゃない。海外でも上(相手の胸元)に行ってとめられなかった。しっかり、下(足腰)に入れるように」とも続いた。

――中竹HCからは何と言われましたか。

「この経験を活かして、次に戦うまで何をするか。自分で考えよう、と」

以後の候補合宿への召集の可能性は、やや、流動的となろう。本人は「次」を語る。

「まずは戦える身体を作って、それと同時にスピードや、いろいろなスキルを上げる」

対戦した深谷高校の横田典之監督も、暖かくも厳しい言葉を残していた。

「いいものは、持っていると思いますよ。ただ、スペースのないなかでプレーすることに慣れていないのかな、と。周りにどういうボールが欲しいのかを言ったり、トライを取った時みたいに自分から仕掛けていくプレーをもっと増やした方がいい。止まった状態でボールをもらっていても上のレベルでは通用しないから」

中野の言う「いろいろなスキル」とは、おそらく、横田の指摘する「周りに…」「自分から…」と合致しよう。スーパーラグビー(南半球最高峰リーグ)でのプレー経験もある代表副将の堀江翔太も、「ポジショニングが全てやと思う」と強調する。好ランを導くのは、「ボールを持たぬ時」の位置取りや的確な声かけである、と。

夢がある。将来がある。同時に、受け止めるべき現実がある。その狭間で、何を思うか。中野将伍という若者は真っ直ぐに語った。

「目標は日本代表と、スーパーラグビー。ただ今回、世界と戦ってまだまだだと思った。もっと、トレーニングを頑張るだけです」

畑井監督によれば「飯は沢山、食べる。小さいころから身体は大きかったようで、サプリメントにはほとんど頼っていない」。要は、「フィジカル強化」に適した素養を持ち合わせている。あとは好選手のプレーを教科書とし、「いろいろなスキル」を磨くのみである。

選抜大会では、計8つの予選グループの上位1チームずつが決勝トーナメントに進む。グループAの東筑高校は、4月1日に関西の雄である東海大仰星高、3日に「チャレンジ枠」で参加の石巻工業高校とそれぞれ戦う。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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